「お願いします、お兄様。わたくしにお兄様のお手伝いをさせて下さい」
症状の研究後に使いとして来た兵士さんから、執務室でならお兄様の時間がとれる聞いたので早速向い、出迎えてくれたお兄様へ要望を即伝えた。
お兄様は「ん~……?」と言いながら、おれの手を取って二人仲良くソファへ座っていく。
「突然どうしたんだ? 俺はカテリーネに今でも沢山助けられているぞ?」
「いいえ。わたくしはあまりお兄様のお役に立てていないと思ったのです。お兄様は精一杯に働かれているのに、わたくし自身は迷惑ばかりで貢献ができていないと……」
「そんなことないぞ! お前はじゅうぶん俺の為に動いてくれている! ゲンブルクのことだって、戦争を止めたことだって、全部お前がやってくれたことだ! それにな、お兄ちゃんはお前が生きて幸せでいてくれることが一番嬉しいんだ! なのに、なのに今はお前に苦労を……っ!」
熱血な訴えをされていたと思ったら突然泣き出す兆候が表れたので、大慌てでお兄様の手をギュッと握る。
情緒やばすぎるよお兄様!!
「お兄様、わたくしは本当に大丈夫です。イザベラ様やハリソン様の協力がありますし、症状の解明は進んでいくはずです。心配なさらないでください。この通り、わたくしは元気ですから」
「う、ううっ、でも、でもなぁ……っ! お前はもっと休んでいるべきだと思って……!」
「お願いします。もっとお兄様のお役に立ちたいのです。部屋で休んでいるよりも、わたくしはお兄様の為になる時間の使い方をしたいのです」
おれが絶対に折れないという目でお兄様を見つめたからか、お兄様はしわしわの顔で口をパクパクとさせながらも声を出した。
「な、なら、……なら、客人の相手をしてくれるか? 契約が難航していてな……。お前と話すことで多少なりとも上手くいくといいんだが」
「勿論です。解決に向かうよう、わたくしが頑張りますから」
お兄様が安心するようにしっかりとした笑顔を見せつけると、お兄様は「がでりーねぇ……」と半泣きの状態で返事をしてくる。
困ったお兄様だなぁと思いながらも、抱きしめて背中をとんとんとするのであった。
◆
注意事項に日時は分かり次第連絡すると言われてから部屋へと戻ると、村から持ち帰った本について連絡が来ていた。
丁度いいからと本の研究チームが集まっている部屋へと、護衛とリージーさんを連れて向かっていく。
書庫近くにある広めの部屋を解読用として使用しているらしく、その中へと入ると様々な人物が本や紙を片手に解読作業をしているようだった。
でかい黒板にも字が書いてあり、共通点はどうだとか書かれているのが見える。
全員一度おれへ礼をしてから再度解読作業に戻っていくが、リーダーっぽい人だけがおれに近づいて挨拶をしてきた。
「カテリーネ様、お越しいただきありがとうございます」
「わたくしが望んだことです。皆様のご迷惑にならぬように頑張ります」
「いえいえ! カテリーネ様にご助力いただけるのは大変助かります!」
謙遜とかじゃなくて、まとまってる集団に突然偉い人が入ってきたら緊張とか諸々で輪が乱れちゃうでしょ〜。
本当にその辺は気をつけていきたい。
リーダーさんの案内に従って一角の席に着くと、そこには原本が置かれていた。
作業をしている人たちはそれぞれ書写ししたものを元に調べているんだとか。
「……わたくしが原本を確認してもよろしいのでしょうか?」
「はい。カテリーネ様は読むことができる以上、写したものよりも原文を読んでいただくべきだと判断いたしました」
「本当に読み上げられるだけなのですが……」
「重要な手がかりです。何卒よろしくお願いいたします」
力になれるんならいいけど、本を汚さないようにより気を引き締めなければいけないなと、ちょっと震えた手つきで前回と同じ本を開く。
最初のページから読み上げをし、それを近くにいる人が書き写していくことになっている。
緊張するなぁと思いながら最初の文字を読み上げようとした時、また妙な感覚が脳を襲ってきて思わず手のひらで目を覆った。
「カテリーネ様、どうかなさいましたか?」
「……いえ、大丈夫です。少し焦点が合わなかっただけだと思います」
指先で軽く目元をほぐしてから再度文字に目を向ける。
前と同じ文字で、何も変わっていない。
それなのに、今は不思議と意味が分かってきているのだ。
文字から強烈な……波動のようなものが、おれに意味を伝えてきている感じがしていた。
「……『我が』? ……『血』、……っ」
頭が痛い。くらくらとする感覚が止まらない。
脳の空いている隙間に、許容量以上のものがとめどなく注がれてパンクしている感じがする。
両手で目元を覆って丸くなると、近くからリージーさんの声がして優しく背中を撫でられた。
「カテリーネ様、一度切り上げましょう。よろしいでしょうか?」
「……え、……ええ」
なんとか言葉を搾り出して了承をすると、リージーさんの手が離れると同時にゲオフさんの声が聞こえてくる。
「カテリーネ様、失礼いたします」
ゲオフさんが慎重な手つきでおれを抱き上げ、カールさんが先頭となって部屋から行くのが感じ取れた。
そうしておれの部屋まで戻ると、多分リージーさんがおれの靴を脱がしてからゲオフさんが丁寧におれをベッドへと下ろしていく。
「カテリーネ様、お水は必要でしょうか? 何もいらない場合はそのままで大丈夫です」
水を飲める気分でもなくそのままじっとしていたら、言葉の通りいらないと判断してくれたみたいだ。
リージーさんは水を用意するべく動こうとしなかった。
「他の者がブラッツ先生を呼んでおります。眠れそうであればそのままお休み下さい」
返事をしたいが返事もできず、ただただ耐えることしかできなくてベッドにうずくまる。
ゆっくりと呼吸を繰り返してその体制を続けていたら、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
目が覚めたらもう夜中みたいで、部屋の中はぼんやりとした明かりがあるだけの暗い部屋となっていた。
「……カテリーネ様?」
「ゔぁ、るむんと、さま……?」
ベッドの近くにある椅子に座っていたヴァルムントが、おれの目覚めに気がついて声をかけてくる。
立ち上がっておれの頭をそっと撫でつつ、小さな声で質問を投げかけてきた。
「痛みはございませんか?」
「……な、いです。もともと、痛くは、なく。くらくらとする感覚が、強く……」
「そうでしたか。……起きられますか?」
「いえ……」
目が覚めたと言っても、まだぼんやりとしていて眠さはある。
おれの返事にヴァルムントはもう一度頭を撫でてから、顔を近づけてきて額へと唇を落としてきた。
「おやすみなさいませ、カテリーネ様」
額の温かな感触が全身に伝わっていくような感覚を受けながら、おれは再び眠りへと落ちていったのであった。