「男の人って乙女心ってものを分かってないですよね!」
「い、いえ。わたくしも理解できておりませんので……」
「理解するしないの話じゃないですよ〜! 心の問題です!」
乙女同士のお話という名の地獄会を終えた後、はしゃがないのを約束に気分転換としてリージーさんと護衛だけ伴って外へと出ることにした。
残りの面子は食事だったりなんなりの対応で家に残っている。
しかしさぁ、ホントこういうの苦手だぁ。
た、確かにおれの体は美少女ではあるとはいえ、心は……心は、うん。
乙女心とか分からんし。女子会話とか苦手だし。
そんな半泣き気分を変える為の外出だったはずなのに……。
「カテリーネ様! ほれ、これは儂が煎じた薬なんじゃがな……」
「まあまあまあ、カテリーネさん! 子育てっていうのはね〜、本当に難しいものなのよ? ……ああ! きっと侍女の人だったりに色々やってもらうのは分かってるのよ? でもね、母親としてはどーんと構えてね、こう……」
何故かデルマさんが健康促進かなんかの薬を持ってきたり、ホルデさんが子育てに必要な心得とかを言ってきたりと、昨日まではただ笑ってくるだけだった村の人達がやたらといらぬお節介を焼いてきた。
……ぐえー! どうしてそういう話を堂々としてくるかなぁ!?
おれは恥ずかしいったらありゃしないよ! きつい〜、きつい〜!
再びひんひんしながら村の人達からの話をいなしていると、辺りを見渡していたラドおじさまがこんなことを言い出した。
「休みの兵が少ないな」
「お休みであれば、お好きな場所で過ごされているのではないでしょうか?」
離れすぎるのはだめでも、村の中にいなきゃいけないって決まりはない。
だからおれは気にしてなかったんだよね〜。
って思っていたら、残っていた兵士さんが近づいてきて理由を説明してくれた。
「ヴァルムント様が兵へ稽古をつけてくださると知り、皆揃って外へ行っているのです」
「まぁ……」
「戦士として正しい姿だな」
ラドおじさまがうんうんと頷いている一方で、おれは愕然としていた。
休みなのに稽古するとか体育会系すぎない!?
おれだったらのんびり過ごしたいし、なんなら前の旅でも似たようなこと思ったわ。
稽古をするのは本人達曰く「体が鈍るから」らしい。
まあ……、魔物と戦ったりすることもあるとはいえ、毎日絶対にある訳じゃないからなぁ。
おれのいる馬車へ近づけさせない為に、戦いに加わらず護衛を専念している人達がいるし。
でも体は緊張とかで疲れてるはずなのにね〜。まったくもう。
適度にしろよと言いにいこうと、リージーさんと護衛を連れて村の外へと歩き始めた。
……決して村の人達から逃れる為とかではない。
◆
件の場所には兵士さん達がわらわらといて、群がっている中心で戦いを繰り広げているみたいだ。
おれに気がついた何人かは軽く礼をしてくる。
円の脇の方には地面に突っ伏した人が数人おり、その内の一人であるゲオフさんは疲れ切った表情で大の字になって転がっている。
おまけに体が土で大分汚れていた。なにしてん。
おれが近づいていくと、ゲオフさんは素早く立ち上がって礼をしてくる。
「お見苦しい姿で申し訳ございません」
「いいえ。それよりも怪我はございませんか?」
「怪我という怪我はありません、お気遣いいただきありがとうございます」
……つまり、怪我っぽいのはあるってこと?
こらー! おれの治療を回避しようとするんじゃありません!
ぷんぷんしながら回復魔法をザッとかけると、恐縮した様子でゲオフさんが謝ってきた。
「申し訳ございません、ありがとうございます」
「お身体が一番大切なのです。こう言った時は気にせずに頼って下さいね」
「そうやでゲオフ〜。なんか起きたらあかんやろ」
「カール……!」
ゲオフさんは反論しようとしたものの、いい感じのことが思いつかなかったのか少し口を曲げて黙ってしまった。
まあまあ、気持ちは分かるよ〜。
おれだって目上から何かしてもらったら凄い恐縮しちゃうわ。
「ゲオフさんはヴァルムント様と稽古されていたのですか?」
「いえ、一対一の試合をしておりました。最初は私ともう一人だけの予定だったのですが、いつの間にか他の者も来てしまい……」
自然形成されてったのね、ヴァルムントも大変だな〜。
兵の囲いをちらっと見ていたら、ゲオフさんが突然に片方の拳を強く握りしめて語り始めた。
「やはりヴァルムント様は素晴らしいお方です……! 私が意見するなど傲慢でした。以前よりも尚のこと研ぎ澄まされた強さに、私は手も足も出ませんでした……。どこまでヴァルムント様は強くなられるのでしょうか。置いていかれぬよう、より一層精進をしなければ……!」
多分ヴァルムントくんからボコボコにされたというのに、目がキラッキラ輝かせながら一人で熱くなっている。
……ゲ、ゲオフさん、あなたそういう人だったの?
ヴァルムントくんの部下だから、心酔してる可能性はなくはなかったとはいえね!?
おれが若干引いてるのに気がつかないまま、ゲオフさんは熱弁し続ける。
そんなゲオフさんにカールさんが半目で「アホ……」と言っているのに対して、ラドおじさまは自分の顎を触りながら「わしも手合わせをするか」と言っていた。
じ、自由だな〜。まーこれくらい平和なのがいいよね。
なんて思っている内に試合が終わったらしく、完全にふらふらとした兵士さんが輪の中から出てきて地面にぶっ倒れた。
ゲオフさんと同じで怪我という怪我はしてないんだろうけど、回復しにいきますかね〜。
そう思ってぶっ倒れている兵士さん達に回復をしていたら、中にいるヴァルムントが声を張って呼びかけをした。
「ラハイアー、来い。私と手合わせをしてくれ」
「い、いや!? あっ、あのぉ!? おっ、おれ! こっ、ここ、ここで死ぬんですかぁ!?」
「何故そうなる……」
ラハイアー、中にいたのか……。
ちゃんとヴァルムントくんが加減して試合してるからこそ、戦ってた兵士さん達はほとんど怪我してないのにそう考えるの!?
ていうか、ここで殺されるかも……って思考に飛ぶほどヴァルムントくん恐れられてるのか……。
ヴァルムントくんかわいそ……と思っていたら、カールさんの計らいで見やすいように兵士さん達が退いてくれていた。
すまんすまんありがとう。
見えた先の光景は、ラハイアーがへっぴり腰になりながらヴァルムントに対して斧を構えている姿だった。
な、情けなさすぎる。ユッタいなくて良かったな……。
ヴァルムントは一度おれに対して礼をしてから、ラハイアーに再度声をかけた。
「これはただの手合わせだ。私がお前に大きな怪我をさせることはない」
「でっ、ですがっ、さっきの人達は……ひい」
怪我がないとは言っても、かなりボロボロにはされてたからなあ。
ああはなりたくない気持ちがあるのも分かるわ〜。
怯えてばっかりのラハイアーにヴァルムントはため息をつきながらも、剣を構えてとっとと始めることにしたみたいだ。
「いくぞ」
「う、ううううう!」
流石にラハイアーも覚悟を決めたのか、ちゃんとした姿勢に体を戻して斧をしっかりと構えたのだった。