まず確認だ。
おれがやらなきゃいけないのは可能な限りの情報を引き出すこと。
で、おれが使えると思われる手札は、イブラントが持っていないはずの魔術関連話だ。
おれとヴァルムントを繋ぐ『呪い』も厳密には魔術なので手札としての価値はあるが、おれの手足異常にはあんまり関係なさそうなのと、関係者以外には話すなと言われているので使わない。
いや〜、だってこの『呪い』、悪用しようと思えばいくらでも出来るからさ。
敵の重要な人物と呪いを結んで一対一の自爆交換! とかやれてしまうから下手に言えないんだよね。
その上おれの命をとればヴァルムントが死んでしまうから、国防などにも関わってくる。
面倒臭い事態になるのが避けられないので絶対に話せないのだ。
だからおれが使っていいと言われているのは、あの場で起こったこと──魔術師とエイデクゥについてである。
そのうち周辺国に魔術師を指名手配するしエイデクゥについて伝達するが、現時点では秘密の情報として使えるのでイブラント側には黒龍の祠でのことを話していないらしい。
直接見た人物から話を聞けるという点でも貴重だから使えと言われている。
そ、そうなのか? 正直疑問でしかないが、そう言われた以上はそれでやるしかない。
……てか、そのうち公開する情報だからおれに任せて情報とれなくてもいいや〜、みたいなスタンスなのかもしれん。
本当にそうか分からんけど。……分からんけど!
そうやって頭の中をぐるぐるさせながらも、話の通じそうなハリソンさんへ言葉を投げかける。
「この度はわたくしの異変を診ていただけるとのこと、誠にありがとうございます」
「いえ。我々としては魔術に関する事柄に関わる機会を失う訳にはいかなかっただけです。どうぞお気になさらず。いやあ、まさかヘルトくんとの縁がここに繋がるとは思いませんでした」
温和な笑みを浮かべて返答してくるハリソンさんだが、この言い振りは謙遜で言ったとかじゃなくてマジの本心なんだろうな……。
イブラントはとにかく魔術に関することであればとことん探究する国であり、ハリソンさんもまた国と同じようで、症状についても確認してみたいからオッケーしたと聞いた。
ちなみにヘルトくんとハリソンさん達が出会ったきっかけは、ハリソンさんからヘルトくんに「この辺りはどんな感じでしょうか?」って尋ねてきたからだとか。
そのヘルトくんがハリソンさんの言葉を受けて嬉しそうに話を繋げていく。
「たまたまですけど、カテリーネ様とハリソンさん達の力になれてよかったです」
「ええ、大変助かりました。……早速で申し訳ございませんが、カテリーネ様の症状を見せていただけないでしょうか?」
「構いません」
着けていた手袋をテーブルの上に置き、手のひらを見やすいように広げてみせた。
ずっと不機嫌散らかしていたイザベラもこれは気になるようで、真剣な眼差しでおれの手を見つめている。
相変わらずひどい紫色してるわ。特に広がってるとかはないとはいえ、不気味であるのには変わらないよな〜。
うへえと思いつつも、目を細めて注視しているハリソンさんへ視線を向けた。
「もっと近くで見せていただいても? ……ああ、イザベラが見る形でも問題ないですよ」
「ご配慮ありがとうございます。大丈夫です」
近寄って手をまじまじと見るのは同じ女性であるイザベラの方がいいかも、と思って言ってくれたのだろう。
おれとしてはハリソンさんの方が安心できるから別に問題ない。
イザベラもその方がいいでしょって考えてたら、まさかのド睨みが待っていた。
ええ〜、お前おれのこと嫌いなんでしょうが〜! わっかんねぇなぁ……。
ただハリソンさんが席を立っておれに近寄ってくると、イザベラもまた立ち上がって近寄ってきた。
イザベラもちゃんと魔術師として興味あるから、それはそれ……ってことでいいのか?
ならせめても〜ちょい取り繕って欲しいんだが……。
おれは下手に事を荒立てたくないからそのまんまにしてるけど、人が人なら問題になってるぞ、それ。
実際、ヘルトくんはこのイザベラに困惑してるし。
……あ、もしかして一言も喋ってないのは喋るなって言われてたりする?
なんだかな〜とは思いつつも、二人へ見やすいように手を上げる。
そうして二人は酷い色した手を凝視しつつ、ハリソンさんが腕を組んで指先をトントンとしながら問いかけをしてきた。
「このようになられたきっかけは分かりますか?」
「きっかけは……、分かりません。わたくしの手は負傷者の血で見えなくなっておりましたから」
「負傷者?」
「……わたくしが皇女となった経緯はご存じでしょうか?」
「軽くですが存じています」
おれが皇女となった際に黒龍について国中に周知したものの、全員に信じられている訳じゃないのでハリソンさんも信じてくれているかは不明である。
まぁ皇女だって正式にいわれた以上はおれが皇女であるのには変わりないし、周囲もそう扱うしかないしな~。
「わたくしは育った故郷である村へと里帰りをしておりました。その際に黒龍が封印されていた場所にも向かったのですが、入った途端に気分が悪くなったのです。その時にはまだ変色はしておりませんでした」
「その場所に特徴的なものはありましたか?」
「特徴……。黒龍の血が地面に染み付いていたくらいでしょうか。ですが、光景や臭いが原因での体調不良ではないと言い切れます」
うへぇと思ったりはしたものの、血が原因での気持ち悪さではなかったと言い切れる。
具体的にどう? って言われると説明し難いのがな〜。
「血で陣が描かれていたなどもなかったのですね?」
「はい、そのような痕跡はございませんでした。……その後に、突如として現れた魔術師より襲撃を受けたのです」
「魔術師、ですか」
ハリソンさんが違和感のする瞬きを二回した。
……ちょっと硬い感じに雰囲気が変わったような気がする。
お、お? これなんかあるのか?
ちらっとイザベラに目を向けてみたら、イザベラはずっと不機嫌極まっていた顔をもっと渋い顔にさせていた。
ほう? ほほう? まだ絶対に何かあるとは言い難いが、掘ってみるのもいいのでは!?
「はい。そちらで何か情報をお持ちではないでしょうか。髪や瞳、ローブに至るまで赤い女性で、炎の魔術を使っていました」
「アイツ……!」
「イザベラ。……失礼しました、続けていただいてもよろしいでしょうか?」
今まで喋らなかったイザベラがガチギレという言葉以外形容できない表情をして、ハリソンさんに諌められている。
マジで知ってるパターンきた!? ……これは情報引き出すの意外と簡単なのかもしれん。
ハリソンさんから情報を引き出すのには苦労しそうだが、イザベラからはじゃんじゃん引き出せそうだ。
感情的なの助かるぅ〜!
なるほどね、つまりイザベラを突けそうなことを言っていけばいいんだな!
よーし、おれ頑張っちゃうぞ〜!