ゆ、ゆ、ゆ、ゆるさーーーーーん!!
なんだあのヴァルムントくんは! なんだあのヴァルムントくんは!
落ち着いてから思い返すと、おれってやられっぱなしじゃないかーっ!
部屋にいた侍女さん達にはにんまり顔を向けられるし!
カールさんもニヤケ顔してるし! おじさまには「よきかなよきかな」みたいな顔されたし!
なんか仕返ししてやりたいが、意図なくやり返されるのが目に見えてるよぉ……。
流石におれも学びました! あの人に何やってもストレートに返ってくるだけだ!
……おれが慣れるしかないのか? それはそれで絶望なんだけど。
はあぁ……。別のこと考えてやり過ごそ……。
夕飯やお風呂を終え、ソファで様々なケアを侍女さん達から受けながら色々と考える。
今後おれができることは、持って返ってきた本の解読をすることだ。
全部が全部おれが解決はできなくとも、一応文字を読むのはできるからやれることはやりたい。
それでいて、お兄様の業務だったりなんなりを助けていきたいと思う!
……その、けっ、結婚を改めて考えたらさ、まだまだお兄様に大したことをできてないなーって。
お兄様の書類仕事とかはできなくても、交流関連は皇女としてやろうと思えばできる。
一応ゲンブルクだったりで経験を積みまくったし、なんなら今は他国のお客様が滞在しているって耳にした。
どういう人が来ているかとか詳細は後々聞くとして、お客様のおもてなしとかでもっとお兄様の負担を減らせていけたらいいな~って。
お兄様の、国の為になる行いをどんどんしていって、持ち帰った本を読みこんで、手足を治してヴァルムントの異変もどうにかして!
それでいてよく分からんエイデクゥを使う敵勢力をどうにかして!
……けっ、け、結婚! で、できれば、いいな~……。
で、できるのか? ……い、いや、やるんだよ!
おれはハッピーハッピーな状態でその日を迎えてみせるんだからな!
よしやるぞ! と奮起して早速何かできないか動こうと思ってケアが終わり次第に立ち上がり、侍女さんに連絡を頼もうと思ったのだが。
「カテリーネ様〜、今日はもうお休みになられてください。一安心なされて体から疲れが出るかもしれません」
「……そうですね。気を急いてしまいました」
リージーさんから言われた通り、おれの体は無理をあまりできない。
ついつい焦りすぎて忘れてしまっていた。
帰って来たばっかだし、体調崩したら元も子もないので素直に従いさっさと寝るのであった。
そうして迎えた翌日。
「カテリーネ様、おはようございます。魘されてはいらっしゃらなかったようですが、お身体の調子はいかがでしょうか?」
「はい、大丈夫です。悪くありません」
体調、ヨシ! 悪夢なし、ヨシ!
起きてから侍女さん達に顔色も含めて確認もされたが、難なくチェックを通過できた。
早めに寝たこともあり、少し過ごしてからも気分が悪くなったりしていない。
概ね問題ないと判断して、やれることをやるべく動いていく。
「本を解読するお手伝いをしたいと連絡していただけますか?」
「かしこまりました」
侍女さんに本の解読班がいる場所への連絡を依頼した。
多分連絡しなくともおれに声はかかるとは思うけど、何事も早い方がいいし。
協力的である姿勢を見せた方が解読班のモチベにも関わりそうじゃない?
それとお兄様がおれに会いにきた時に、もっと何か手伝えないか聞くつもりだ。
やらなくていいって言われそうではある。なので粘りに粘り尽くす予定。
……お兄様、折れてくれるかな。
昨日の様子を考えると過保護が加速しそうな気もするんだよねぇ……。
「失礼いたします」
「はい、どうぞ」
逆に、こちらへと連絡が入ったりもした。
連絡係として部屋に来た兵士さんからの話は、ヘルトくんが言っていたイブラントの2人──イザベラとハリソンさんについてである。
ここからまぁまぁ離れた領地で会ったんでしょ?
なのにやけに早いと思っていたら、たまたま帝都に足を運んでいたのと、ハリソンさんがヘルトくんにすぐ連絡できる魔法石を渡していたらしい。
連絡って言っても話したりはできなくて、魔法石を割ると対になっている魔法石が光って大体の居場所を教えてくれるんだとか。
それだけでも十分すごくない? もし買えるんだったら買った方がいいんじゃない?
