帝都へと帰る道すがらに、どうフォローするべきかずっと悩んでいたことがあった。
あまりにも見えすぎていたというか、なんというか……。
だからおれなりに想定はしてたとは言っても、その想定以上のリアクションが巻き起こされた。
道中護衛を更に増やしたりしながら帝都へと無事帰還。
ちなみに、最後まで手足が痛くなることはなかった。
形式ばったお出迎えを経て、会議室にて主要な人物へと起こった出来事について話をしていく。
本を見つけたこと、赤い魔術師のこと、エイデクゥのこと……。
当たり前だが、特にエイデクゥについては皆が顔を顰めていた。
それぞれを調査や対策する為の担当割り振りが済んだ後に、内密に話をしようとおれとヴァルムント、お兄様とヘルトくんに闇深軍師の5人だけでお兄様の執務室へと移動をしていく。
お兄様がソファに腰をかけ、おれはその反対側のソファに座ったが、他3人は座らず近くに立って話を聞く姿勢をとった。
話すのは周囲には聞かれたくない、おれの手足についてとヴァルムントが狼に変身したことについてだ。
実はヴァルムントと一緒にどっちの話を先に伝えるか地味に頭を悩ませていた。
だって、おれの話をしたらお兄様が色々な意味で酷いことになるのは確定してるし!
緊急性を考えたらおれの方を先に話した方がいいとヴァルムントから言われ、渋々おれの方から話をすることになった。
絶対話にならなくなるから、ヴァルムントの方を先に話した方がいいと思ったんだけどな。
そして予想通り、いや、予想以上の光景が目の前に広がっている。
文字の通りに涙でできた滝を流しているお兄様が爆誕していた。
「お前の綺麗な、美しい手が、そんな、そんなっ……! おっ、お、おお、おっ、俺はぁ……っ! お、お兄ちゃんはぁ……っ! お前をっ! お前をこんなことにはしたくなぐでぇえええええ」
後半からはもうぐちゃぐちゃになっていて、なにを言っているのかさえハッキリしなくなっていた。
言葉になっていない言葉を口から垂れ流しつつ近づいてきて、手袋を外して露わになったおれの両手を握りしめ続けている。
おれのことを心配していたヘルトくんが、お兄様のあまりにもな咽び泣きにドン引きしちゃってるよ。
ヘルトくんにはこういう姿見せてなかったんだっけ……?
なお闇深軍師は半目になって乾いた笑いを零していた。こればっかりはそうなるのも無理はない。
「ディートリッヒ様、申し訳ございません。全ては私の力不足です」
「ゔっ、ゔゔゔゔっ。……おっ、おばえのぜいじゃないがら……、わげわがらんやづらが、わるいんだ……っ」
平謝りするヴァルムントにお兄様は怒らずお前のせいじゃないと言っている。
ヴァルムントくんの性格的に怒られない方がキツいだろうから逆に効いてるな、これ。
案の定、ヴァルムントは眉間に皺寄せならが歯を噛み締めているようだった。
「お兄様、わたくしは痛みは感じておりません。大丈夫です。皆様のお力をお借りすればきっと良くなります」
「ぐっ、ゔ、……ぞ、ぞうだな。はやぐ、おばえの為に、動かないどな……っ!」
お兄様がぐじゅぐじゅしながらも執務用のデスクへと動いていき、闇深軍師に指示を飛ばして相談をし始める。
その間にヘルトくんが戸惑いながらもおれへと近づいてきた。
「あの、姉さん」
「はい。なんでしょうか」
「えーっと、その、これは僕からの提案なんだけど……。姉さんの症状について、イブラントの人達にも診てもらうのはどうかなって」
「イブラント国の方がいらしているのですか?」
イブラントは魔術大国で知られているところで、2主人公ツィールの修行先であり、ゲンブルクで出会ったバリバリ敵意ありのイザベラと夫のハリソンさんが暮らしている国だ。
あのグラマス赤魔術師の正体を知っているかもしれないから、できれば問い合わせがしたいとヴァルムントが言っていたところでもある。
「そうだよ。僕が領地へ行っている時に、人を探しているってことで会ったんだ。外交官のグスターベさんが言うには姉さんたちはゲンブルクで会ったことがあるって言ってたけど……、覚えてる?」
「……イザベラ様とハリソン様でしょうか?」
「その人達だよ!」
おれの返事を聞いてパッと明るくなったヘルトくんは大変可愛らしいが、……ま、まじかぁ〜。
魔術大国の中でも優秀らしい人に診てもらえるなら嬉しいけど、ハリソンさんだけお呼びするとかできないか?
