カテリーネ様の部屋を辞して仕事へと戻り、成すべきことを成した後にディートリッヒ様の部屋へと呼ばれた。
あからさまに見えている未来に困り果てながらも部屋を訪れると、実務机で頭を抱えているディートリッヒ様が目に映る。
カテリーネ様とお会いし、あのお話を聞いたのだろう。
ああこれは……、と思いながらも一歩一歩近寄っていく。
そうして机の前へと立つとディートリッヒ様が椅子から立ち上がり、勢いよく机を叩いて書類が宙に舞い体全体を震わせるほどの音が部屋に響いた。
当人は音が響く前から震えており、大きく目を見開かせて私を見つめている。
「お……、お、お前がっ!」
こうなる展開は十分に予測できていたので覚悟していた。
全て受け入れるべく腰の後ろで指を組ませ、一切抵抗しない姿勢をとっている。
そうして顔の筋肉という筋肉を震わせているディートリッヒ様は、大声で高らかに主張をした。
「お前がカテリーネとイチャイチャするんなら俺がイチャイチャするううううっ!」
「それはディートリッヒ様がされても『兄妹仲が良い』という主張になるだけで意味がないです……」
「くそう、どうして、どうして……! ……いや、理由は分かるぞ!? 分かるが……っ! くううううううう!! お兄ちゃんは悔しいっ!!」
つい反論してしまったが、理解していてもやりたいから主張しているらしく、豪快に足で床を踏み鳴らしていた。
……正直な話、リージーから提案されたものは荒唐無稽である。
行ったとしても確実に諦めるとは言い難く、かえって反発して悪化も考えられた。
それでも私が提案を受け入れることにしたのは、カテリーネ様がお顔を真っ赤にし震えながらも「や、やります……」と仰ったからだ。
ディートリッヒ様はしばらく存分に暴れ散らかした後、大きく深呼吸を繰り返えされてから静かに椅子へ座り直した。
「カテリーネが……、カテリーネがやると言ったからには尊重するが……っ! どうしてこんなことに……」
「無事に終了した暁にはディートリッヒ様と時間を取ると仰っていましたが」
「それとこれとは別だ! 嫌味かお前は!!」
どのあたりが嫌味になったのか気になったが反論する訳にもいかず、口を閉じてディートリッヒ様の八つ当たりを受けた。
気が済むまで私に対して愚痴を飛ばした後、大きなため息をついてテーブルに上半身を預けながら呟かれる。
「別にカテリーネの主張を信用していない訳じゃない。侍女達の報告からも口説く割には『熱』がないと言っていたし、あの男は国から出たがっているという情報も聞いていたからおかしな話ではない。色々と理由をつけて婿養子になりたいんだろう。しかしなぁ……」
ディートリッヒ様は少し体を起こし、頬杖をつきながら怪訝な表情でぼやいた。
「これまでの期間に婿養子に入りたいから紹介してくれと、それとなく言えたはずだ。何故カテリーネと会うまで言わなかったんだ? 他に別の目的でもあるのか? 考えられる目的がありすぎて分からん。 ……実は色情がないように見せかけているだけで、本当にカテリーネに惚れたんじゃないか!? 俺のカテリーネは渡さないぞ!!」
「真に惚れている場合はわざわざ隠す必要性が感じられません」
何度も拳で机を叩く暴れっぷりを見せ始めたが、私の言葉に固まり「それもそうか」と言って静まった。
……カテリーネ様のことだからとはいえ、あまりにも情緒が不安定すぎて心配になってくる。
「ま~ともかくだ。本当に婿養子になりたいってんなら、一度条件に合いそうな者を会わせてみて反応を見るって手もある。カテリーネは不幸になるから会わせたくないっぽいが、それで政治は回らないからな……」
ディートリッヒ様の仰る通りではあるのだが、カテリーネ様の民を想う気持ちもまた間違いではない。
だからこそ、今回の案で解決ができれば一番良い結果であると思って同意をしたのだ。
「こっそり俺の方で手配をしておくが、カテリーネには言うなよ。言うなよ! カテリーネとこれ以上喧嘩になりたくないんだからな!!」
「……解決できなかった場合はそうする、とお話されれば良い話なのでは」
「話したら、……けっ、喧嘩になるだろ……」
「ディートリッヒ様……」
一度喧嘩をしてしまったせいか完全に及び腰な姿を憐れみの目で見つつも、ちゃんと話せば問題ないと説得をする。
「カテリーネ様は落ち着いてお話をされれば理解してくださるお方です。貴方が一番信じるべきです」
「そっ、そ、そうだよな!? 大丈夫だよな!? うん! 明日ちゃんと話す! 話すぞ、よし!」
大丈夫……大丈夫……と自己暗示していたと思ったら、再び体を机に預けてくだを巻き始めた。
「やっぱり俺がカテリーネとイチャイチャしたい……。カテリーネとのんびりお出かけがしたい……。カテリーネと一緒に街歩きとかして一緒に料理を食べたりしたいぃぃぃ……」
本当にこの人は大丈夫なのだろうかとかなりの心配をしながらも、事が終わったらお二人で和やかな時間が過ごせるように動こうと心に決めたのであった。