やばいやばい、マジで途中からの記憶が曖昧だ。
イザベラが落ち着いたので一旦解散となった後、おれは窓辺のテーブルで紅茶を飲みながら焦りまくっていた。
「はぁ……」
何かを喋ったのは覚えているのに、肝心の内容がさっぱりだ。
えーっと、イザベラがジネーヴラに嫉妬? をしてキレてたのは覚えてる。
それ以降がなんだったかがすご~く曖昧で……。
……リ、リージーさんにおれが何て言っていたか聞いてみる?
い、いや~、でもそれって明らかにおれがおかしすぎるって話になっちゃうわ。
それって余計に心配をかけることになるし、今度こそ仕事諸々がなしになりそうだ。
てかおれ自身が原因をはっきりと分かっていないのに言っても……って感じしない?
手足のが原因だったらまずいか?
な〜んかイザベラはイザベラで、退室するまでおれのことをちょっと怖がっているように見えたし……。
でもなぁでもなぁ! すっごく深刻にとらえられるのも嫌なんだよね。
単純におれの頭がぱっぱらぱ~になってただけかもしれないし?
次もなったらちゃんと言うから! 申告するから許して!!
しかもイザベラを宥めたのに関して、侍女さん達が「素晴らしい慈悲の御心をお持ちです」って褒めてきたけど、ただの誤魔化しだからね!?
そんな風に頭の中で考えを巡らせに巡らせていたら、リージーさんが近寄ってきて紅茶のお代わりを注いでいく。
「……カテリーネ様、お身体に疲れが出ていませんか? 少々……、気が落ちていらっしゃるように見えましたので」
……これって記憶が曖昧な部分についてのる言葉?
それとも単純にキレ散らかしてたイザベラの相手をして疲れてませんか~? っていうやつ?
わ、わから~ん! どう答えるのが正解なんだ!?
とりあえず素直に聞き返してみることにした。
「わたくしとしては疲れていないのですが、そう見えましたでしょうか?」
「はい。カテリーネ様ご自身が疲れを自覚できていないように思えます」
「……でしたら今日は本の解読のみ行い、勉強をせずに体を労ります。どうか心配しないでください」
しっかり休むからお兄様への報告もしないでおくれ、頼む〜っ!
何卒何卒と念じていたら、リージーさんはおれの言葉にホッとしたのか少し肩を撫で下ろした。
こっ、これで多分大丈夫なはず……。
記憶がまたぶっ飛ばないように祈りながら、午後の解読までの時間を潰すのであった。
◆
「カテリーネ様、ハリソン様がお伺いしたいと仰っていますが……。どうなさいますか?」
その日の解読を終えて宣言通りに『何もしない』を部屋でしていたら、侍女さんが兵士さんからの連絡を受けておれに伺いを立ててきた。
んん? なんでハリソンさんが?
う〜ん、考えられるのはイザベラについてのお詫びかなぁ。
今日はイザベラ、泣くだけで終わっちゃったし。
多分ハリソンさん代わりに手足についての調査はしないだろうと推測もして、一応話すだけならと部屋へ通してもらうことにした。
そうしてOKの連絡を受けてハリソンさんが早速おれの部屋に尋ねてくる。
中へと入って早々に礼をし、ソファに座るおれへお詫びをいれてきた。
「この度はイザベラが大変失礼な態度をとり、誠に申し訳ございません」
「いいえ、わたくしは気にしておりません。それよりもイザベラ様は大丈夫でしたか?」
「問題ございません。これも全て、カテリーネ様の寛大な御心のお陰です」
微妙におれを怖がっていた原因が分かるかもと思って聞いてみたが、ハリソンさんには心当たりがないのか普通の言葉が返ってきた。
……なんかあるのかもしれないけど、あえて言っていない可能性もなくはないか。
むずかしすぎるよぉ!
「こちらのジネーヴラがご迷惑をおかけしたこともあるのです。どうかお気になさらないで下さい」
「……そのジネーヴラさんについてなのですが」
急にハリソンさんの雰囲気が変わり、目をきらりを輝かせてこちらを見てきた。
まさか本題そっち!?
「ジネーヴラが何か……?」
「彼女は素晴らしい才能をお持ちです。是非、専属で私から魔術についての指導をさせていただけないでしょうか。彼女の能力が伸びれば、カテリーネ様の症状改善が劇的に早まるはずです」
ジネーヴラはゲームでも随一の魔法キャラであったから、ハリソンさんからそう言われるのも不思議なことではない。
おれとしてはこの手足が早く治るかもしれないなら、ジネーヴラには是非ともハリソンさんへ師事してもらいたいところではある。
けれどもね〜。
「わたくしは本人の意向を尊重いたしますので、ジネーヴラへ聞いていただけないでしょうか」
おれが勝手に決めるのは違うでしょ。
先にジネーヴラの意志を確認してからにして欲しいんだわ。
……あと真面目な話、ジネーヴラはおれの部下ではないから勝手に許可とかできん!
おれの回答にハリソンさんは何度か瞬きをしてから深く頷きを返し、そうですねと言葉を紡いだ。
「では本人へと確認をとって参ります。……この度は度重なる不敬、申し訳ございませんでした」
「大丈夫です。ジネーヴラにはお手柔らかにお願いします」
「ええ、勿論です」
そう言ってハリソンさんはきっちりとした礼をしてから、おれの部屋を去っていったのであった。