ひっさびさの滝はかなり強い水圧と寒さによる痛みの歓迎と共に、懐かしさが湧き上がってくるものだった。
侍女さん達にマッサージとかされてはいたけれど、基本おれを気遣って痛くならない配慮が入念にされてるからさ、ここまでの強さと痛みは本当に久々だわ。
今まで滝行してた時はさぁ、結構てきとーに「うわ〜いてぇ〜!」って思いながら済ませてたんだよねえ。
慣れたし、最終的には虚無りながら行ってた。
ルーティンに組み込まれてたから、逆にやらないとシャッキリしないまでいったからね……。
けれど今日はただ滝に打たれに来た訳じゃない。
自分の煩悩だったりなんなりを振り払う為に来たんだわ。
滝に打たれながら両手を組み、心にある澱みを水の流れと一緒に洗い流すイメージをしていく。
まっさらに、新品みたいに、気持ちという気持ちを全て綺麗に。
全身にある穢れという穢れを落とし、生まれ変わるかのような感覚を作り上げていく。
ただただむき出しの、おれという存在がそのままになれるように。
そうしてあらわれたおれの心の、魂の奥底から──
『あなたは何故思い出そうとするのですか?』
心臓から衝撃が発生したような感覚で我に返った。
……あれっ、おれどのくらい瞑想してたんだ?
なんだか……、ううう~ん……。う~ん?
ぼーっとしすぎた……、気がする。
こういう時の時間の感覚って信用ならないんだよな~。
いつまでも打たれ続けている状態だったらみんなに心配させちゃうし、とっとと出るか。
滝から離れて体が水圧から解放されると、体は軽く感じるし、体温を取り戻そうと血液をドクドクと動かしていくのが分かる。
あ~、心と体がふわっとしてて、自由になったような気持ち~!
晴れやかな気持ちのまま完全に滝から離れると、リージーさんとユッタにルチェッテが体を拭く用の布を持って近寄ってくる。
布が微妙にあったかくなっているのは、ユッタが魔法で温めてくれていたからっぽい。
その上ユッタはおれを拭きながらあわあわとした表情で尋ねてきた。
「か、カテリーネ様! 長かったですが大丈夫ですか……?」
「ええ、大丈夫です。心配をかけてごめんなさい」
おおう、そんなに長かったか……。
それじゃあヴァルムントくんにラドおじさまにも心配かけちゃったかな?
でもでもでも〜?
水に濡れたおれの姿を見て絶対ヴァルムントくんテンパってるよな〜?
ど~よ、またあの時みたいに慌てる姿を見せておくれよ~!
とんでもなく揶揄ってあげるからさぁ!
下衆な笑いを胸中でしつつチラッと2人のいる方向を見たら、ヴァルムントくんがとんでもないことになっていた。
滝の近くにいたせいか、そこそこ全身が水に濡れている。
髪の毛から水が垂れて頬につたっており、その髪の毛も若干ペシャッとなって肌に張り付いている。
しかも鎧も濡れているもんだから、いたるところで太陽の光による反射が沢山発生して輝いていた。
ただでさえキラキライケメンなヴァルムントくんが、より一層輝いて見える。
まつ毛も燦々としているし、これが本場の『水も滴る良い男』ってやつ?
しかもなんか……なんか……、完全に顔が真っ赤で、尚且つ水のせいで目元に涙がある風に見えるからさぁ……。
んで、気まずさを抑える為にかほんのり唇を噛んでるし。
だからさ、あの〜、その〜……。
……ひ、非常に、妖艶では……?
下手したら、……いや、そんなレベルじゃない。
故意に状況を作り上げたおれと違って、無意識に形成されたものだから明らかに威力が高過ぎる!
う、ううううう! 負けだよぉ、おれ負けぇ!!
おれ、ヴァルムントくんに負けたぁ! えっちさで負けたぁ!
美少女なのはおれなのに! 美少女なのはおれなのにぃ〜っ!!
天然のイケメンには勝てない〜っ!! うわぁ~ん!
おれが悔しさから思わず表情を歪ませたからか、寒さが体にきたと思わせてしまったらしい。
ルチェッテが慌てておれにしゃがむよう言ってくる。
「カテリーネさん! 髪の毛も乾かさないといけないから、しゃがんでもらっていいですか? 寒さはこういうところからくるんですよ〜!」
「あっ、すみません。少ししゃがみますね」
ある程度の水分を布で取り切ってから、元の服に着替える為に小屋へ移動していく。
小屋前までヴァルムントくんとラドおじさまも一緒に来てくれているのだが、顔が真っ赤なままのヴァルムントくんの背中をラドおじさまがパァンと軽く叩いた。
「ッ! ら、ライモンド殿、何を……」
びっくりしたヴァルムントくんがラドおじさまに問いかけても、ラドおじさまは物知り顔で笑うだけで答えなかった。
お、おじさま……? ヴァルムントくんめっちゃ混乱してますけど……?
おれもラドおじさまが言いたいこと分かんないや。
よく頑張って耐えたなってこと?
結局答えも何もないまま女性陣だけで小屋の中へと入っていき、しっかりと全身を拭いた後に元の服へと着替えたのであった。
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