おれがビビって思わず手を握ってしまったからか、ヘルトくんがムッとしながら強く言い放つ。
「姉さんを脅かさないでくれませんか」
ハリソンさんの怖さに怯むことなく庇ってくれたヘルトくんに感激するしかなかった。
へ、ヘルトくん……! 凛々しくてカッコいいよぉ~!
成長しているんだって知っていても、こうして目の当たりにすると感動しちゃうわ。
感動に浸りたかったが、このままいるのはよろしくないので「こほん」と言ってから手を膝の上に置きなおした。
ハリソンさんもまた、「失礼しました」と言いながら首を振って元の調子へと戻っていく。
……イザベラの方が感情出すぎて分かりやすい分、楽に思えてきたな。
なお、当のイザベラは顔を顰めているだけだった。
「カテリーネ様、ヘルトさん。ご無礼をお詫び申し上げます。……我々にとって魔術は誇りであり、魔術を高めるという目的に反したものは一切認めておりません。よって我々が現在も研究しつづけている魔石については、ロッセッラのように下劣な手法を取らないと魔術に誓います」
ハリソンさんは立ち上がり深い礼をしてきた。
イブラントにとって『魔術に誓う』というのはとてもとても重い約束事で、契約書を交わしたとほぼほぼ同等になる。
つまりこの謝罪はガチのマジだということだ。
おれとしては、戦争が勃発しかねない技術をばら撒こうとしないんならそれでいい。
それにそういう難しいところは、何故か今の今までサポートも何もないグスターベさんが契約書巻いてくれるだろうからさ……!
サポートしてくれるって言ったじゃん!!
泣き言を言いつつも、いい加減頭を上げてもらおうとハリソンさんに声をかける。
「顔をお上げください。そちらの誠意はじゅうぶんに伝わりました。ですのでどうか、わたくしの症状だけではなく、魔術師を捕えることについてもご協力いただけないでしょうか」
魔術師のロッセッラについて一番知っているのは紛れもなくハリソンさんやイザベラだ。
おれ達には知り得ないロッセッラの情報を持っている以上、協力を得られるんなら得ておきたい。
向こうだっておれ達の国でこそこそ動いて探るよりも、国の公認をうけて動く方が断然いいだろう。
……勝手に決めていいのかな、これ。い、今更不安になってきた!
チラッと後ろのグスターベさんを見ると、にっこり顔でうんうんと頷きが返ってきた。
なにしてくれとんじゃ〜って笑顔ではないから……、多分、大丈夫、な、はず……。
視線を前に戻すと、ハリソンさんは顔を上げて胸に片手をあてて宣誓をした。
「このハリソン、並びにイザベラは貴国と協働することを魔術に誓います」
そんなハリソンさんにイザベラが苦い顔をしながらも立って同じ動作をしていく。
こっ、これで、一件落着ってことでいいのか〜!?
ひえ〜んとしていたら、グスターベさんがニコニコ顔のまま前に出てきてようやく巻いてくれた。
「ではハリソン様、イザベラ様。後ほどの契約に関しては私が担いますのでよろしくお願いいたします。そして本来のお話に戻りたいのですが、カテリーネ様の症状についてはいかがでしょうか」
ついでに重要ではあるけど逸れまくった話を戻してくれた。
そ、そうだよ! おれの症状はどうにかなるやつなの!?
グスターベさんの問いかけにハリソンさんが手を下ろし、少し眼を瞑った後におれの手を見つめながらこう言ってきた。
「現時点では恐らくとしか言えないのですが、治療魔術を使用されて消費された魔力の部分に入り込んできたのではないかと。解決するにはより綿密に調べねばなりません」
「なるほど、分かりました。ハリソン様とイザベラ様の部屋を手配させます。……カテリーネ様、お疲れではございませんか? 調査についてはまた後日とした方がよろしいかと存じます」
「……そうですね。ハリソン様、イザベラ様。どうかよろしくお願いします」
やったぁ〜! ここから抜け出せるぅ〜!
