無事にヴァルムントが人間の姿に戻り、後続部隊の人達が来たことによって、みんなで怪我した兵士さん達を連れ帰還用の魔法陣を使い入口前へと出た。
ヴァルムントはピリピリとした空気の中で兵士さん達に確認やら指示をしていて、おれは椅子にできる高さの岩に座って一息ついている。
……なんでこんな簡単に言ったかっていうと、おれのキャパがオーバーしてて朧げな記憶しかなかったからだ。
だっ! だってぇ!! あ、あ、あんな、ヴァルムントくんが、あああああんなさぁ!?
あんな風にやってくるとは1ミリたりとも思わないでしょうが!
そりゃおれだって今まで……きっ、キスせーへんのかい! って思ったりなんなりしていたけれども、けれども!
あまりにも予想外すぎるというかなんというか……。
め、めちゃくちゃゲオフさんに見られてたし。案の定、顔真っ赤になってたし。
ラドおじさまにカールさんも、見ていないのに話から察していそうだったし!?
おれの傍に戻ってきたリージーさんはなんでか分かってそうな顔してたし!?
バカバカバカバカバカ! ヴァルムントくんのバカ!
目逸らししたくせに満ち足りた顔しやがってよぉ!?
そ、その顔も嫌いじゃないけどさ……。
とはいえね!? 外見外国人みたいだけれども、心は外国人じゃないんだから人前でするのは恥ずかしすぎだよ!
狼姿にキスするのとは全然違うんだからな!? まったくもう!
ぶーすかしてごちゃごちゃなっていた気持ちを、深呼吸することで一旦リセットさせていく。
外の空気は違うぜえ! さっきまで血と土埃ばっかりだったから、本当に空気が美味しい!
スーハーしていたら、リージーさんとユッタが水で濡らしたハンカチで汚れている部分を拭っていく。
明かりがあるとはいっても太陽の光とは違うから、汚れが目立って見えたんだろうな。
別に村に帰ってからでいいんだけども。
断る気力もなくてされるがままにしていたら、血で汚れている右手を最初に拭いていたリージーさんがピタッと止まった。
「……ご体調やお気持ちが優れないなどございませんか?」
「疲れはありますが、今は気持ち悪さなどはありません」
あんなに吐きそうだったのに、不思議と今はそうでもないんだよな〜。
おれが目をパチパチとさせていると、リージーさんはおれの手をハンカチと自身の手で見えないように握ったままカールさんを呼び、小声で何かを話し始める。
カールさんは全てを聞いてからゲオフさんとラドおじさまに何かを説明し、ヴァルムントの方へと走って行く。
一方のラドおじさまとゲオフさんはおれのかなり近くに並んで立ち、壁になるような形をとった。
「ええと……?」
「……カテリーネ様、ご不安になられると思いますが、落ち着いて聞いていただけないでしょうか?」
「はい」
えっ、マジで何。怖いんだけど。
戦々恐々としていたら、リージーさんがずっと握っていたおれの手を放して目に見えるようにしてきた。
ハンカチで拭われた手は綺麗になっているはずなのに、指先から手のひらまでが痣みたいな紫色になっていたのだ!
……お、お、おれの美少女たる体がどうしてこんなことにっ!?
唖然としていると、一緒に様子を見ていたユッタが息を呑んでからおれの背中をさすってきた。
あ、いや、ショックではあるが、そういう意味でのショックではなく……。
……いやいや、冷静に考えるとヤバそうすぎない?
手を握ったり開いたりしてみるが、特に痛みは感じなかった。
今はアドレナリンどばどばしてるから分からない……って説はあるか?
拭ってもらって申し訳ないけど、まだ汚れてる左手で痣っぽい部分を押してみたがやっぱり痛みはない。
てか左手も同じようになってるんじゃね……?
うひえとなっていたらカールさんが戻っており、ヴァルムントとルチェッテがおれの様子を見に来ていた。
「カテリーネさん、ちょっと失礼しますね!」
ルチェッテは来て早々おれの両手を掴み治療の魔法をかけてくる。
ほんのりとした光が俺の両手を包むが、終わって光が収まっても紫色は変わらずそこにあった。
ルチェッテはギョッとし、今度は異常解除の魔法もかけてきたが結果は変わらない。
「なっ、なんで、どうして!? だ、大丈夫です、絶対にわたしが治すからっ、だから……!」
「痛みはございません。焦らなくて大丈夫ですよ」
どうしてと焦燥し始めたルチェッテを逆におれが慰める事態となった。
戦いに兵士さん達の治療でヘトヘトなのに追加で心配かけてすまん……。
困惑しているところに、ヴァルムントが膝を折り目線を合わせてから話しかけてくる。
「カテリーネ様、御気分はいかがでしょうか」
「本当に問題ありません」
おれの言葉に嘘がないか、しっかり目を見て判断しているみたいだ。
当然嘘はなく、ヴァルムントもそう判断してくれたのか頷きを返してくれた。
「分かりました。ですが、後々に異変を感じた際には必ずお申し付け下さい」
「はい、約束いたします」
こういうのって何にも言わない方がやばくなるからね、ちゃんと言います言います。
返事をすると、ヴァルムントはいきなりおれをお姫様抱っこしてきた。なんで!?
「ヴァルムント様!?」
「カテリーネ様、御手をお隠し下さい。引き続きラド殿やカール達に壁となってもらいますが、万が一に備えてお願いします」
女性陣も壁に加わってくれるみたいで頷いていた。
す、すごい気を遣われてしまっている……。
おれ自身はヤバいって理解していても、微妙に実感わいてないってのにな!?
でも実際に兵士さん達には見られたくないのでヴァルムントのお願いには素直に従っておく。
こんな不吉なの見せらんね〜よ!
……ついでに疲れて寝てるみたいな風にしておけば自然なのかもと思って言うことにした。
「寝たふりをいたします。あくまで『ふり』ですので、心配はなさらないで下さい」
「承知いたしました」
ヴァルムント側に顔を向けて目を閉じ、両手も自分とヴァルムントの間に寄せて見にくい形をとる。
……こんな事態なのに、こんな事態なのにヴァルムントくんが近過ぎて体温が上昇してきたんだが!?
ち、近……、やっぱ近い……! あっ、あ〜! さっきの記憶が蘇ってきているのだががががが……!
おれだけシリアスになりきれてないの、なんなんだよぉ!!
ひんひんしている内にヴァルムントが号令をかけ、全員で村へと歩いていくのだった。