ニッコニコ顔で俺の部屋にセベリアノが入ってきた。
えーっと、貴方も帝都へ行ってたのでは? 帰ってくるの早いっすね……?
その、顔は笑っているのに目が笑っていないの、やめてほしいんですががががが。
「そうだなぁ、まず一つ目! 僕らは無事に皇帝を殺しました〜パチパチパチ〜!」
指を一本立てて笑顔で物騒なことを言ってくる。
いや実際帝都に行ったのはその為だから、何も間違った発言じゃないんだけどさ。
直接言ってくるのはどうかと思うぞセベリアノ……。
……ていうか、セベリアノって『僕』だったっけ?
どう返していいものか分かんねーから無言でいると、俺のことなんか気にせずセベリアノは言葉を続けていく。
そもそも一つ目って何。マイペースすぎるぞコイツ。
「二つ目! ……そもそも君は自分のご両親のこと、疑問に思わなかったのかな〜?」
疑問ってなんやねん。
普通に婆様が亡くなった息子の子供を引き取っただけの話だったはずだけど。
話が見えなさすぎて怪訝な顔をしているとセベリアノは笑みを深めた。怖い。
「思わなかったんだね、そっかそっか! それもそうか!」
勝手に納得すんなよ〜! なんなんだよコイツ……。
不気味さで体が震えてきたんだが!?
思わず掛布団くんを手繰り寄せちゃったよね。
「三つ目! 君はなんで儀式で生き残れたのか、分かってるかな〜?」
……知らん。首を振って否定した。
なんか誰に聞いてもすげー濁されたんだよな……。
そもそもどうして俺が生き残れたのか分かってないって感じだったし。
「まあ知る訳ないよね〜! 僕が口止めさせてたのもあるし!」
お前が口止めしてたんかーい!!
なら聞くんじゃねえよ! 腹立つなコイツ!
さっきから意味不明なムーブしすぎだろ。
セベリアノ、頭大丈夫か? 頭でも打ったか?
つーか思い出したわ。お前の一人称は確か『オレ』だったよな。
完全におかしくなってるから、一度お医者さんに診てもらった方がいいんじゃないか?
「何を、仰りたいのですか……?」
「多分ヘルトもルチェッテも黙るだろうと思ってさ〜。真実を知らないままでいるのって、苦しいだろ? 僕が全部燃やして本残ってないから、当事者以外知る由もないし。だから僕が教えてあげようって思って!」
セベリアノはそう言いながら、パァーンと音を立てて手と手を合わせた。
燃やしたって何!?
なんでこんなにウッキウキなんだよぉ、真実なんてどうでもいいよぉ。
怖すぎる〜、ラドじいさん助けて……。今はお昼ご飯取りに行ってるんだっけか?
俺があわあわしていると、急にセベリアノは表情をストンと落として無表情になる。
ヒュッと俺が息を飲む音だけが室内に響いた。
「君はあの老婆の孫娘だと信じていたようだけど、そんなの嘘でしかない。あの老女はただの皇帝の手下の人間で、君自身の本当の親は皇帝だ」
……は? いやいやいや、そんな設定ないって。
ゲーム上でそんなの言及されたことねーし、……ないよな?
いやいやいや、あったら絶対に俺覚えてるもん!
なかったって! そんなんあったらファンが喰らいつくに決まってるって!
「信じられないって顔してるね。残念ながら事実だよ。証拠という証拠にはならないかもしれないけどさ、君は金髪で赤目だし、もう片方の目は青いだろう。金と赤は皇族で見られる色だし、青は皇帝と同じ色だ。……皇后だったガリーナが女児を産んだものの、生後間も無く亡くなったと掲示があったのを知ってるかな。でも実際は、黒龍の生贄として回されていたんだよ。それが君だ」
い、陰謀論……? 陰謀論なのか、おい?
今更お前もそういうのに染まっちまったのか!?
ねーよ、どんな裏設定だよ。設定盛りすぎだっつうの。
「まだ信じられないのか。……そうだな、まず君が黒龍に使っていた術、あれは普通の人間には使えない術だよ。皇族の血筋が濃い者が使える。初代皇帝の姉は、君と同じ事をして黒龍を弱体化したんだろうね」
確かに術を扱う資格ある者にしか巫女になれないみたいなのあったけどさぁ。
そりゃ他の者と心臓をリンクさせるなんて禁術以外の何物でもないし、他人がやらないだけなのでは……?
