ウオオオオオアアアーーーッ!
頭がどうにかなって叫び出したい気持ちを、ふらふらとした足取りで自分の部屋にあるソファへ乱暴に横たわることで抑えていく。
「カテリーネ様、私達に出来ることでしたらなんでもお申し付け下さい」
「ありがとうございます……。大丈夫、です」
ふうとため息を吐きながらも、心配して声をかけてくれたリージーさんに返事をした。
なんとかパスクアルとのお茶会は終えることは出来たが、問題は山積みだ。
あ、アイツなんなの!? 本当になんなの!?
すっごい煙に巻いたような会話しかされなかったんだけど!?
時折挟まれるアプローチに負けず、神経尖らせて一生懸命に聞いていたおれが馬鹿みたいじゃないかぁ!
ひとつもお兄様の役に立てられる情報を入手できなかったし、ダメダメすぎるよ……。
けどこれで終わるだなんて絶対に嫌だぁ! なんの為にここまできたんだよ!
両手で顔を覆って悶絶しながらも一生懸命考えに考える。
アイツが煙に巻いているのは『自分が結婚できる機会を逃したくない』からだろう。
一番手っ取り早いの方法としては帝国側で交易として役立てる未婚の女性を紹介することだが、こんなヤツに自国民を差し出したくはない。
聞いてみたら希望者はいるかもしれないが、……さっぱり覚えてないけどゲームで「お前よ~ふざけるなよ~」って思った出来事があったんだよ。
不幸になるかもしれない確率が高いのに出せる訳がない。
政治ってそういうもんかもしれんが、遺恨は残したくないよねって……。
で、当然おれがパスクアルと結婚するのもなし。絶対になし。
おれは! ヴァルムントくんがいいし! ヴァルムントもおれのことを想ってくれているのを無下になんてできないし!
国としては強固な接点ができるのは良いとしても、元帥たるヴァルムントを裏切ってまでするものではない。
だから結論としては、パスクアルにこの国じゃ国際結婚はできないと諦めてもらうのが一番なのでは?
ああ~~、ゲームでのことをちゃんと覚えていたらもっといい解決方法を思いつけたはずなのに!
なんで湖岸での殴り合いが殴り愛とか言われててお姉さま方に人気だったっていうのしか覚えてないんだ……!
しばらくソファの上でじったんばったんを繰り返していると、扉をノックする音が耳に入ってくる。
侍女さんが対応をしに行って相手の用件を聞き、戻ってきた侍女さんが控えめな声でおれへ話かけてきた。
「ヴァルムント様がお越しです。いかがなさいますか?」
お茶会の話を聞いて来たんだよな? 早すぎない?
絶対にあんな風に口説いてくるパスクアルと会うな! って言われちゃうよぉ〜!
先に来るならお兄様だって思っていたんだが、多分忙しすぎてすっ飛んで行けないからヴァルムントくんを差し向けたな!?
ヴァルムントもヴァルムントで忙しい中来なくていいんだぞ……。
体を起こして服をある程度整えてから通していいとOKを出す。
なんでもないように見せる為にシャッキリと背筋を張って、心配顔をしているヴァルムントを出迎えた。
……ん? いや待てよ?
まさかそんなことはないとは思いつつも、念には念を入れて先制をしておかねばと、ヴァルムントが喋り出す前に宣言をしておく。
「ヴァルムント様! わたくしはヴァルムント様以外と結婚いたしません! わたくしにはヴァルムント様だけです!」
か、勘違いしないでよね! と、純朴ヴァルムントくんに念押しをする。
変に「実はパスクアルと結婚をしたいのでは……」と思われるのだけはごめんだ!
……や、やばい。必死すぎて逆に疑われかねないかも……と思っていたら、ヴァルムントは目をパチパチとさせてから柔らかく目を弧にして隣へ座ってきた。
「はい、私もカテリーネ様以外に婚姻を結びたいと思う相手はおりません。一生涯、私の隣はカテリーネ様だけです」
ゔぁっ、あっ、ゔ!
ち、違うんです、ヴァルムントにこういうことを言わせたかった訳では……!
ドストレートな返しに言葉を失って口をぱくぱくさせていると、ヴァルムントはおれの片手をギュッと握って質問をしてきた。
「お話をされて、何か糸口となるものは掴めましたか?」
「……止めないのですか?」
おれは「パスクアルと会うのはもうダメ!」という話をされるのだと思ってたのに、普通に話を進められて質問返しをしてしまった。
質問を質問で返しちゃアカンのに……!
やっちまったなと思いながらもヴァルムントからの返事を待つ。
「止めません。私はカテリーネ様の意思を尊重します。……ご体調に影響するのであれば、全力で止めますが」
「ヴァルムント様……。ありがとうございます」
い、イケメンだよヴァルムントくん……!
嬉しくなって体の重心をヴァルムントへ寄せつつ、ゲームの知識を元にした見解を披露する。
「パスクアル様は色恋でわたくしへ売り込みしている訳ではございません。ただの手段です。恐らくわたくし達の国に住まう女性であれば同じ態度をするのではないかと思うのです。特に、取引が盛んな地域に住まう貴族の方ならば……」
「……結婚を目的として契約を長引かせていると?」
「はい。ですがわたくし達からあのお方に紹介はしたくございません。正面を切って紹介してほしいと言わないようなお方に、わたくし達の民を幸せにできるとは思えないのです」
不幸になる云々を上手く説明できず、すごいふわわ〜っとした言い訳をしてしまった。
いや貴族だったらその辺飲み込みなさいよって話になるだろうけどさ!
そんな曖昧な言葉なのに、ヴァルムントは信じてくれたらしく素直な頷きが返ってきた。
「私のカテリーネ様へ言い寄ってくる者が誠実な態度を取れるはずもありません。仰る通りです」
そっ、そ、そうだよなぁ!?
婚約者がいるおれに言い寄ってくる時点でおかしいもんなぁ!?
あわあわしながらも一生懸命に次の言葉を口に出していく。
「で、ですので、パスクアル様には理解していただきたいのです。我が国では貴方の願いを叶えられないということを。そうすればきっと、停滞していた契約は進むのではないかと思うのです」
本当にそれで進むかは分かんないが、少なくともやらないよりかはマシだと思うんだよね!
でもどうやって理解させるかが一番の問題だよなぁ……。
う〜んと2人で悩んでいると、リージーさんが目も口もにっこりとさせながら近寄ってきた。
「失礼します。恐れながら私から1つ提案を申し上げてもよろしいでしょうか?」
「リージーさん? 何かあるのでしょうか?」
「はい。理解していただくにはとても最適かと存じます」
リージーさんは微笑んでいるのに、絶妙な怖さが伝わってきておれは少し身を震わせた。
え? 変な提案しないよね? しないよね!?
そう信じていたのに、リージーさんは悪魔な提案でおれを羞恥心で爆発させにきたのであった。
「パスクアル様の前でお二人の仲の良さを見せつけるのが一番かと思います」