なんて思いながらも、今日の夕方頃には会えるように整えると伝えられた。
昼には城へと来るそうだが、おれと会う前にヘルトくんやグスターベさんとお話したりするんだって。
詳細は知らないが、契約だったりを結ぶ為なのかも。
報酬だったり、おれの手足についてをみだりに言ったりしない秘密保持契約みたいな……。
その辺は下手に口出しできないので関わる気はサラサラない。
契約破棄や不利に繋がる行動はしたくないから、簡単に内容だけは教えてほしいけどね!
そうして大体の内容を聞いた後、兵士さんにはお礼を言って下がってもらう。
夕方までの間は暇になるが、予定を入れようにも今からじゃ微妙すぎる。
……イブラント国について勉強をしておくか?
ざっと情報はゲンブルクの時に学んだとはいえ、浅く広くといった感じだった。
ゲームで2主人公が修行した先ではあるが、回想みたいな形でしか出てこなかったんだよなぁ。あと単純に記憶が曖昧。
もーちょい深く知りたいからと、侍女さんにお願いしてイブラント関連の本を持ってきてもらい、時間まで読み耽るのであった。
◆
応接室のソファに座るおれの隣にヘルトくん、斜め後ろで立っているグスターベさん。
そして向かい側には超絶不機嫌ながらも金髪縦ロールがキマっているローブ姿のイザベラと、相変わらず普通という言葉が似合うハリソンさんが座っている。
実はイブラントの2人に会う前に軽く打ち合わせをしたのだが、グスターベさんがまずいところがあったらフォローするから気楽に話していいと言われた。
……いや、そう言われてもちゃんとできるか不安でしかないぞ。
だからと言ってそんな面をお客様に見せるワケにもいかず、おれは精一杯の虚勢を張りながら気合を入れて頑張るしかなかった。
今回イブラントの2人がうちの国へと来たのは、あくまで魔術に関する知識を深める為の旅で人探しはそのついで。
だから国の代表としては来ておらず、当人達も代表としての扱いをしてほしくない。
と事前情報を聞いたが、グスターベさん曰く『恐らく嘘ではないが本当でもない』。
ど、どういうこと……? となったがにっこり笑顔を返されるだけだった。
一応「憶測で語るのはよくありませんから」とも言われたが、実質何も言われてないようなものだ。
そうかもしれないけど、そうかもしれないけど……!
心の中で血の涙を流しつつ、ヘルトくんから励ましの言葉を支えにして頑張ろうと決めたのである。
「お久しぶりです。ハリソン様、イザベラ様」
「お久しぶりです、カテリーネ様。災難に見舞われたと伺いましたが、お身体は大丈夫でしょうか?」
「はい、痛みなどはございません。御心配ありがとうございます」
おれとハリソンさんが会話を始めていくものの、イザベラは一切話す気がないのかツーンとしたままだった。
……おれが応接室に入ってくる時、やけに後ろを見ていたからヴァルムントがいないか期待してたんだろう。
残念でした〜! ヴァルムントくんは今後について別途打ち合わせ中です〜!
本当はおれとの旅が終わった後に国中を巡る予定だったんだけど、今それをしていい状況なのか? ってことでの打ち合わせだ。
国中を巡ったらあの魔術師とか見つけられるかもしれないが、敵の目的がいまいち分かっていない状況で闇雲に探すのもねぇ。
結局魔術師が何したかったのかさっぱり分からなかったし。
……とまぁ現実逃避は置いといて、今すべきなのはおれの症状を診てもらうことだが、簡単に症状を話してはいけないと言われている。
なんでかって、情報を引き出す為だ。
解決できませんかって相談するだけなら簡単だが、もしかしたら症状を治すにあたって国との取引やらなんやらで弱味として利用される可能性がある。
いくら代表ではないと当人達が申告していても、取引契約を交わしたとしても、イブラント側が絶対に利用しないって言い切れない。
……特にイザベラとかしょ~じき疑ってしまう。
なので『念の為』に引っ張れる情報は引っ張るだけ引っ張ってほしいと言われたんだけど、……む、無理〜〜〜〜!
どう考えてもグスターベさんが適任なのに、なんでおれがやるの!?
内心で滂沱の涙を流しながら、どうにか頑張ろうと話の口火を切ったのだった。