俺みたいなやつ以外だと、自爆特攻しかけたいやつしかいないんじゃない?
疑い続けている俺の顔を見たからか、セベリアノはポケットから何かを取り出して俺の手元に投げる。
投げられたものを手に取って見てみると、澱んだ赤い色の宝石がついているネックレスだった。
……何これ?
「それはあのヴァルムントが君に向かって投げたもので、君の命を救ったものだよ。君はあの村の中だけで生きてきたようだから知らないかもしれないけれど、致命傷を負った人間を救うことができる奇跡なんてものはないんだ。でもそれは不可能を可能にした」
手元にあるネックレスの宝石をまじまじと見つめる。
なんか、時間の経った血の色みたいでやだな……。
「皇族の使う禁忌の術は、自身の体を代償にして使えるものだ。だからこそ皇族は、血を濃く繋ぐ事を重視していた。特に女性が強く使えるみたいでね。ガリーナも、その術を使える素質が高かったから皇家に嫁がされたんだ」
「……再度申しますが、何を仰りたいのか、よく、分からないのですが」
「ここからは僕の憶測になる。ガリーナは皇女を亡くしてから数ヶ月後、衰弱して亡くなったと発表された。……そして、そのネックレスを持ってきたのは、ガリーナの息子である皇子ディートリッヒと懇意にしているヴァルムントだ」
胸が苦しくなって、このネックレスを持つのが怖くなってきた。
ネックレスに重量なんてあってないようなモノのはずなのに、とてつもなく重く感じてくる。
……違うよな? 違うって。
俺の思ってるものじゃないよな!? なあ!?
「おそらくそれはガリーナが自身の命を持って作り上げた、『奇跡』の代物なんじゃないかな。本にあったんだよね。何代目かの皇后が戦に出る皇帝の無事を祈り作り上げた宝石が、皇帝に及んだ凶刃を防いだ事例があったって」
──俺は。
黒龍の生贄として確かに死ぬんだと思いながら、意識を失った。
その時に金髪で赤い瞳をもった女性が、俺の名前を呼びながら話しかけてきたような記憶がある。
とてもぼんやりとしたもので、俺の記憶から作り出された夢かなにかだと思っていた。
そしてもう一つ。話を聞いていて、思い出したことがあった。
ゲームでのラスボスであるディートリッヒは、初めてHPを0にすると一度だけ復活してくる。
プレイヤーがディートリッヒを倒したと思ったら、ディートリッヒは体から光を放って起き上がってくるのだ。
その時の台詞は、「母上、申し訳ございません」。
俺は、よくあるラスボス復活のちょっとした演出なんだと思ってた。
この話が本当なら、……本当ならば。
ヴァルムントはディートリッヒからネックレスを預かり、ディートリッヒとカテリーネの母親の命の結晶を、俺に使ったということになる。
「……ま! オレの想像でしかないんだけどね〜。信じるかどうかはカテリーネちゃんに任せるよ! 長々と話しちゃったね〜。ああ、スッキリした。それじゃ!」
セベリアノはもう一度両手で音を鳴らしたかと思うと、顔に表情を浮かべてからそう言って部屋を去っていった。
好き勝手言うだけ言って去るとか、自由人にも程がある。
……そうして、俺1人だけの空間に戻った。
俺は、俺は、ただ、物語の通りに死にたかっただけだ。
別に何か余計なことをした覚えもない。
役割を成して死にたかっただけで、他人の命を、『ディートリッヒとカテリーネの母親』の命を使われてまで助けられるような人間じゃなかった。
物語の通りにしたかっただけで、それだけだったのに。
……こんな最低の人間を助ける為だけに、人の命が使われていた?
そもそも俺は俺で、カテリーネだけどカテリーネじゃない。
ましてや会ったことすらもない母親なんて、知らない。
知らない。知らない知らない知らない!
こんなの、こんなの……。
……本当だったら、なんて、思いたかった。
そう思いたかったのに、嘘なんかじゃないと心が訴えかけてくる。
あの母親らしき人の夢は、……いや、夢なのか?
夢じゃなくて、だって、あれは感触が。声が。
声、声? 眼差し、手が。俺に。
何もかもが分からなくなってくる。
手元にある輝きが、鈍く光って俺を貫いているように思えた。
段々と、ぐにゃりと全部が歪んできて見えてくる。
……きもちわるい。
生きている、いま、俺は、いきて。
つめたい、さむい。
俺は、俺は、
俺は?