なんかめちゃ大変な展開になってきたから肩が凝って仕方がないよ……!
ハリソンさんからこちらこそよろしく的な言葉を受け取ってから、おれだけこの場から離れることになった。
ちなみにヘルトくんはこのまま残るらしい。
立ち上がって礼をし、手袋を着けなおしてから静々とこの部屋から立ち去っていく。
待機していた護衛とリージーさんと合流をすると、おれは長い息をついたのだった。
「カテリーネ、大丈夫か。無理をするでないぞ」
「……おじさま。大丈夫です。大変ではございましたが、ヘルトくんの立派な姿を見られて嬉しかったのです」
「そうかそうか! はっはっはっはっ!!」
ラドおじさまは孫が褒められて嬉しそうに笑いつつも、何故かおれの頭を撫で始めた。
なんでおれを……? 丁度いい位置にあったから?
ともあれ撫でられたのはくすぐったくも嬉しいので、ふへへと笑いつつも部屋へと帰っていったのだった。
◆
「もう寝るところだったか?」
「いいえ。お待ちしておりました、お兄様」
お兄様がくるまで、テーブルの上に置いたランプの光で本を読んでいた。
椅子から立ち上がってお兄様の下へと行ってからソファへ一緒に行こうとしたが、お兄様が時間がないからとドア付近で話すこととなった。
これはお手伝いしたいって話は今度の方がよさそうだなぁ。
「ごめんな~、今日はこれだけ渡しに来たんだ。早く渡したくってな……!」
ずっと片手に持っていた、美しい彫刻が施された木箱を手渡される。
開けてみてほしいと促されて蓋を上げてみると、そこには翼を模した飾りもある金のチェーン、ワンポイントに温かみを感じる赤の宝石が付いたブレスレットだった。
「お兄様、こちらは……」
「ああそうだ! 前に言ってたお揃いのブレスレットだ!」
そうやって満足そうに喜びをみせる瞳とそっくりの色をしている。
視線をお兄様の腕へとずらすと、左腕にプレゼントされたものと同じのが着けられていた。
「とても素敵です……! この翼は白翼からでしょうか? 宝石もお兄様と同じ色をしていて嬉しいです。こちらを着けていたら、いつでもお兄様が隣にいらっしゃるような気がします」
「かっ、カテリーネぇぇぇ……! なんて嬉しいことを! 言ってっ……! う、ううっ」
お兄様、涙脆くなりすぎじゃないか?
ボロボロと涙を流し始めたのを拭ってあげる為にハンカチを取り出そうとしたが、「いいんだいいんだ」と言って取り出そうとした手を止めてくる。
「それよりも着けて欲しいんだ。な?」
お兄様が箱からブレスレットをとり、おれの左腕を手に取って慎重な手付きで着けていく。
間近で見えたお兄様のブレスレッドは、本当に全く同じデザインで同じ色をした宝石が輝いている。
……正直な話、おれとしては自分の赤い目はちょっと禍々しく見えてたんだけど、お兄様と同じだって言われてからはそんな風に思えなくなった。
「よし、これで大丈夫だ! うんうん、似合ってるぞ〜!」
「ありがとうございます。お兄様も似合っていますよ」
お兄様はおれを眺めながら全身で頷きを返すと、軽くおれを抱きしめてから離れていく。
「それじゃあ俺は戻らないといけないから。おやすみ、カテリーネ」
「お兄様も無理をなさらないでくださいね。そしてお忙しいところ申し訳ないのですが、明日お時間はとれますでしょうか……?」
「勿論大丈夫だぞ。問題ない時間を連絡させるから待っていてくれよな」
「はい、ありがとうございます。おやすみなさい、お兄様」
「ああ」
そうしてお兄様はもう一度ハグをしてから部屋を退出していったのであった。