失礼すぎるから絶対にそんなことできないがな!
てか人を探しているってなんだ……? まぁ、手が増えるのならありがたいことではある。
人探しを手伝う代わりに、おれのを診てみてもらうとか可能かもしれないし。
「わたくしとしては願ってもないことですが……、一度お兄様と相談しなければなりません」
「うん。でも先に姉さんの意思を確認しなきゃなって思って。じゃあ聞いてみるね!」
にっこり笑ってヘルトくんはお兄様達の方へと歩いていき、相談に加わっていく。
……グスターベさんからイザベラが敵意メラメラなこと聞いてたのかな?
できれば会いたくないのはそうだけど、症状についてがある以上は別だ。
お兄様やヴァルムント、周囲の人達が悲しんでいるから気にしてられないし、さっさと治せるならイザベラのチクチクなんてどうでもいい。
ヘルトくんを交えての相談が終わったのか、数枚の紙を持って闇深軍師が部屋の外へと出て行った。
早速、症状研究チームを組ませるのに辞令を出しに行ったのだろう。
そうしてヘルトくんと、多少は様子がマシになったお兄様が元の位置に戻ってきた。
……おさまってきたとは言ったが、まだ微妙に涙が流れているので立って拭いに向かう。
隣に座ってハンカチを顔に当てていると、お兄様は再び涙をドパドパと流し始めてしまった。
「か、カテリーネぇ……。うう。あ、後でな、お前の部屋に精鋭が来るようにしたからな! 絶対に、絶対にお前を元通りにしてみせるからな……!」
「はい、信じております。ですからお兄様、どうか泣かないで下さい」
ぐずぐずになっているお兄様の気持ちを変えるべく、違う話題を投げかけてみることにした。
「そういえばお兄様、ゲンブルクから何か連絡はございましたか?」
ゲンブルクの方でエイデクゥの中にあった石について研究する〜みたいな話があったし、あの国の顛末とかも気になってたんだよね〜。
そう思って聞いてみると、お兄様は鼻をすんすんしながら話してくれた。
「あっ、ああ……。使者が来ていて話を聞いたぞ。エイデクゥの中に埋まっていた石については、俺達側の研究と同じ見解が得られた。高純度の魔法石へ複雑な魔法陣が埋め込まれているが、独自の法則が使われていて解析が難航しているとな」
「あのように魔法石から魔物を出現させる方法は過去にあったのでしょうか?」
「記録されている限りはないな。だからこそとっかかりにくいってのもある」
前例がないと解析するのも大変だよねぇ。
うんうんと頷いていると、お兄様は首を傾げながら言葉を続けていく。
「それと、フェリックス殿下が捕まっていたことについてだ。連中が何をしたかったのか、どうしてわざわざ城の地下で何かの実験をしていたかを調査したらしい。捕まえて実験をするだけなら、発見される可能性の高い城の地下でやる必要がないだろう?」
それは……、確かに? 灯台下暗しってやつかと勝手に思ってたわ。
お兄様は胸の前で腕組みをし、背もたれに体を預けながらおれに顔を向けた。
「どうにも、城の地下にあった設備を利用する為だったらしい」
「あの台座ですか」
フェリックス殿下に繋がっていたっぽい謎の台座かな。
他じゃ同じのを作れないから、城の地下でやるしかなかったのかも?
「地下の設備は初代の国王がなにかしらの実験をする為に作り上げたもの、だそうだ。どうして作るに当たったのかはまだ調査していて、追加で連絡をすると言われている」
「そうでしたか……」
初代国王ってことはおれらのご先祖様の親戚ってことだ。
それで皇族の何かしらが判明すればいいんだけど。
「後は……まぁ今はいいか。それよりもゆっくり休んでくれ。とりあえず、他のことはまた今度話そう」
「お待ちください。まだお話することがございます」
ヴァルムントが獣に変化したことについてまだ話せていない。
ヴァルムントへ目線を向けると、ヴァルムントが頷きを返し話し始めようとした……のだが。
「まままままままままってくれ! お、お兄ちゃん、お兄ちゃん心の準備が……!」
「お、お兄様、違います……」
また結婚報告と勘違いしたな……。
なんで今そう思ったのかとか色々あるけど、いや、あの、えーっと、まっ、まだ一応しないから。しないから……。
状況がよく分からなくてヴァルムントとお兄様を交互にみるヘルトくんを見ながら、おれは苦笑いをこぼしたのであった。