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色々あった。色々ありすぎたとも言う。
カーテン越しの日差しで体に目覚めのスイッチが入れられた。
まだ疲れの残る体はベッドでぐだぐだしたいと訴えているが、おれは完璧美少女なのでちゃんと起き上がっていく。
そうしてベッドから体を起こすと、いつもならもう部屋を出ているはずのヴァルムントくんがベッドに座っているのが横目に見えた。
なんでだろうと疑問に思いながら、ヴァルムントへ朝の挨拶を投げかける。
「……おはようございます、ヴァルムント様」
「おはようございます。お身体に痛みなどはございませんか?」
立ち上がって近づきながら言ってきた言葉で納得がいった。
おれが大丈夫かどうか確認したかったんだな。
目をパチパチしてから体に意識を向けてみると、疲れはあっても紫色している手足が痛いとは感じていない。
それ以外も特になにもなく、昨日から色が変以外はいたって健康といえる。
「問題ございません。ヴァルムント様も大丈夫でしょうか?」
「はい。体が変化するなどの症状はございません」
手をグッパーしながら、しっかりとした声での返事がされた。
淀みない声だったし本当に大丈夫だったっぽい。
ヴァルムントくんって嘘つくと、変な間だったり視線がどっかいったりするだろうし。
「それならば良かったです。……あの、今後について方針は決まっていますか?」
「ある程度は昨夜の内に済ませましたが、細かい詰めはこの後する予定です」
「わたくしが参加してもよろしいでしょうか?」
「いえ、念の為カテリーネ様にはお休みいただきたく。昼食が済み次第、出立するかもしれません。馬車内にて、今後についてをお話しできればと思います」
えっ!? すぐに出るかもなの!?
あんなことがあったし、さっさと戻るべきだと判断したのも分かる。
でも村の人達にろくな挨拶も何もできてないよ〜!?
しかも変なヤツが現れた場所の近くに村の人達をそのまま置いておきたくない。
避難とかは流石に渋られるだろうけど、何の対策もしないまま村から去るなんてしたくないんだが!?
「お待ち下さい。あのようなことが起こった以上、わたくしは村に何もせずに立ち去りたくはございません」
「カテリーネ様が御心配なさるのも無理はございません。私も万が一を危惧し、昨日の内にあの魔術師がいないかを交代で捜索させました。現状、あの魔術師が付近に潜んでいる痕跡は見つかっておりません。また、兵を近隣へ使いに出しております。臨時として兵を召集し、護衛の増加に村の警備と調査、そして危機が差し迫った時には村の方々を安全な場所へ避難対応をさせます」
おれよりもヴァルムントの方が上手だったわ……。
そ、そりゃね、元帥様だからね!? それくらい想定して既に動いてるよね!?
おれだけ焦ってて恥ずかし〜と思いながらも、ほっと胸を撫で下ろす。
なら今のおれがすべきなのは挨拶と、ちゃんと兵士さん達に従って避難してねって声をかけることだ。
ぐでーっとのんびり休んでらんない。
「ご対応いただきありがとうございます。でしたら、わたくしは村の方々へ挨拶に参ります」
「承知いたしました。どうか、ご無理はなさらないようお願い申し上げます」
「ええ、勿論です」
挨拶に無理もなにもないと思うが、要は体調に気をつけてってことだろう。
これ以上みんなに余計な心配をかけたくないから、やばくなったらちゃんと止めるつもりだ。
深い頷きをヴァルムントへ返し、身支度を進めようとベッドから降りていくのであった。
◆
手の色が透けない手袋をし、護衛を連れながら村の人達へ挨拶とお願いをひとしきりしていく。
昨日のことを心配されながらも順々に挨拶していき、昼食を食べたらもう出発の時間となった。
部屋に広げられていた荷物や兵士さん達の野営テントは既に馬車の中に仕舞われ、おれが乗る馬車も村の出入口につけられている。
臨時の兵士さん達も到着しており、ヴァルムントからの指示を受けて動き始めていた。
……兵士さん達がいて多少は安心できるものの、村が心配で心配で仕方がない。
でもおれが村にいたところで解決するものでもないし、逆におれがいるせいで何かが起こる可能性もある。
うにょうにょとした気持ちを持ちながらも出入り口まで歩いていくと、一緒に村の人達も見送りに来てくれた。
その中のホルデさんやベアニーさんがおれのことを優しく抱きしめてくる。
「カテリーネちゃん、元気でね! あたし達は大丈夫だから! ここまで生き延びてるんだから、早々にくたばったりはしないさ!」
「そうそうそうそう! カテリーネさんの御子を見にいかなきゃならないからねえ!」
「あ、あの、そ、それは、その……」
なんで今そういうこと言うの!!
