朝食が来るまで部屋でまったりとしていると、カールさんとゲオフさんがリージーさん以外の侍女さん達と入れ替わりで部屋へと入ってくる。
ちなみに今日、ラドおじさまはお休みだ。
カールさんはおれが支度をしている間に、昨日おれが去った後の顛末を聞いてきたらしく報告をしにきてくれた。
「ハリソン様もおっかない人でしたけど、グスターベさんは気にせずに結構『やった』らしいですわ〜。いや〜、怖い怖い」
グスターベさんは言葉巧みに帝国側有利な契約を結ばせただとかなんだとか……。
そんなことができるなら、やっぱおれがわざわざ出る必要なかったんじゃね!? と思う。
「それでですね、あの人らはしばらくここに滞在が決まったそうですー。カテリーネ様の症状についての研究、あの魔術師の追跡。ついでに魔術に関しての知識だったりを提供してもらうらいしいです」
他にも色々あるらしいが、多分おれが関係してくるのはこの辺だけだからと簡単に言ってくれた。
そして今日の午後から早速、おれの部屋で症状の調査が始まるとも。
「ヴァルムント様ですが、遠征は延期になりましたわ。愛しい愛しいカテリーネ様を置いていかれへんですし」
「か、カールさん!」
「ははは、すんまへん!」
冗談はさておき、ちゃんとした理由は以下の通りだった。
敵の目的が判明していない以上、何処で何が起きたのかの情報が集まりやすい帝都にいてもらわないと困る。
それと、おれとヴァルムントの距離が離れすぎることも懸念された。
今、おれとヴァルムントを繋いでいる糸が狼にさせる事態を引き起こしたのだ。
物理的な距離を離した結果、予想外な出来事が巻き起こるかもしれないと危惧されたのである。
遠征自体急いでやらなければならないことではないし、ロッセッラの探索も兼ねて別働隊がある程度してくれるという。
懸念点ばっかりで大変だわ……と思っていたら、リージーさんが目を弧にしながらこう言ってきた。
「よかったですね、カテリーネ様。ヴァルムント様が遠征へと出られたら、きっと寂しくなったはずですから」
「いっ、いえ、そ、そのようなことは……」
そん、そんな寂しくなるだなんてそんな、そんなのないよ! ……ないってば!
おれが否定に否定を重ねてもリージーさんはうふふと微笑むだけで分かってくれない。
カールさんもしたり顔だし、今度ばかりはゲオフさんも無言で頷いている。
お、おれの味方がいねえ! ちょっとくらい味方がいてもいいと思うんだけどな……。
◆
暖かな午後の日差しが差しているはずなのに、対面のソファに座っている人物からの視線で気分はコゲコゲだ。
今回護衛を兼ねた勉強として、後ろ側にいる市民最強魔術師なジネーヴラが怯え切っている。
そのまた後方で控えているリージーさんと一人の侍女さんはクールに待機しているみたいだった。
あとルチェッテも参加予定だったんだが、帰ってきた安心感からか風邪を引いてしまい欠席だ。
おれのせいで沢山心労かけちゃったからなぁ、本当にすまん。
しかし久々にジネーヴラと会ったんだけども相変わらずだなぁ〜。
魔術師として強い部類に入ってるんだから、もうちょい自信持って欲しいと思う。
「……ワタクシがカテリーネ様の症状を詳しく診る担当となりました。どうぞヨロシクお願いしますわ」
ある程度抑えてはいるものの、内心のピキピキが隠せていないイザベラを見つめる。
あのさぁ……。おれは怖くないけど、ジネーヴラがビビってるからやめてほしいなぁ〜?
