意気込みを入れたところで、一つ息をついてから再度話を続けていった。
「その魔術師は自身の背丈を超えるほどの巨大な炎の魔術を使い、わたくし達へ攻撃を仕掛けてきたのです」
「……何それ。巨大な炎……?」
おれの発言がなんか引っかかったらしく、イザベラが怪訝な表情をしていた。
どういう意味での聞き返し? あの赤魔術師が魔術を使うのに変な様子とかなかったけどなぁ。
一方のハリソンさんは二、三度瞬きした後、少し目を閉じてからゆっくりと開いておれを促した。
「そのまま続きをお願いします」
「はい。我が国の元帥となったヴァルムントが退ける為に戦闘をしたのですが、魔術師は窮地に陥ると不可思議な行いをしたのです。恐らく宝石──魔石を地面へと投げつける行為をしてきました。そうして投げられた先より……、あぁ……」
口元に片手を当て、斜め下に目線を移して目を閉じておく。
これはちょっと大袈裟にしているだけで、嘘の感情ではない。
エイデクゥが現れたこと事態はそこまで恐ろしくはなかったが、兵士さんが一人、また一人と倒れていき、ヴァルムントも満身創痍な状態になっていったのが怖かった。
気持ち悪さと吐き気で、ほとんど動けない無力な人間だったのが嫌だった。
もうあんな状況はごめんだという気持ちは本当である。
そんなおれの様子をヘルトくんが気の毒に思って肩をさすってくれた。
あ〜ごめん、ヘルトくんに気を使わせてしまった……。
「恐ろしい出来事があったと思われますが、貴女の為にもお話していただけないでしょうか。一体何が起こったのでしょうか」
「……ええ、勿論です。……ハリソン様にイザベラ様は、エイデクゥをご存知でしょうか?」
「大まかにですが。掲示がされていた魔物ですね。……まさか、その魔術師が魔石からエイデクゥが形成されたと?」
もうちょい直接的に話すこともできるが、今のおれはイザベラを揺さぶりたいので勿体ぶって話している。
- [ ] ハリソンさんはあくまで淡々とした様子で確認をしてきているが、イザベラはおれの意図通りに感情を揺さぶられ、目を大きく開きグッと歯を噛んでいた。
ど、どんだけ憎いのよ、あの魔術師のこと。
「形成……かどうかは分かりませんが、恐らく魔石のあった場所からエイデクゥが現れたのは事実です」
……なんだかハリソンさんの言い方が妙に引っかってきた。
どうして『形成』って言ったんだ?
おれはエイデクゥがどうやって現れたかなんて一言も言っていない。
実際に現れた時の状況は、黒い光のようなものがバーッとして見えなくなってから現れた……感じだったはず。
あるのは失われた技術であった魔法陣を通じて移動することくらいだ。
だから考えられるとしたら、魔石に刻まれた魔法陣か何かから移動してきただとか、今まで見えていなかったけど可視化をしたとかじゃない?
魔石を核としているみたいだから、そこから急成長させたってのも考えられなくはない……のかも。
でもなぁ、やっぱり言い方おかしいと思うんだけどなぁ。
おれが疑問に思っている間に、ずっとギリギリとしていたイザベラから質問が投げかけられた。
「……ソイツの特徴をもっとおし、……教えていただけませんこと?」
ちょっと乱暴な口調で言おうとしたのを抑えたな。
気持ち遠い目になりながら、あの赤い魔術師のことを思い出していく。
ダウナーなギャルっぽい口調をしていて、胸が……ほ、豊満だった。
いっ、いいいいい言わせんなおれはお清楚なんだぞ!!
お清楚だけど、それ以外の特徴という特徴を言えない……っ!
遠くから見ただけだから、近くで分かるような特徴は言えないんだよぉ!
……もしかしておれがここで言えなかったら、ヴァルムントが答えることになる?
