お兄様の指示あるなしにかかわらず今日は休むべきだ、と色んな人に説得されて部屋にいることになった。
万全じゃない状態でお客様に会うのは失礼だし、本や症状の研究中に具合が悪くなったりしたら面倒なことになるのは間違いない。
迷惑をかけてしまうのは本意ではないので、仕方がないと部屋で体を休めるしかなかった。
……それでも暇なものは暇だ!
侍女さんにお願いして本や最近の情勢を記載している冊子を取り寄せてもらい、椅子に座ってから読み耽っていく。
読んでいるのは海を挟んだ向かい側にあるニーヒスター国に関連しているものだ。
客人として来ているのがそのニーヒスターの人で、代表者は第三王子のパスクアル。
ニーヒスターは優秀な人間が継承権を取れれば良いという思想らしく、つい最近まで継承権の争いがあったらしい。
第三王子のパスクアルは早々に継承権を放棄したものの、第一王子と第二王子での継承権争いは熾烈を極めて結構な被害が出たんだとか。
結末としては、第一王子が継承権確定になったという。
その争いが終わって幾分か平和になったのと、帝国の体制が変わったから貿易だったりの契約見直しとかをしたくて第三王子が使者として来たって感じだ。
……トラシク2で登場した国のひとつ、……だったような。
まじで覚えとらん。助けてほしい。記憶かむばーっく!
読めるだけ読み続け、ちゃんと休みましょうと声をかけられてお茶しながらユッタとお話をしたり。
お兄様がおれの寝る前くらいにヴァルムントと訪れるとの連絡を聞いて、おれは絶対に折れないからなと決意を新たにしたり。
夕飯が終わってお風呂に入ってソファに座ってお兄様を待ち構えていたら、丁度来たらしく侍女さんが扉へ行って応対してくれた。
迎え討つ為に脳内でジャブをかましていたのに、意外な言葉を侍女さんからかけられる。
「カテリーネ様、ヴァルムント様がいらっしゃいました」
「……お兄様と一緒ではないのですか?」
「はい。どうされますか? ディートリッヒ様がいらっしゃるまで待機でも問題ないと仰っていますが……」
「……では、通してください」
2対1をするよりかは先に1対1を仕掛けておいた方が得策だろう。
ヴァルムントからどんなことを言われても曲げないぞと思いながら、侍女さんに返事をしてヴァルムントを通してもらう。
リージーさん以外の侍女さんと入れ替えで入ってきたヴァルムントは、特に憂いた顔とかはしておらず普通の表情をしていた。
失礼しますと言いながら、ヴァルムントがおれの正面にあるソファへと座っていく。
まっすぐにおれを見つめてきたのをきっかけに、おれから声をかけていった。
おらおらおら、先制ジャブじゃい!
「お兄様に言われて説得をしに来られたのですね。わたくしは何を言われようともやめません。諦めて下さい」
「カテリーネ様、私は説得に来たのではありません」
……へっ? い、いや、だっ、騙されんぞ!
そう言っておきながら実質説得をしてくるんだな!
お前の手口は割れているぞ! こら!
「では何故こちらへと来られたのでしょうか?」
「愛している方の様子を見たいと思ったからです」
……うっ! やっ、やめろー! 真剣な顔で言ってくるのは!
そっ、そういう手口なんだろ!? わ、分かってるんだぞ!
動揺する心を抑えながらヴァルムントに対して詰めていく。
「で、ですが、お兄様に言われて来たのもあるのではないでしょうか」
「ディートリッヒ様に説得してくれと頼まれたのは事実ですが、断りました」
えっ、断ったの!? 嘘ぉ!?
ぎょっとしながらヴァルムントをまじまじと見つめるが、嘘をついている様子は見られない。
こういった場面で嘘つくのは苦手そうなのでマジなんだろう。
ヴァルムントは断然お兄様側だと思ってたのに! 意外すぎる。
断った理由もよく分からなくて唖然としていると、ヴァルムントは少し目を彷徨わせてから立ち上がり、近くまできて隣に腰を下ろした。
そうして柔らかな眸でおれを見つめながら、こう言ってきたのだ。
「心配だという気持ちは無論ございます。ですが、私はカテリーネ様を信じております。貴方が大丈夫だと仰るのであれば間違いないと信じております」
「……ヴァルムント様」
確かにおれはヴァルムントへ信じて欲しいと言った。
おれはそんなに弱くない、だから信じて欲しいと請い願った。
それをちゃんと覚えていて大丈夫だと信じてくれていることに、目元が熱くなってきているのを感じる。
一度強く目を閉じて出そうになる涙を抑え、勢いのままヴァルムントへと寄りかかった。
ヴァルムントはぎこちない手付きでおれに肩に手を回すと、ゆっくりと手のひらで肩を撫でてくる。
「貴方ができると思ったことをして下さい。……私達が心配しすぎない範囲で、になりますが」
「……はい」
ヴァルムントからの言葉と温かさで、絶対にやるのだと焦っていた気持ちが段々とおさまっていく。
……なんだか感情的になりすぎてたな、おれ。うわ〜、反省だ……。
すごい心配させてたんだよなぁ、もうちょっと程度を考えないといけないよなぁ。
信じてもらっているんだから、安心してもらえる行動を心掛けないと……。
自分のしていたムーブが恥ずかしくなってきてヴァルムントの体に顔を埋めると、そのまま両腕で抱きしめられる。
背中をとんとんとされて落ち着きを取り戻していると、小さなノック音が響いて部屋にいたリージーさんが応対に向かったのが音で分かった。
……そうだよリージーさん部屋にいたじゃんか! こっちの方が恥ずかしい!
慌ててヴァルムントから離れて口元を覆っていると、ヴァルムントは愛しむような手付きでおれの頭をひと撫でして立ち上がった。
く、くそう……。ヴァルムントくんにはこの辺の羞恥心はないのか……。
何事もなかったかのように向かい側へ座り直したヴァルムントに、おれはジト目を送るのであった。