ニスリーンさんが帝都に近づいてくるまでは平穏な日々が続いた。
手足に本の調査も順調に進んでいて、手足は全体の解析が終わって治療方法の確立に移っている。
あれからテンションが高いままのジネーヴラが、ルチェッテやハリソンさんとイザベラと共に頑張っているんだとか。
本は調査チームが推測した通り、あの本を書いたのは初代皇帝アダルギーソと親しかった者、それも血縁関係にあった者で間違いなさそうだと結論がついた。
そうでなかったらあまりにも書きようが……、不遜すぎると。
おれも読み解いている1人だから言いたいことは分かる。
内容が絶妙に悪い意味で偉そうというか、尊大そうというか……。
小難しい言い方だったからそれを簡単に説明すると、
『アダルのバカバカ! 俺達が支配者なんだからね! ぷんぷん!』
って感じ。
初代皇帝と近かったからこその態度なのかもしれないが、それはそれとしてどうなの? って思わずにはいられなかった。
初代皇帝も困ってそうなのが文章から見て取れたし。かわいそ。
それでいて、パスクアルを含めたニーヒスター一行は割と大人しくなった。
ちょっと強引に推し進めた部分もあるとはいえ、契約締結に向けて動き出せていると。
おれがパスクアルの目に入る範囲にいても、わざわざ近寄ってくる気配もないので完全に諦めたっぽいし。
でもなー、嵐の前の静けさみたいで嫌だな〜。
このまま大人しくいてくれるのが一番なんだけどな〜。
……こ、これフラグはじゃないから。フラグじゃないって本当にさぁ!
首をブンブン横に振って浮かんでしまった嫌な予感を振り払う。
はぁ〜と息を吐いて気持ちを整えてから、今日来ると連絡が来たニスリーンさんを出迎えるべく、部屋で服とかの準備を始めた。
「カテリーネ様、本日はこちらを」
「分かりました」
「すみませんカテリーネ様、お花についてなのですが……」
「ニスリーン様のお国ではオレンジ色が尊ばれているそうです。オレンジと黄色と白を合わせた花を中心に飾りつけをお願いします」
「かしこまりました」
「あ、あと、お花に込められた意味も調べて、歓迎の意味合いのものを選らんでください。わが国のではなく、レ=カッハピュ国で意味合いです。国によってお花に込められた意味は違ったりしますので……」
服の着替えをしつつ、別の用事で来た侍女さんに指示をしていく。
何をかって、おれはこの度、ニスリーンさんの歓迎パーティー取り仕切りを任されたからだ!
……そんな壮大なものじゃないけどね!
おれが帝都に帰ってくる前に来ていたパスクアルの時にもパーティーは開催されていたらしく、そりゃもやるしかないと。
本来パーティーのあれこれを決めるのは皇妃の役目で、皇妃からの指示を汲んで配下が準備をしていくものなのだったりする。
でも今現在、皇妃はいないのでおれにお鉢が回ってきたのだ。
指示するだけだからあんまり動かないし大丈夫だろうと、お兄様がおれへ仕事を回してくれたともいう。
感動してお兄様ありがとう〜っ! ってぎゅうぎゅう今までの分も含めて抱きしめ、ほっぺにちゅ〜もしておいた。
非常に満足そうにしていたから多分これでよかったと思う。
ま、動かないって言ってもあれこれ調べたり考えないといけないことばかりなので大変だ。
だからって手は抜けない。国の威信がかかってるし、万全の準備をしないとね!
うお〜! 頑張るぞ〜っ!
◆
一度王座の間でお兄様と共にニスリーンさんを迎え、パーティーが後日行われると話した後、改まった話をする為にニスリーンさんと応接室へ移動し、互いにソファへと腰を降ろして話を始めていった。
相変わらずニスリーンさんも護衛の人も目元が見えないフードを被っている。
見にくくないのかなぁ。……過去に髪の毛で目隠ししてたおれが言えたことじゃないか。
「カテリーネ様、お久しぶりですネ」
「ご無沙汰しております、ニスリーン様。見聞を広める為にさまざまな国を巡り始めたとお伺いしました。道中大変だったと思いますので、どうぞごゆっくりお過ごし下さい」
「フフ、ありがとうございまス。嬉しいでス。カテリーネ様のお国に訪れるのヲ、とても楽しみにしていましたかラ」
よくある言葉〜って思っていたら、ニスリーンさんは本当に楽しそうな雰囲気を醸し出していた。
……おれがゲンブルクで語ってた帝国の話にちゃんと興味持っててくれたんだ。う、嬉しい……。
この後もウチの国の良いところを見てもらって、国同士で貿易とか何かしらできたらもっと嬉しいから頑張ろ……!
「まぁ、嬉しいです! 気になる場所がございましたら何でも仰って下さい。可能な限り、ご案内するよう申しつけますから」
おれが案内してあげたいところだが、外でるのは手足のこともあってできるだけ避けたい。
普通は皇女自ら案内はしないので、ニスリーンさんはおれの言葉に疑問を抱くことなく返事をしてくれた。
「色々な場所を見たいと思っていましたかラ、助かりまス。カテリーネ様のおすすめの場所はありますカ?」
「わたくしのおすすめの場所は……」
ニスリーンさんが気に入ってくれそうな所をいつくか上げ、軽くかいつまんだ説明もした。
本当に気に入ってくれるといいな〜。
「……以上になります。他にも様々な場所がございますので、気になるようでしたらお気軽に仰って下さい」
「エエ、ありがとうございまス」
「では、そろそろニスリーン様もお疲れかと思いますので、是非お部屋にてごゆっくりお寛ぎ下さい。兵に案内をさせます」
2人共席を立ち、控えていた兵士さんにニスリーンさん達を客室へと案内をさせる。
兵士を先頭として出ていったのを見送ってから、おれもまた部屋を出ていったのであった。
「ニスリーン様、お部屋はこちらになります。何かございましたら何なりとお申し付け下さい」
「ありがとうございまス」
「いえ。では、失礼いたします」
「……フフフ。本当ニ、楽しみだったのでス。『一番違う』カテリーネさン……」