多分一番近くで見たのはヴァルムントくんだけだ。
あ~……。そ、それはちょっと~……。
そんな言い方はしないだろうけども、ヴァルムントくんが「胸が大きい人でした」なんて回答するの見たくねえ~!
具体的に言葉にはできないけど……、その、も、もやるんだよね。
ぐ、ぐぐぐ、お、おれ頑張る!
おれの貧弱なボキャブラリーが試されていく〜〜っ!
「ええと、その、そうですね。……山が胸部から聳え立っている方、でした……」
今度は違う意味で口元を覆い、下を向きながら言い放った。
この言い方もこの言い方で恥ずかし~っ!
視界の端でヘルトくんが一瞬固まってから肌を赤くさせているのが見える。
なんでかヘルトくんにばっかり流れ弾が当たっている気がするぞ!?
イザベラはというと、おれの言葉を受けて「やっぱり……!」と地獄の底からの声を出していた。
反対にハリソンさんは変わらずケロッとした声で続きを催促してくる。
「話を戻しましょう。その後、どうなったのでしょうか?」
「はい……。その後は魔術師とエイデクゥ三体との戦いが始まったのです。わたくしはエイデクゥからの攻撃で負傷した兵に治療魔法を行使しておりました。その際に手のひらが見えなくなっていたのです。最後には我が元帥によってエイデクゥは討伐され、魔術師も打ち破ろうとしたのですが、こちらが把握していなかった移動用の魔法陣で逃げられてしまい……」
当然ながらヴァルムントが狼に変身したことは省いた。
別に言わなくても起こった流れは変わっていない。
「なんでアイツを逃して……っ!」
「イザベラ」
イザベラが怒りのままおれへ問い詰めようとしてきたのを、ハリソンさんが肩を掴んで制止する。
おれとしては、そのまま掴みかかってくれた方が楽に話が進めそうだったのにな~。
なんて思っていたら、妙な雰囲気となったのを変えようとヘルトくんが高めの声を上げた。
「待ってください、ハリソンさん。ハリソンさんが探していたのって、その魔術師なんじゃないですか?」
「……そうです。我々が探していたのは彼女──ロッセッラになります」
はぁとハリソンさんはため息をついてから、イザベラの背中を押して再度ソファに座りなおすよう促した。
……イザベラの分かりやすい反応してなかったら、言うつもりなかったのでは……?
そんな疑念を抱きつつも、ようやく名前の分かったロッセッラについて話を聞いていく。
「その方──、ロッセッラは何者なのでしょうか」
「……元々は魔術の研究をしていた者なのですが、今は我が国の機密情報を持って逃亡した罪人です。貴国にご迷惑をおかけすることとなり、申し訳ございません。我々が責任をもって捕縛をし、カテリーネ様の症状を治すべく尽力いたします」
真剣な顔でハリソンさんはおれを見つめて謝罪をしてきた。
……ふ~ん? 大事な情報を持って逃げた人だったから、公にせず密かに探してたってこと?
あ~、違和感とぼんやり繋がって来たわ。
確かめる為にも言うだけ言ってみるか~。
「その機密情報とは、魔石から魔物を作り出す技術でしょうか」
あんな技術が広まったら大問題だ。
小さい魔石で馬鹿でかい被害を及ぼせるのだから、戦争に使うならもってこいの技術すぎる。
今度はおれから問い詰めると、ハリソンさんは不快さと苦味をまぜた顔をして言葉を絞り出した。
「違います。我々が探究したかったものは魔術を深める為であり、魔物を作り出すものではありません。ですので我々は我々の誇りを汚したロッセッラを始末しなければならないのです」
鬼気迫った目で怒気を抑えつつも訴えてくるハリソンさんの声は、ドロドロに煮詰まった魔術に対する信念と執念を感じされるものだった。
そんな様子にビビってしまい、おれはつい隣のヘルトくんの手を握ってしまったのである。