陽が沈み、野営より少し外れた場所にてラハイアーとの話が行われることとなった。
私の時間が空くまで近くにラハイアーがいたのだが、刑の執行待ちをしている罪人の如く待機をしていたのだ。
詳しい事情を知らない周囲の者達がそのラハイアーを見て、一体何があったのかと様子を窺ってきている。
ここまで大ごとにする気はなかったというのに、思わぬ広がりが出来てしまい頭が痛みを訴えていた。
「全部、全部俺が悪いんです……っ!」
外れに移動して早々の謝罪に、私は出ていきそうになったため息を堪えてラハイアーを見つめる。
昨日より様子はいい方であるが、いつ咽び泣き始めるか分からない雰囲気を出していた。
ラハイアーは戦闘に関する筋が良く、周辺の人間から気にかけられていた者だった為、落ち着いた会話ができると思っていたのだが、直接対話をしないと人柄とは分からないものだと痛感した。
「……それで、お前は何をした?」
「おっ、おれは……っ! 詐欺師ですっ!」
「……、……そうか」
正直に詐欺師だと名乗る詐欺師がいるのだろうか?
あまり頭が回る方ではない予感がし、無事に話し合いが出来るかどうかが心配になってきた。
本当に詐欺師であればヘルトやあの軍師が解放軍に入れたままにするはずがなく、妹であるユッタがカテリーネ様の侍女にはなれない。
ましてやカテリーネ様の侍女についてはディートリッヒ様が殊更気をつけており、リージーも不穏な輩が近づくのを許さないのが分かっている。
「いっ、今まで! 沢山の人を騙してお金を稼いできました!! でもそれはっ、俺がやったことで! ユッタは知らないし何もしていないんですっ!!」
「……具体的には?」
「この石は高く売れると言って売ったりしました……。相手はすごく嬉しそうにしていて……」
「どんな石を売ったんだ」
「なんか青くて……、結構堅そうな石で……。あんまり見ないものだったから高く売れると思ったんです……っ」
現物を見ていない以上憶測になるが、恐らく青巌鉱石ではないだろうか?
品質を高くする際に用いられる鉱石で、市場で目にする機会は少ない。
然るべき場所へと持ち込めば相当な金額が見込めるものである。
相手が喜んでいたというのも価値を理解していたからだと考えられた。
逆に不当な金額でやり取りされた可能性が高くみえる。
他にも運搬や護衛の話などを聞いてみたが、どれも詐欺とはいいがたい。
膝をついて沢山の罪を告白したと涙に声を詰まらせ始めたラハイアーに、どう話を続けていけばいいのか考えを捏ね繰りまわしていく。
「そもそもの話だが、お前は何故詐欺をしようとしている? お前の腕ならば傭兵として生きていけただろう」
腕の立つ人間が強みを生かさず別の……、詐欺師という選ぶべきではない道を選んでいるのが不可解だった。
腕組をしながら伝えると、ラハイアーが涙で崩壊した顔で理解しがたいことを言ってくる。
「だってぇ! 詐欺師が一番強いじゃないですかぁ!!」
「何故そうなる……」
謎の理屈をぶつけられ、頭が理解するのを拒否し始めた。
ラハイアーはこれ以上話を聞けない状態になっており、やむなく本日の話は終了となったのである。
◆
先程起こった一部始終をカテリーネ様に伝えると、眉を下げて首を傾げられた。
「詐欺師が一番強い……?」
当然ながら詐欺師は強いものではなく、カテリーネ様が困惑されるのも当たり前だ。
「詳細を聞く必要はありますが、私としては『詐欺師が一番ではない』ことを納得させたいのです」
推測でしかないが、ラハイアーは己が詐欺師であることを後ろめたく思って落ち込んでいたのだろう。
そしてカテリーネ様の婚約者である私が問い詰めたことで、妹であるユッタの仕事に影響が出てしまうのではないかと思い白状をしたのではないか。
……ラハイアーはユッタは知らないと言っているが、ユッタ本人は気付いていそうではある。
あの子はそこまで頭が回らない子ではない。
結論として、私がやるべきなのはラハイアーの自認詐欺師を辞めさせることだ。
「そう、ですね……」
カテリーネ様が考え込んでいる姿を見て、非常に難解な質問をしてしまっていると今更気がつき慌てて謝罪をする。
「申し訳ございません、カテリーネ様。このことをカテリーネ様に相談してしまい……」
「いいえ、わたくしの大切な侍女であるユッタのお兄さんのお話です。わたくしも解決の一助になりたいのです、問題ございません」
「……ありがとうございます」
カテリーネ様は微笑みを返し、私の手を取って握りしめてきた。
「それに、わたくしはヴァルムント様が悩まれているのであれば、お力になりたいのです」
細い手や私を見つめる瞳から伝わってくる強さが、心に沁みてくる。
衝動のままにカテリーネ様を抱き締めると、カテリーネ様は動揺されながらも徐に抱きしめ返して下さった。
精一杯抱きしめようとしてくるカテリーネ様が心底愛おしい。
「で、では、この方法はいかがでしょうか?」
僅かに頬を赤らめながら提案された方法を、私は試してみることにした。