部屋に戻って服装を綺麗にし直したりしてから、入り口付近で待ってイザベラを出迎えた。
迎えたイザベラは何故か神妙な顔をしており、その後ろにはやる気満々といった様子のジネーヴラが続いて入ってくる。
あの朝の後にハリソンさんやイザベラから、魔術についてちゃんと教わることができた……という解釈でいいんだろうか?
ちなみにジネーヴラが1人で頑張ると言い切ったので今回ルチェッテは不在だ。
ジネーヴラの成長の為にいないだけで次は戻ってくる。
「イザベラ様、ジネーヴラさん。本日もよろしくお願いします」
「……はい、勿論です」
「カテリーネ様! 頑張りますっ!」
目をキラキラとさせているジネーヴラに対して、イザベラが地の底を這っている声で業務的な返事をしてきた。
どっ、どうしたんですかねイザベラさん。
今までだったら嫌々な声で「はいはい」って言ってきたよね!?
ハリソンさんからしこたま怒られたのかな。……ハリソンさん、マジでこわそ〜。
そんなことを思いながらソファに座り、リージーさん達に手伝ってもらって手足を露出していった。
イザベラはいつもの態度に戻ることなく、自身の片腕を強く掴みながらジネーヴラへと指示を飛ばし、ジネーヴラはうんうんと頷きながら指示された通りに動き始める。
どうやら今回はジネーヴラが診るみたいで、近くでイザベラが監修としてかジネーヴラの一挙手一投足を見つめている。
「カテリーネ様、失礼しますね」
今朝までのジネーヴラだったらイザベラの視線にビビっていたはずだが、今のジネーヴラは気にすることなくおれの手足を観察し始めた。
ここまで変わるだなんてプラシーボすげ〜。
真剣な表情で手足を見つめ、変わっていないのを確認してからおれの手を取り調査をしていく。
「乱れてるわよ! 集中しなさい」
「はいっ!」
イザベラからのキツい指摘にもオドオドせず、しっかりとした返事をして続けていった。
変わったって言っても、こういうキッツいのには流石にビビった返事するかと思ったのになぁ。
……こんなにも変化するの、逆に怖くなってきたまである。
その後もジネーヴラはちゃんとした受け答えをしながら、本日の調査を滞りなく終わらせていった。
おれは手袋を装着し直しつつ、そういえばとイザベラへ質問を飛ばす。
「あの……、後どのくらい調査は必要なのでしょうか?」
「……今は大まかに7割程度の解析が済んでいます。全ての解析が済み次第、完治までの試行錯誤をしていきます」
目線を横に逸らしながら回答された内容に、おれはなるほどな〜と首を縦に振った。
要するに、全体像をちゃんと見てから治療に必要と思われる方法を組み立てていくって感じ?
下手に途中から始めて失敗したら国際問題にまで発展しかねないし、そりゃそうするか。
「御回答いただきありがとうございます。丁寧に確認して下さり嬉しいです。これからもよろしくお願いします」
礼をすると、イザベラは怪訝な眼をしつつも礼を返してきた。
……多少態度がまともになって良かった〜って思えないなぁ。
不気味に思えてきたから、元に戻ってもいいんだぞ?
おれからハリソンさんに言っておくからさ〜。
「カテリーネ様!」
「はい、ジネーヴラさん。なんでしょうか」
「カテリーネ様のお陰ですっごい自信が沢山あるんです! あたし、あたし! こんなの初めてで……!」
「ジネーヴラさんが元気になって良かったです」
ハッスル! パッション! ってのが体全体から溢れ出している。
イザベラと比例するかのようにテンション高いから、余計にこの変わり様がヤバく感じた。
プラシーボ効きすぎも問題あるんじゃないか?
いつかラハイアーあたりに騙されたりしないか?
そんなおれの心配をよそに、ジネーヴラとイザベラは部屋から立ち去っていったのだった。
◆
なんか……、なんか増えてね?
今日も今日とて本の解読をしに部屋へと歩いていっているのだが、道中で見かける兵士さんの数が多い……ような気がする。
首を傾げつつ、事情を知ってそうなカールさんに疑問を投げかけてみた。
「どうも、またお偉いさんが来るって連絡が来たらしいですわ。それに合わせて、早めに警備自体の問題がないか確認がてら増やしてるって」
「新たに来賓される方がいるのですか?」
「ええ。カテリーネ様覚えてます? あのえらい言いにくい名前の国の……、レ=なんちゃら国の姫さんです」
「……ニスリーン様でしょうか」
「そうですそうです!」
ニスリーンさんはゲンブルクで出会った目隠ししているカタコトのお姫様で、かなり不思議な人だった。
ニスリーンさんまでうちの国にくるの? なんで?
カールさんは目的までは聞いておらず、どうして来るのかは結局不明だ。
まぁ確かに、お偉いさんが城に増えて面倒事とか起こったら大変だもんなぁと納得をした。
予防って大切だもんね。やれるならやっておいた方がいい。
対策し続けるって苦労多いなぁと思いながら、部屋へと到着したので入室をしていく。
いつもの通りに指定された席に座ると、責任者の人が「ひとつよろしいでしょうか」と声をかけてきた。
「どうかされましたか?」
「カテリーネ様のご助力により、こちらの本は我が国の初代皇帝、アダルギーソと親しかった者が書いたものではないかと推測が立ちました」
マジか! 推測だから確定ではないとはいえ、やってることは間違えてないっぽいんだな!
よかった〜! これで関係ない人のだったらとんだ肩透かしだったよ〜。
「我々の文字解読が間違いでないか確認する為、これからは指定した文字を確認していただけないでしょうか?」
「分かりました。今回はどちらを……?」
「はい、こちらをお願いします」
指差された文字を目で追い、読み方と意味を伝えて離席をする。
本も手足も着々と進んでるの嬉しいな〜。
このままパスクアルの件も穏やかに終わるといいんだけどな〜……。
そんなことを思いながら、部屋を立ち去るのであった。