リージーさんと入れ替わりで部屋へと入ってきたお兄様の顔は何とも言えない表情をしていた。
焦りがありつつも曲げられず、苦悩の狭間にいる……みたいな?
まあ、とにかく絶妙な表情だ。
ヴァルムントが立ち上がって出迎えると、お兄様は床を一歩一歩踏み締めるように歩いてソファまで歩いていくとどっしりと腰を下ろした。
その隣にヴァルムントもまた座っていく。
一方のおれはいつもなら立って出迎えているのに、タイミングを見失って座ったまま一連の流れを見るだけで終わってしまった。
「…………」
「…………」
き、気まずい。
おれはあんなことを言っちゃった手前、お兄様に声をかけにくい。
お兄様はおれに対してどう声をかけていいのか迷っているんだろう。
おれもお兄様も互いに視線を合わせずに沈黙している中、ヴァルムントだけがなんてことのないように話始める。
「ディートリッヒ様、カテリーネ様に伝えたいことがあるのではないでしょうか」
「あっ、ああ……。……その、だな……。……す、すまなかった! 俺は、お前が生きていてほしいことだけに頭がいっぱいになっていて、お前自身の幸せという一番大切で肝心なものが抜けていた! ……本当に、すまなかった」
「お兄様……」
きつく握り締めた拳を膝の上に置きながら必死な表情で訴えてくるお兄様の言葉を受けて、おれは思わず立ち上がった。
お兄様はただおれを想って言ってくれていただけで、ここまで謝る必要なんてない。
おれが、お兄様や皆が心配することのない行動をするべきだったんだ。
お兄様の目の前まで歩いていき、しゃがみ込んでお兄様の拳に手のひらを重ねてから目線を合わせにいく。
近くで見たお兄様の瞳は涙で潤んでおり、今にもとろけ落ちそうなものになっていた。
「お兄様、ごめんなさい。わたくしが悪いのです。お兄様を悲しませてしまっては元も子もないお話ですのに、役に立ちたいのだと意地を張り、かえって心配をかけさせてしまいました。……ですのでお兄様、お兄様が納得できる形でお手伝いをさせていただけないでしょうか?」
「……か、かでりーね゛ぇっ!!」
おれが今の気持ちを言葉にすると、お兄様はぐじゅぐじゅになった声でおれを呼びながら抱きしめてきた。
こ、この体勢はちょっと苦しい……! と思っていたら、ヴァルムントがお兄様の背中を軽く叩いて普通に座るよう促してくれた。た、助かる。
おれがお兄様とヴァルムントに挟まれる形でソファに座り直し、お兄様が鼻をすんすんと鳴らしながら話を進めてくれた。
「それで、だな。……俺は、お前がちゃんと医者から診断を受けて、ちゃんと休んで、動いてくれたらいい。お前が、お前の健康を第一としてくれるなら、それで……」
「分かりました。ブラッツ先生から許可を頂き、お兄様に確認していただいて問題ないと判断された範囲で動きます。……それで、大丈夫でしょうか?」
「ああ、勿論だ……!」
もう一度お兄様からギューッと抱きしめられ、おれも抱きしめ返す。
伝わってくる温かな体温が優しくて、おれはこの人の為に頑張りたいのだと改めて思ったのであった。
◆
お兄様とちゃんと話し合って決めた結果、ブラッツ先生や魔術師の人には苦労をかけることになるが、毎朝毎晩に健康診断が行われることになった。
そこで少しでも疲れだったりなんなりが見つかったら、次にある予定は中止となる。
色々と大変だけれども、お兄様が安心してくれるならなんだっていい。
今日は午前中に本を一文字だけ解読、午後にはイザベラによる症状の研究の後、客人のパスクアルと会う予定となっている。
一文字だけ解読するのに書庫近くの部屋へと一瞬だけ行くのはシュールだなぁとは思った。
かといって本をおれの部屋へ持ってきてもらうのは皆の解読時間が削られてしまうし、おれも多少なりとも歩いたりの運動を挟みたいのでしょうがない。
午後になり、イザベラから暗に「アンタ貧弱ね」と嫌味を言われつつも症状の研究をしてもらった。
昨日もやる予定だったから、中止にされたのにムカついていたんだろう。
軽くいなしながら時間を過ごし、ようやく念願である客人と会う時間へと移っていった。
今回は軽い顔合わせなので、皇族用の庭に招いでお茶会みたいなものを行う。
おれがホスト側だから様々な準備が必要なのだが、こんな感じにしたいというおれの意向を聞いてリージーさん達が綺麗に用意してくれた。
本来ならもうちょい細かな指示をするべきなんだけど、その辺おれがまだまだ勉強不足なので下手に口出すより任せた方が断然良かったのだ。
諸々が落ち着いたらちゃんと勉強しなおさないとと思いつつ、客人が来るより前に庭へと向かっていった。
当然ながら庭は多種多様の花や樹で美しく彩られており、ちょっときつい日差しも木陰などで遮られている。
通路は煉瓦などで綺麗に整備されいる上に、噴水や水路もあって非常に涼しく過ごしやすい場所だ。
その一角に作られた東屋のテーブル席に腰を下ろし、侍女さん達と護衛に囲まれながら客人が来るのを静かに待った。
数分後、客人が来るのを兵士さんが知らせに来て、おれはいよいよだと深呼吸をし待ち構える。
数人分の足音と共に、自国の兵を後ろに従えた客人パスクアルがやってくるのが見えた。
立ち上がって出迎えに行き顔がしっかりと認識できる距離になると、初めて見るはずなのに何故か見覚えがある姿があった。
ニーヒスター特有の装飾が派手めなジャケットとズボンを身に纏っており、デフォルトで口角が上がっている天パ茶髪の男性だ。
なんだっけ、なんだっけ……? と記憶を辿りに辿りまくっている間に挨拶をすべきタイミングとなってしまった。
焦りを隠しながら全ての所作を意識しつつ、丁寧に礼をしていく。
「初めまして、パスクアル様。わたくし、第一皇女のカテリーネと申します。この度はお忙しい中お越しいただき、誠にありがとうございます」
「ああ、カテリーネ様! お目にかかれて光栄です! 噂に違わぬ美しさに、オレの心ははち切れんばかりに高鳴っております! ご病気であると伺いましたが、お体の具合はいかがでしょうか?」
「え、ええ。問題ございません。ご心配いただきありがとうございます」
あ、ああ、あああああ! メチャクチャにハイテンションな様子で思い出せたわ!!
こいつアレだ! トラシク2の女性人気がやばかった闇深その2のパスクアルだ!!