今日はパスクアルを撃退する日であり、おれが羞恥心に塗れる日でもある。
思わず頭を抱えそうになりながらも、髪の毛を飾りでゴージャスにしたりと人一倍の準備をしていた時だった。
「かっ、カテリーネ様ぁ……! あ、あたし、むっ、無理ですよぉ!」
「ごめんなさいカテリーネさん! どうやっても止められなくて……」
午前中早々にジネーヴラがおれの部屋へと突撃してきたのである。
後ろには、心配してついてきたであろうルチェッテもいた。
ジネーヴラはえぐえぐ泣きながら床に膝をつき、寄ってきたおれを見上げながら訴え続ける。
「あん、あんな、こっ、怖い人達に、ひっ、1人で教わるだなんて、むっ、無理……!」
こわ……、怖いか?
イザベラは確かに怖いだろうけれども、ハリソンさんはそんなでもないと思うんだけどな〜。
深く知ったら怖そうなのは分かる。やばそう。
ジネーヴラを落ち着かせる為にもしゃがみ込んで視線を合わせ、少しずつ認識合わせをしていく。
「何故怖いと思われたのでしょうか?」
「だっ、だ、だって、その、よ、よく知らない人と、一緒にいるのは、怖くて……!」
「でしたら、どなたか知人の方がいらっしゃれば問題ないのでしょうか?」
「そっ、それならい、いけるのに、それは、だ、駄目だって言われてっ……! お、教えるものは、あんまり、他の人に、し、知られちゃ駄目だって!」
人見知りな上に、門外不出の技術を教えるから同伴が不可である、と……。
ジネーヴラに教えることに関しては向こう側の好意でしかないし、おれ達側から同伴お願いだなんて無理は言えない。
え〜っと、詰んでねーか?
どう声をかけたものかと悩んでいたら、拙いながらもジネーヴラが言葉を続けていく。
「でっ、で、でも、あ、あたし、頑張りたかった、んです。ルチェや、か、カテリーネ様の為に、やっ、やりたくて……! な、なのに、どうしても、あ、あたしは、む、無理で……っ! ……う、うわああああん!」
「ジネ……」
咽び泣きながらの言葉におれも心が辛くなってきた。
頑張ろうって思っているのに踏ん切りがつけられないんだろうなぁ……。
ルチェッテに、状況を見守っていたユッタも駆け寄ってきてジネーヴラの背中をヨシヨシしている。
……いや、マジでどうするべきなんだよこれ。
う、う〜ん。ジネーヴラって変に盲信的なところあるし、その辺を上手く利用してハッタリを効かせてみるか?
効くかどうかは置いておくとして、やらないよりかはマシだろう。
おれはジネーヴラの頭を右手でなでなでしながらゆっくりと喋りかける。
「ジネーヴラさん」
「はっ、は、はぃぃ……」
「少し、こちらを見てください」
おれは髪の毛に飾りとしてつけられたヘアスティック──雑にいうと二股になっているかんざしを抜くと、おれの髪の毛の一部がひらりと落ちていった。
引き抜いたのをジネーヴラが見やすいように手のひらに置く。
そのヘアスティックは飾りとして緑色の小さな宝石が3つほど付けられており、優しい輝きを放っている。
これはおれがシンプルなのが欲しいって言って選んだやつのひとつだから、多分ジネーヴラのあげても問題ない……はず。
侍女さん達には髪の毛のセットし直しさせることになるけど許して……。
もう片方の手でヘアスティックを覆い隠し、目も閉じて神聖そうな雰囲気を作り出す。
魔術でほんのりと緑色に光らせながらビビビビビーっと気持ちを送った。送っただけともいう。
なんてったってヘアスティック自体には何も効果かかってないからね!
ガチのマジでハッタリでしかない。本物なのは気持ちだけだ。
そうして数秒後、時間をかけて目を開きジネーヴラを見つめた。
「今わたくしが行ったのは勇気が出るおまじないです。こちらを着けると、怖いという気持ちが消え去り自信が出てくるようになりますよ」
笑顔を浮かべながら立ち上がり、ルチェッテとユッタを下がらせてジネーヴラの後ろへと回る。
一旦ユッタにヘアスティックを持ってもらい、ジネーヴラの髪の毛を手に取った。
綺麗な巫女でいたいからと、村の人から色々な髪飾りの着け方を教わっておいてよかったぁ〜!
髪の毛をくるくる〜っと捻ってて、ぐる〜んと回転させてお団子作って、ヘアスティックを受け取って髪の毛に刺してきっちり留める!
よっし! なんとか上手くまとめられたぜ~!
自分でやるの久しぶりだったからちょっと心配だったけど、なんとかなったわ!
侍女さんが手鏡二つを持ってきてくれたので片方をジネーヴラへと渡し、侍女さんにはジネーヴラの後ろで鏡を持ってもらう。
これで後ろ髪がどんな感じかジネーヴラが見られるはずだ。
「どうでしょうか?」
「すっ、す、すごい……ですっ! き、綺麗……。あ、あたしの髪の毛じゃないみたい……!」
「普段からジネーヴラさんは素敵ですが、このように髪の毛を整えると更に魅力が増しますね」
「えっ、え、かっ、カテリーネ様そんな、へ、へ、へへへ……っ」
ジネーヴラは基本髪の毛をいじらず下ろしており、猫背ぎみで顔に影が出来やすくなっていたので陰気臭さが増していた。
今回髪の毛をまとめたことによって顔周りがスッキリして見え、明るく見えているのもあると思う。
おれが褒め称えるとジネーヴラは照れまくり、目をキョロキョロとさせ始めた。
「ジネ、本当に可愛いよ! すっごくいい! ユッタもそう思うよね!?」
「うん! とっても明るくて素敵だよ! 自信ありそう!!」
ユッタちゃん? 自信ありそうって言葉はどういう言い方なんだ……?
ジネーヴラが褒めに褒められまくって変な声を出しつつ顔を真っ赤にしたことにより、おれの疑問は華麗にスルーされていった。
「へ、へへ、なっ、なんか、後ろから明るくなってきてる感じもあって、勇気が湧いてきました……っ! こっ、これなら、あ、あたし、い、いけそうって、思いました……!」
「ジネ……!」
手をモジモジとさせながらも顔を下ではなく上にしてそう言ったジネーヴラに、ルチェッテとユッタが感動して「やれるよ〜!」と声かけをしている。
……これで解決でいいのか?
多少はプラシーボ効いてそうだけど、おまじない自体はあんまり意味なかったよな?
どちらかっていうと褒められたから上向きになった感じがする。
そんなことを思いつつも、これでどうにか乗り切れたとひっそり息を腹から吐いていたのだった。