着替えが終わって女性陣と小屋の外に出た時には、兵士さん達が戻ってきていて元の護衛隊形になっていた。
ただひとつ違うのは、冷静さを取り戻す時間はあったのにヴァルムントくんの顔が赤いままなことだ。
当初よりはおさまっちゃいるけどね!
それでいて、ラハイアーがヴァルムントくんを戸惑いが混じっている眼差しで見ていた。
顔をりんご色にしているヴァルムントくんを見るのは初めてだったからか?
お堅い姿ばっかり見ていただろうし、これで多少なりともイメージは崩れてそう。
おうおう! もっとおれが崩してやるけぇ〜の〜!
「ヴァルムント様、お待たせいたしました」
「いえ、問題ございません。ご準備は大丈夫でしょうか?」
「はい。……ヴァルムント様、お顔が赤いままですが……」
ヴァルムントの頬へ右手を伸ばしピッタリと手のひらをつけると、再び肌が赤みを増していって体全体に力が入っていった。
おれが冷たいのもあるだろうけど、体温たっか!
ヴァルムントくんは何秒か固まった後、おれの手を両手でそっと掴んでゆっくりとおろしていく。
「大丈夫です、問題ございません。……滝行をすべきは私の方でした」
「え?」
「いえ、なんでもございません」
滝行は魘されない目的でしたのに、おれじゃなくてヴァルムントくんがしても意味なくない?
ってよぎったものの、すぐに『色々な意味で』全身を冷ましたいのだと気がついた。
はは〜ん? ふふ〜ん? そうかそうか〜、へへへ。
まぁまぁまぁまぁ、まぁまぁまぁまぁ! おれ美少女だし? 当然だよな〜。
そろそろ可哀想だから、このくらいにしといてあげようじゃないか!
「カテリーネ様、お体にご不調はございませんか?」
「滝行は慣れております。リージーさん達に手厚い対応をしていただきましたので、きっと風邪をひくこともありません」
一度体を壊しはしたとはいえ、今は治ってきてるし大丈夫大丈夫。
ユッタがあったかい布にしてくれたしな!
元気よく微笑むと、ヴァルムントは多分おれの全身を震えていないかと観察してから頷きを返した。
「調査は今日だけではございません。ですので、道中で不調を感じましたらお申し付けください。では、祠へ向かいましょうか」
「はい」
ヴァルムントから差し出された手を取り、光魔法の使える兵士さんが先頭となって祠への道を歩いて行った。
◆
今日は入り口から黒龍がいた場所へと繋がる道の半分くらいまでを調査する予定だ。
迷路になっているから全部調べるにはかなり時間がかかるんだよね〜。
行き止まりだって分かっていても、本当に何もないとは言い切れないし……。
昔にこっそり迷路探検とかはしてたよ。
だからといって、行き止まりと分かっている場所を念入りに調べたこともなかったからさ。
宝箱がある訳でもないし。
そんなことを考えながら歩いていると、祠の出入り口に辿り着いた。
祠の出入り口付近に、見覚えのない魔法陣が露出している。
なにこれ? こんなのあったっけ?
おれが魔法陣を見て首を傾げていると、ヴァルムントくんがすごく言いにくそうな表情で説明してくれた。
「……その、そちらは私が洞窟内に戻る為に見つけ出し、書き換えた魔法陣になります」
……あっ。あ、あ〜……。
おれが罠かけて入口に戻した件だぁ……。
……気まずっ!
てか、ん? 洞窟内に戻る為に……?
送る時の目印みたいなもんだろうし、魔法陣がこっちにもあるのは分かる。
それでいてこれを使って戻ったってんなら、聞くに聞けなかったヴァルムントが黒龍の場所へすぐに来れたのも納得がいく。
あ、おれが魔法陣がここにあるって知らないのは、ゲームでは使ってもおれ自身は使ったことがなかったからだ。
いくら過疎ってる村とはいえ、誰かに見られたらまずいし……。
てか、これ一方通行のやつだったよね!?