てか、おれの本陣なのにその態度とり続けられるのはある意味強いよ。
非常に分かりやすくて助かるし、逆になんか好きになってきたまである。
いやさ、堂々とおれにメラメラのギラギラな対抗してくる人なんていないから……。
おれのことむかつくーって思ってる人は、大体すごいサラーっとやってくるんだよ。怖いよね。
それでいて診断にイザベラが選ばれた理由は分かる、配慮だろう。
手を見るだけならハリソンさんでも問題ないが、足も見るとなると流石に駄目だからだ。
文化的に足を見られるのは恥とかはないとはいえ流石にね、お清楚淑女としてどうなのよって。
ハリソンさんにしかできないってならまだしも、イザベラでもできるからこれが最善なのである。
で早速診てもらおうとしたんだが、何故かイザベラがジネーヴラに突っかかっていった。
「アナタ、そのうじうじとした態度やめてくださらない? 目障りよ」
「ひっ、……あ、え、えと、ごっ、ごごごめんなさっ」
「ソレをやめてと言ったのよ、分からないの?」
「うひぃっ」
お前がそうさせてるんだっつーの! さっきの好きになってきたは撤回!
いくら分かりやすくても、おれ以外に当たり屋をされるのは困るんだからな。
「イザベラ様、わたくしの大切な者に意地悪はお辞め下さい」
「か、カテリーネさまぁ……」
「意地悪もなにも、目立っていたから指摘してあげただけですわ。……まぁいいです。始めましょう」
イザベラは大袈裟に息を吐いてから立ち上がり、おれへと近づいてくる。
その間にリージーさん達が動いて、おれの手袋と靴に靴下を丁寧に脱がしていった。
裸足となった足は、侍女さんが近くから持ってきたオットマンという足置き用のソファみたいなのに置かれていく。
そうしてリージーさん達が下がっていき、顕になった紫色の手足をイザベラが手に取ったりして慎重に見比べていった。
「……どうやら手足に特徴的な差異はないみたいね。でもどっちも確認し続けなきゃ意味がないわ。しばらくはワタクシが見続けるのは確定ね」
差異がないんなら手だけハリソンさんに見て貰えばいいのでは、と思ったおれの考えはすぐに打ち破られた。
ええ、そうなの……? 毎回調査するのにイザベラがやらなくちゃいけないの……?
やけに得意げなイザベラは、そのままおれの手を自身の目の前へと持っていき深く観察をしていく。
数十秒ほど見続けていたと思ったら、おれに目線を移して確認をとってくる。
「これから使う魔術はとても繊細なものですの。痛みはないから、動かないでいてお静かにしてくださる?」
「はい、大丈夫です」
CT検査みたいなもん? 別に痛みがないんなら動かないでいるのは問題ない。
素直に頷いてイザベラが行う魔術を見る体勢にした。
イザベラは片手でおれの手を持ち、スキャンするかのようにもう片方の手から緑色の淡い光を出してゆっくりと翳していく。
鋭い目つきをしながら慎重に手を動かしているので、かなり大変なことをやっているのが察せられる。
……ジネーヴラさぁ! 真剣に見ているのはいいけど、「おお……!」とか「ああ……!」とか声を出すのはちょっと笑っちゃうからやめてほしいなぁ!?
手が通り切った後に光が消え、イザベラが腹の底から空気を押し出したのを見てスキャンが終わったのだと悟った。
「……イザベラ様、何か判明しましたか?」
「カテリーネ様、アナタ何をなさったの? この状態でよく平気でいられるわね。悪意……みたいなものが詰まってるわよ」
ええ……? そりゃ良くないものだってのは分かってたけど、悪意? 詰まってんの?
でも痛いとか苦しいとかそういうの、全然ないんだけどなぁ。
「わたくしは何もしていないのですが……。どうすれば治せるのでしょうか」
「今は何とも。けど定石通りにいくなら、大元を断つしかないわね」
大元って何!? 原因不明なのに!?
実はこの症状もロッセッラが何かしていたから現れたもので、捕まえて大元が何なのか吐かせないといけなかったりする?
でもあいつ、『確かめたかった』どうのこうの言ってたような。
呪いが成功したのを確認したかった? けど、おれの手のひら血まみれになってたから見れなかったぞ?
……わ、わかんね〜!!
おれが悩んでいる間にもイザベラはメモを取りながら調べるのを続けていたが、それ以上の進展は特になく区切りの時間がきて終わったのであった。
次から更新は19時過ぎにします