「カテリーネさん、ちょっと疲れてませんか?」
「いえ、特には……」
「う〜ん、でも顔色が良くないですよ。こういう時は素直に休んだ方がいいです!」
朝起きてから支度が終了次第、カテリーネ様はベッドに腰掛けて医療担当のルチェッテから診察を受けている。
侍女が部屋内で待機し、私は部屋の外で会話だけを聞いて終わり次第に中へと入っていった。
そして冒頭の会話があり、本日はルチェッテの提案によって探索を休みとする日になったのだ。
「わたくしとしては元気なのですが……」
「みんなも息抜きしたいと思いますし、今日はお休みしましょう!」
「……そうですね。皆様の為にお休みしたいと思います」
カテリーネ様はご自身の都合で休まれることを負目に思われていたが、ルチェッテの言葉により良い方向へ考えて下さったようだ。
密かに胸を撫で下ろしていると、ルチェッテが私とカテリーネ様を見てから侍女へ尋ねるように首を傾げ始めた。
すると侍女の一人が、目を閉じて静かに首を横に振る。
その仕草を見て私は意味が分からず疑問を抱く一方で、カテリーネ様は口元に手を添えて斜め下へ顔を向けられた。
僅かに見えているカテリーネ様の顔色は赤く染まっている。
……どうやら、意味を理解できていないのは私だけのようだった。
ルチェッテは傾げていた頭を戻し、半目で私に声をかけてくる。
「元帥って……」
「……なんだ」
「やっぱなんでもないでーす。……カテリーネさん! 乙女だけで、乙女同士のお話しましょ〜!」
投げやりな言葉で会話を有耶無耶にされ、質問の意図も分からないままでその場は終わってしまった。
◆
警護に必要な人数のみ残し、残りの者は休みと指示を飛ばした。
本日の警護担当は明日休みとなる。
そうしてライモンド殿とカールを家に残し、私は村の周辺を念入りに確認すべく歩き始めた。
しかしながら家から出て早々、近くを歩いていたご老人のデルマ殿に声をかけられる。
カテリーネ様曰くデルマ殿は植物類の知識が深いお方で、よくお話を伺っていたらしい。
「おや、元帥さん! カテリーネ様とは上手くやれているのかの?」
「……上手くやれている、がどのような形を想定されているか分かりかねますが……。……私は、誠心誠意を込めてカテリーネ様と接しております」
時折、邪な思考が入ってきてしまうが、私の指針としては言った通りである。
曖昧な言葉を返したものの、返答に納得はいったのか深く頷きが返ってきた。
「そうかそうか、それはよかった。カテリーネ様は良いお方と縁を結べたようじゃのぉ」
「……いえ、私はまだまだ未熟者です。よりカテリーネ様を支えられる者にならなければ」
「はっはっは、そうじゃのお! 励むのもほどほどにのお! どれ、儂が効きやすい薬でも煎じて持っていってやるかのぉ!」
デルマ殿は大きく笑いつつ腰を片手で叩き、大股で何処かへと歩いて立ち去っていく。
……励むとは?
訝しみながらも足を進めていくと、行く先々で村の方々から先程と似たような会話が広げられた。
訳が分からず考えを巡らせながら歩いていると、本日は休みとなったはずのゲオフが私へと近寄ってくる。
「どうしたゲオフ」
「……ヴァルムント様」
機嫌が悪いのか、わずかに目が細まっており腕に力が入っているのが窺えた。
本人としては抑えているらしいが、私のように馴染み深い者には一目で分かる。
立ち止まって話を聞く姿勢を取ると、ゲオフは一度深く息を吸ってから抑えた声を出した。
「いつまであのような者を野放しになさるのですか?」
「……ラハイアーのことか?」
「はい」
瞬時にゲオフの言いたい内容を理解した。
何故『覚悟の決まっていない者』を傍に置き続けるのか、ということのはずだ。
ラハイアーを傍に置く理由は説明してあるが、いつまで経っても曖昧なラハイアーに業を煮やしたのだろう。
私としては、ヘルトからの頼みというのもあり時間をかけて解決に向かえばと思っていたのだが……。
「ヴァルムント様が叩きのめせば理解するはずです。一番の強者はヴァルムント様であると」
開き切ったゲオフの目が強い視線を私へ叩きつけている。
私は思わず吐きそうになったため息を腹で留め、一度瞼を閉じた。
ゲオフは昔からこうだ。
出会った当初に叩きのめして以来、異常なまでに私の強さを信奉している。
戦場では様々なことがある以上は『決して敗北はない』とまでは思っていないようだが、私が舐められていると感じると止まらなくなるのだ。
過去に暴走して勝手に該当人物へ戦いを挑んだ時には、ゲオフを叩き伏してからその人物を決闘で打ちのめした。
そこからは「私が動くからお前は動くな」と、ゲオフを再度打ち倒して理解させたことがある。
カテリーネ様付きになり多少は穏やかになったかと思ったのだが、全くそんなことはなかったようだ。
これは一度ゲオフの気持ちを発散させてやるしかないと思い、顔を村の外へと向ける。
「行くぞゲオフ。今一度お前の心を鍛え直す」
「っ、ヴァルムント様……!」
「その後、ラハイアーとも戦う。それでいいだろう」
ラハイアーを叩きのめすつもりはないが、戦ってみるのは良い選択肢だと思ったのだ。
下手であると自覚のある会話よりも、戦いの中で語る方がずっと良い。
私の言葉を聞いた途端にゲオフの目は輝き、大きな「はい」という声が響き渡った。
二人で村の外へと歩いていき、道中にいた兵へラハイアーを呼び出す指示をする。
村の囲いを越え、ある程度離れてからゲオフと向き合う。
そうして互いに剣を抜き、静かに構えた。
「来い、ゲオフ」
「……ヴァルムント様、よろしくお願いします!」