ヴァルムントの指示で兵士さん達が罠などないか入念にチェックしていく。
そして1人の兵士さんが先に入っていき、中の安全を確認していった。
兵士さんは光魔法で中を照らつつ、周囲を見渡しながらこう告げてくる。
「両脇に殆どが空の棚があります。1、2冊ほど本があるだけで他に物は見当たりません。ヴァルムント様、いかがなさいましょうか」
どうやら小さな空間に見えた部屋は、両脇に棚が置いてあるから小さく見えただけらしい。
と言っても狭いのには変わりないか。
「その本を持ってきて欲しい」
「はい。一度こちらで中身を確認いたします」
兵士さんは片方の本を開き、魔術でバーッと仕掛けとかないかの確認魔法か何かをかけた後、中身をパラパラっと開いて軽く内容を見ていた。
文字に目を走らせているっぽいのに、その表情はどんどん険しくなっていく。
「どうした?」
「……読めません」
「見せてくれ」
兵士さんはヴァルムントに本を手渡してから、部屋に戻ってもう一冊の本を確認し始めた。
一方のヴァルムントは手にした本の外見の観察から入っている。
歴史が好きなだけあって、何なのか分かったりする?
近くで見る限り、年月が経ったが故に色褪せた赤色のハードカバーになっていて、相当古いのが見てとれた。
……土で埋もれてたんだし、古いのが当たり前っちゃ当たり前か。
ヴァルムントは本を回転させて細かく観察をしてから、本を開いて中身の確認に入った。
鋭い瞳で文字を追っていくが、どんどん眉間の皺が深くなっていく。
「ヴァルムント様、どうでしょうか?」
「……初めて見た文字です。多少なりとも歴史の知識があると自負しておりましたが、まだまだ未熟だったようです」
本を閉じながら「未熟だった」と言いつつもその目は輝いていて、僅かに口角も上がっているのが見えた。
知らない史料を目の当たりにして落ち込むどころかワクワクしてる……。
本当に歴史が好きなんだなぁ。
嬉しそうなヴァルムントくんをよかったねえと思いながらも、おれも見てみたいと思っておねだりをする。
「わたくしも見てもよろしいでしょうか?」
「はい。……重量がございますのでお気をつけ下さい」
本を手渡してくるも、手を添えて本自体の重さを感じない形にしてくれた。
や、優しい。そのさりげない気遣い好きだなぁ。
手で感じる本の装丁は皮と金属フレームで作られているものだった。
かっちりと作られているなーと思いながらも、端々が丸くなっている紙を捲るとほんのり甘い匂いが鼻をくすぐる。
全体的に角の多い文字で、強いて言うなら漢字っぽい?
そのまま1ページ目にある文字にざっと目を通してみると奇妙な感覚が脳内に走り、頭がクラッとして手のひらで目を覆った。
「どうされましたか!?」
「大丈夫です、目が慣れなかっただけです」
少ししたら変な感じが治ったので、手を退かし目を瞬かせ焦点を合わせる。
目に入った文字が読めたりしないかなと思っていたところで、微妙に違和感を覚えた。
「……こ?」
「カテリーネ様?」
「……こ、……こ、み?」
「こみ……?」
「こみ、……し?」
ひとつの文字を注視して見てみると、……大変おかしなことに不思議と意味が分かる。
そのまま読み上げていたらヴァルムントがちょっぴり口を開けてこちらを見ていた。
「カテリーネ様、読めるのですか?」
「読める……、と言っていいのでしょうか? わたくしはただ文字を発音しているだけです」
う〜ん、なんて言えばいいんだろう。
例えると全部ローマ字で日本語が書かれているみたいな?
それでいて意味を知らない英単語を発音してるだけみたいなもんだよこれぇ!
頑張れば読めるって言っても、解読にものすんごい労力がかかりそうで憂鬱になるやつだぁ……。
頭痛くなる〜ってしていたら、ラドおじさまが首を横に傾げながら声をかけてきた。
「重要なものを見つけたのだろう? 今日はこれで切り上げて村へ帰らぬか?」
「……ライモンド殿の仰る通りです、一度村へ戻りましょう。カテリーネ様もそれでよろしいでしょうか?」
「ええ……」
確かにいくら光魔法で照らされているとはいえ目に悪いし、一旦帰って改めて見るのが良さそうだ。
一応もう片方の本も見せてもらったけれども、同じような文字が並んでいて発音できるだけだった。
も〜ちょい読めばなんかしら分かりそうだけれど、中断して村に戻るのが先だ。
手がかりっぽいのは見つけたのは嬉しいよ、うん。
でも本当におれ達の問題を解決する手掛かりなのか、さっぱり分かんないのがキッツい……。
明らかに時間かかるじゃん、これー!
おいおいと心の中で泣きはするが、解読しなきゃ始まらないので頑張るしかない。
「カテリーネさん、わたしにも見せてもらっていいですか?」
「あ、あたしも……」
「構いません、どうぞ」
「ありがとうございます! ……うん、分かんない」
帰り道で興味津々のルチェッテやユッタに本を見せつつ、全員で村へと足を進めていく。
ちゃんと本は兵士さんに預けたよ!
そして本があった場所は、後々に別の兵士さんに調査させるらしい。
本以外はなさそうとはいえ、調べられる部分はとことん調べておかないといけないんだとか。
本棚の後ろに隠し扉とかあったりする? ……流石にないか。
隠し部屋に隠し部屋を重ねてど〜すんねん。
そんなしょうもないことを考えながら無事に村へと戻ると、すれ違う村の人達がやけにおれ達をニコニコとした目で見てきた。
なーんにも言ってこないで、ただ笑っている。
……あのー、これ、おれとヴァルムントくんが一緒の部屋で寝てるってバレたな……?
誰だ漏らしたやつぅ!! うあーーーーーーっ!!
もう違うし! 今日は滝行して煩悩払ったから一緒に寝ない!!
一緒の場所で絶対に寝ないから!
そう決意して、食事の後にヴァルムントくんを部屋へと呼び出した夜。
「申し訳ございませんが、許可できません」
微妙に目線を逸らされながら言われた言葉がそれだった。
なんでぇ!?