貴方の隣にいる為に
窮地を脱し、様々な問題を抱えながら村へと戻っていった後。
兵への指示とあの魔術師が潜んでいないかの確認も兼ねた村周辺の巡回をしていたら、いつの間にか辺りは夜の暗闇に包まれていた。
やらなければならない物事は多々押し寄せてきているが、皆を休ませなければと切り上げをした。
その後は身を清めてから部屋へと戻り、カテリーネ様とのお話を終え。
私は眠れず自身のベッドに腰かけながら、隣のベッドで静かな寝息を立てているカテリーネ様を眺めつつ一人溜息をついた。
魔術師が宝石と思われるものからエイデクゥを繰り出していた。
明らかにエイデクゥの出現は人為的なものであり、今までに出現していたエイデクゥもそうだったのではないだろうか。
洞窟で横たわっているエイデクゥを解体し、中にあるモノが今までのエイデクゥから発見しモノと同一であればその可能性が高いだろう。
……歴史上で魔物を誘導し戦争へ利用していた事例はあれど、あのように魔物を創り出して利用する事例はなかった。
そもそも魔物を創り出すという前例が確認されていない。
単に記録をされていない可能性も考えられるが、機密事項であるが故に歴史へ刻まれていないのだろう。
どちらにせよ、これは我が国だけの問題ではない以上、周辺国への手回しが必要になるかもしれない。
今は我々の国周辺でのみ出現とはいえ、『敵』が他国を標的にしないと言い切ることはできないはずだ。
魔術師の身元も確認しなければならない。
魔術大国であるイブラントならば、あの魔術師の身元を知っている可能性は高いが、如何せん我が国との距離が離れすぎている。
早急に確認せねばならない事項だというのに、時間がかかってしまっては意味がない。
……あまりにも引き起こされた物事が多く頭が回らなくなってきた。
目元を指先でほぐしていると、前から布の動く音が聞こえてくる。
「ん──……」
カテリーネ様が寝返りを打ち、毛布から手が出る体勢となった。
その手先は黒に近い紫色をしており、……戦場での嫌な光景が甦り心臓が大きな鼓動を鳴らす。
私は堪らず立ち上がってカテリーネ様へと近寄っていく。
手を伸ばし、カテリーネ様の手に触れると、ほのかに感じる温かさが手のひらに伝わってきた。
……決して、人間が持ちえない冷たさは此処に存在していない。
ため息が洩れると同時に、情けなさが身に染みてきた。
──私は、未熟者だ。
カテリーネ様の大事なお身体に異変を起こさせてしまった。
私が早々に敵を始末できていれば、カテリーネ様は健康でいられたはずだ。
獣に変化するまでもなく、エイデクゥもあの魔術師も、全て私が──……。
……己が獣へと変化したのは、カテリーネ様と私を繋ぐものがきっかけであると分かる。
身の内側から溢れ出る衝動によって獣へと変化していった。
今思うと、その衝動はカテリーネ様から強く希われたのに私が応えたいと思った末のものだのではないだろうか。
変化に当惑したのは言うまでもないが、私はこの繋がりを呪いではなく縁だと思っているからこそ、カテリーネ様から与えられた窮地を脱する力だと思っている。
驚きはすれども嫌悪は存在していない。
しかしながら、兵達と今後について打ち合わせ時に、数名が私に対して強い戸惑いを示していた。
私自身も人間が突如として獣に変化するなど見たことがない、兵達の戸惑いは当然だ。
その上、整合性のある説明もできずに有耶無耶にしてしまった。
皇都へと帰るまでに破綻のない説明をしておかなければ、謂れのない憶測が広まってしまい、私は異形の怪物として恐れられる可能性があるだろう。
それは国や民の為、ディートリッヒ様の為、カテリーネ様の為にも避けなければならない。
歯を食いしばりながら、カテリーネ様の手を両手で包み込む。
……この小さく華奢な手を離したくない。
化物と評された結果、貴方と離れるような事態になりたくない。
貴方の手足が他の者に忌避され批難され、悲しむ姿など見たくない。
これ以上貴方を危険に晒したくない。
だからこそ、私は──……。
頭に浮かんでいたとある提案を、カテリーネへ請願しようと決めたのだった。