気が早い……っていうか、そもそもおれ達はまだ婚約状態でだな!?
その上、他の人達まで同意するようにうんうん頷いている。
しんみりとした雰囲気で終わると思っていたのに変な空気になっちゃったじゃないか!
おれが顔を熱くさせているのを構わず、ホルデさんがおれの肩を叩いていってらっしゃいと促してきた。
ひいひいしながらも押された方向へ歩いていき、馬車の前で待っていたヴァルムントに「もう大丈夫です」と伝える。
ヴァルムントくん、こんな中でも今は通常運転なのね……。
「よろしいのですか」
「はい。参りましょう」
後ろへ振り返って村の人達を見る。
最後の最後でぶっこんできたが、おれの大切な人達であることには変わりない。
寂しい気持ちを抑えながら、精一杯の笑顔を作って礼をした。
「皆さま、お元気で」
「カテリーネ様こそ、元気でいるんじゃぞ」
「幸せにね!」
「……はいっ」
本当におれのことを想って言ってくれているのが伝わってきて、正直泣きそうだ。
それでも顔面に力を入れて笑顔を維持し、ヴァルムントの手を借りて馬車へと乗り込んで行ったのだった。
話があるからと、出発した馬車内にいるのはおれとヴァルムントだけになっている。
向かい側に座ったヴァルムントは少し目を閉じて沈黙した後、ゆっくりと瞼を開いて真っ直ぐおれを見つめてきた。
「報告いたします。あの魔術師は村の外側にある魔法陣より行き来をしていたようです。兵が対となる魔法陣を発見いたしました。付近に魔術師は見当たらず、血も村の外へと続いておりましたので、少なくとも村からは離れていると考えております」
「……そうでしたか」
絶対そうとは言い切れないとはいえ、概ねあの魔術師が村から離れたって考えられるんなら安心できる。
ほっとした息をついていると、若干体全身に力が入ったように見えるヴァルムントが言葉を続けていく。
「カテリーネ様の安全を万全にする為、症状を解明する為にも、早急に帝都へと戻るべく移動を強行いたします。ですのでカテリーネ様にはご不便をおかけいたします、申し訳ございません」
「いいえ。わたくしを想っての行動ですから謝る必要はございません。それに、皆様の安全も考えると当然のことです」
いつあの魔術師が再来するかも分からないし、沢山の戦力が集まっている帝都に早く帰って安心したい気持ちは絶対にあると思う。
後、おれ自身の快適さを考慮して移動時間を長めにしてただろうから、気にしないで進んでくれる方がずっといい。
だから快諾したのに、ヴァルムントはどこか張り詰めた雰囲気のままだった。
「ヴァルムント様、どうかなさいましたか?」
「……カテリーネ様」
ヴァルムントは膝の上に置いた両手をぎゅっと握り締めてから視線を左右に散らした後、固い表情でおれに顔を向けてくる。
そうしてヴァルムントから告げられた言葉は、脳内に滞留していた考えが全て吹き飛ぶほどの強烈なものだった。
「帝都に戻り次第、結婚していただけないでしょうか」