それを、えっ? 見つけ出して書き換えた!?
嘘ぉ……という目でヴァルムントを見つめていたら、ヴァルムントは目を細めて魔法陣を見ながら言葉を続けた。
「しかし……、失敗でした。あちら側の魔法陣と同位置に移動できず、幾分か離れた場所に移動しておりました」
そこが後悔ポイントなの……?
いしのなかにいる、とかじゃなくて良かったけれどもさあ!
逸らしてくれたのか、本当に後悔しているだけなのか分からねー。
でもまあ元々興味深そうにしてたし、ヴァルムントくんの為にもじっくり見てみるか。
「あの、ヴァルムント様。魔法陣も確認いたしましょう」
「図面などは兵が取っており、魔術師が研究中ではありますが……。実物を確認されたいということでしょうか?」
「はい」
ここでヴァルムントくんの為に〜って言っちゃうと遠慮されちゃうからね。
おれも意識的に見たことはないから、ちゃんと確認したいってことにしておこう。
すんなりとヴァルムントくんは提案を受け入れてくれて、魔法陣も確認することになったのだった。
洞窟へと入っていき、石像の裏から奥へと入っていき。
迷路となっている通路の隅々まで確認する作業が始まった。
なんも置いてないしなんも変なところがない場所までしっかり確認するもんだから、結構退屈な作業になっている。
おれ達の問題が関わってなきゃ欠伸ばっかりしていたはずだ。
それでも調査をしまくってしまくってしまくった先に、それはあった。
「……こちらは一体」
ある行き止まりの土壁に小さな違和感を覚えて、指先で壁面をなぞってみると土とは違う硬い感触を感じた。
そのまま指先で土を退かしていくと、恐らく赤い宝石の一部分が露わになっていったのだ。
それが見えてからは兵士さん達がおれの代わりに魔法とかを使いつつ掘り出してくれて、その全体が見えるようになった。
それは成人男性の背丈ほど高さがある、アーチ状の扉の形をした石版だった。
真ん中に大きな赤い宝石が埋まっており、光に照らされて鈍い輝きを放っている。
兵士さんに石版の脇も掘ってもらったところ、どうやら石壁になっているみたいだった。
もしかして部屋か何かあったりする?
「奥に部屋がありそうです。……そうなりますとこれは扉、なのでしょうか?」
「開ける為のドアノブがありません、石版なのではないでしょうか?」
おれは扉とは言ったが、ヴァルムントの言う通りドアノブが見当たらず、手を引っ掛ける場所すらない。
……けどさぁ、この赤い宝石ってゲンブルクで見かけたのと似たようなものだったりしない?
地下から帰る時に赤い宝石へ魔力を注いだら、元の龍像の場所に戻れたんだよねぇ。
そう思ってヴァルムントを見ると、複雑そうな顔をしていたので同じく思い付いたみたいだった。
やっぱり赤い宝石に力を注いだら何かしらありそうではある。
とはいえな〜! 今ここでやってもいいものか。
何が起こるか分からないし……と、うだうだ悩んでいたらヴァルムントがおれの右手を左手でギュッと掴んできた。
「ヴァルムント様?」
「ご安心下さい。私が、皆がおります」
ヴァルムントも、ラドおじさまや兵士さん達も、リージーさんにルチェッテ達もおれに頷いてくれる。
そうやって気遣ってくれているのだから、おれも応えるべきだと思って頷きを返して赤い宝石に向き合った。
「……では、少し試してみます」
右手はヴァルムントの手を握ったままの状態で、赤い宝石に左手で触れる。
そうして魔力を注ぎ込んでみると、鈍い音をたてながら少しずつ左側から手前に扉として動いていくのが見えた。
下がって完全に動きが止まるのを待つと、開いた先に小さな空間が──部屋が存在しているのが見えたのだった。