TS生贄娘は役割を遂行したい!   作:雲間

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 始まった試合でラハイアーはぎこちなさを見せるものの、ヴァルムントから繰り広げられる攻撃をしっかりと受け止めている。

 顔がずっと情けないままなのは緊張からきてるのか怯えからきてるのか判別できなかった。

 ぶっちゃけ、どっちもありそう。

 受け身ばっかりのラハイアーにヴァルムントが当然の疑問を投げかける。

 

「どうした、来ないのか?」

「だっ、だってぇええ!?」

 

 ヴァルムントは真剣な顔で剣を振るい、ラハイアーは半泣き状態のまま斧で剣を防ぐもんだから結構シュールだ。

 た〜ぶんヴァルムントくん的には『拳と拳を交えて分かり合う!』的なのをやろうと思ったんだろう。

 男同士ってそういうことができるからね!

 しかしさ〜、このままじゃ無理では……?

 どうしたものかなと思っていたら、後ろにいたラドおじさまがボソッと呟いた。

 

「あやつもまともに鍛錬を積めばよい戦士になるんだがなあ」

「おじさま、どういう意味でしょうか?」

「ラハイアーは力と今までの実践経験だけで戦っとるんだ。そこから訓練を重ねれば更に上を目指せる。才能があるというのに、まったく訳の分からんものを目指しておって……」

 

 ラドおじさまの疲れが入った溜息が耳に入る。

 解放軍の時から訓練系は逃げていたらしいからなあ。

 おじさまの言う通り、ラハイアーの腕なら傭兵なりなんなりで稼げるのが見えてるし、詐欺師と戦士どっちがいいかって言われたら当然戦士だ。

 戦うのは危ないってのがあるとはいえ、この世界じゃ魔物とかで避けられない部分はあるし、詐欺も詐欺で先行き地獄が待ってるしさ。

 そもそもの問題として詐欺師が向いていない。詐欺できていなくて損しているのをユッタが補填している。

 ユッタの為にもいい加減将来見直して欲しいよねえ。

 ヴァルムントはラハイアーがずーっとひーこらしているのに痺れを切らしたのか、少し距離をとりつつも剣を構えた状態のまま、雰囲気を鋭く冷たいものへと研ぎ澄ませていく。

 

「お前の芯はなんだ?」

「えっ、え!? し、しんってなんですか!?」

「お前自身が心の支柱としているものだ」

「こ、心の、支柱……」

 

 ラハイアーはヴァルムントからの問いに戸惑いを見せながらも、目を左右にせわしなく動かしながら自身の考えを纏めているみたいだった。

 

「私は亡き両親やディートリッヒ様、……そして最愛なるカテリーネ様の為に勝ち続ける。この誓いは一生涯折れることはない」

 

 ちょっとヴァルムントくん!? 大真面目にみんなの前で堂々と最愛とか宣言しないでくれません!?

 今は最愛の部分いらなくない!?

 周りの兵士さん達が何人かチラっとおれのことを見てきたし!

 そ、そりゃ! さっ、最愛とか!

 なにもおかしなことではないのは当然だよっ!? と、当然だけど……。

 うう……、恥ずかしい……。体が熱くなってきたわ。

 公衆の面前でそういうことを言うなって伝えようかなぁ。

 おれが落ち着かなくなっている一方で、ヴァルムントくんは恥もなにもなく言葉を続けていた。精神強すぎる。

 

「それが、私にとっての強さの源だ。ラハイアー、お前はどうだ」

「……お、……わ、私はっ、……」

「迷うのであらば……、一度でいい。私からの全力の一撃を受け止めろ。強さとは何か、お前に教えてやる」

 

 ヴァルムントは柄を強く握りしめ、ラハイアーを貫く視線で見つめる。

 囲んでいた兵士さん達はヴァルムントの雰囲気に気圧されてじりじりと下がっていく。

 そしてラハイアーは迷いは見せてはいるが退くことなく、斧を両手で握りしめつつ腰を軽く落として一撃を受けてみることにしたようだ。

 

「行くぞ」

「……は、はいっ」

 

 ヒュッと冷たい風が吹き抜けたと思ったら、ヴァルムントが獣の如く一気にラハイアーへと距離を詰めていた。

 そのままヴァルムントは大きく振りかぶった剣を青く鋭い牙で破壊するかのように、斧へと叩きつけ──たかと思ったら、何故か寸止めをしたのである。

 それに驚いたのか、ラハイアーは目を大きく開いて瞼をパチパチさせながら身構えた状態で固まっていた。

 

「…………え、えっ、えっとぉ……?」

「……すまない、このまま続けたらお前の武器を壊してしまうと気が付いた。配慮が足りなかったな……」

 

 ヴァルムントは伏目がちに反省をしながら静かに剣を鞘へと仕舞っていった。

 まだこれからがあるのに武器を壊すのは確かに駄目だね、うん。

 肩透かしになったのはちょっと残念……。

 それはそれとして、壊せるほどのことをしようとしたの……!?

 おっかね~って思っていたのはおれだけではなく、兵士さん達もあわわと戦慄していた。

 寸止めとはいえ、真正面でヴァルムントの本気をぶつけられたラハイアーは未だに固まったままである。

 しかしヴァルムントくんは気にせずに言葉を投げかけた。

 

「今一度聞こう。お前にとって『一番強い』とはなんだ? 一番強いと信じているものは、お前の大切なものを護れる強さを持っているのか?」

「そ、それは……」

「よく考えろ。それがお前にとっての真の答えになるはずだ」

 

 ヴァルムントは動かないラハイアーにそう言った後、体をおれの方へと向けて歩いてきた。

 

「……カテリーネ様、ご体調は?」

「わたくしは大丈夫です、気分転換をしたかっただけですから。それよりも皆様、お休みなのですからしっかりと休憩なさってくださいね。心配です……」

「ご心配をおかけして申し訳ございません。……皆、解散だ」

 

 おれの休めという言外命令に従ったヴァルムントくんの言葉により、囲んでいた兵士さん達がぞろぞろと村やテントの方へと歩いていく。

 ラハイアーは楽な体勢になってはいたものの、言われた通りに考え込んでいるみたいだった。

 

「……ラハイアーさんは答えを見つけられるのでしょうか?」

「分かりません。ですが、根本を考え直すきっかけになればよいと思います」

 

 良くも悪くもヴァルムントの攻撃は強烈に映っただろう。

 本当にこれで詐欺師やめるきっかけになってくれればな~と、おれは思うのであった。

 

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