帝都内や周辺に城内の見回り、国内で異様な集団を見かけたり異常事態が発生していないかの確認。
国外から攻めてくる兆しがあるか、など多岐に渡る安全確認を行なっていた。
その一環でセベリアノと情報の認識合わせをすべく、本日昼にある会議室へと立ち入った。
予定通りにセベリアノはいたが、数枚の紙を持ちながら険しい表情で右往左往している。
中央にあるテーブルの上には何十枚ものの紙が散らばっており、呆れ顔でヘルトが内容を見ながら整理をしていた。
「ヘルトもいたのか」
「あっ、ヴァルムント。うん、セベリアノがまとめて報告させてくれって」
「バラバラに報告するよりまとめた方が楽だしさ〜。……本当はディートリッヒ様と一緒に報告したかったんだけど、時間合わなかったからね」
「構わない」
ヘルトも共に聞くべき情報であれば何の問題はない。
セベリアノは私の返答を聞くと、「よしよし」と言いながら持っていた紙をテーブルに置いて話し始めた。
「ディートリッヒ様から命じられて調べてた件について話すよ。オレが色々探った限り、例の魔術師はニーヒスターに直接は関わっていないと思うんだよね」
「理由は?」
「あの魔術師──ロッセッラは、癇癪持ちで暴れることがあるっぽいんだ。村に行く途中で焼け野原があったのを元帥は見たでしょ?」
「ああ。確認した」
「イブラント側に聞いてみたらさ、その焼け野原を目印にして追いかけてたらしいんだ。……他にも方法がありそうだけど、そこは今回関係ないから置いとくよ。で、その痕跡を日付順に繋いでいくと、ニーヒスターへはどうやっても寄らない形になる。一応言っておくと、合間合間にニーヒスターへ寄れるような所にはなかったらしい」
「なら、ニーヒスター側は魔術師と関係ないんだね」
ほっと肩を撫で下ろしたヘルトに、セベリアノはテーブルを指先で叩きながら言葉を続けた。
「絶対に関係ない、とは言い切れないかな。ロッセッラには『協力者』がいる。その協力者と繋がっている可能性は否めない」
あの魔術師は『言われた通り』と言っていた。
誰か──仲間がいないと出てこない発言だ。
イブラント側から聞いた情報によると、魔術師は1人で国を脱したとは思えないとも言っていた。
それらを踏まえると1人で行動しているとは思えない。
「ま~、ニーヒスターと繋がっている証拠も何も見えないから、結局オレ達ができるのは警戒しかないんだけどね〜……。兵士達の様子も確認した限り話してなさそうだし」
「そうか……」
「元帥の予感は杞憂……、ってことで片付けたい気持ちはあるけどな~」
「セベリアノはそうは思えないから悩んでるんでしょ?」
「正しくそうなんだよね~。あ~、見えなさすぎてモヤモヤする~」
セベリアノは首を傾げながらヘルトを見つつ、指先で弧を描いてため息をつきながらこう言ってきた。
「けどさぁ、パスクアル王子の結婚願望についてはお姫様の杞憂だったんじゃないの~? オレもこっそり元帥達のイチャイチャ場面見てたけどさ~、あの王子の顔は妙に冷めてたんだよね。本当に国から脱出したくて婿養子になりたいなら、もうちょっと喰らいつくとか怒ったりするでしょ? お姫様を揶揄いたかっただけでしょ」
「揶揄いたかったかどうかは分からないが、安々と引き下がるのは奇妙ではないか?」
「それを揶揄いだって言ってるの。揶揄っているのにガチなの出されたらそりゃ冷めるでしょ。……それはそれとしてさ、ニーヒスター側が契約をごねるのをやめたの、気持ち悪くない?」
「……何か目的を達成した、とか? それとも、準備が整った?」
三人で考えども答えという答えは出てこず、後味の悪さを覚えながらもその場を解散したのであった。
◆
様々な物事に追われる中、僅かながらに空いた時間でカテリーネ様の下へと訪れることにした。
もう就寝なさっている時間に近いが、一目だけでも見られればとお部屋へ向かうと起きていらしたらしく、寝衣に身を包んだカテリーネ様が出迎えて下さった。
「お疲れ様です、ヴァルムント様」
「いえ、カテリーネ様の方がパーティーの準備なども含めてお疲れでしょう」
「ふふふっ。確かに大変なことはございますが、今のわたくしは幸せです。お兄様の為に、皆様の為に動けることが何よりも嬉しいのです」
心の奥底から思っているであろう喜びが声から、たおやかな笑顔から滲み出ている。
誰が見たとしても、一目で幸せであると理解できるほどだった。
私はそのような愛らしいカテリーネ様の様相に心を擽られ、衝動のままに腕で包み込むように抱きしめる。
突如抱きしめたことに驚かれたカテリーネ様は一瞬体を揺らされたものの、私の背中へ手を回して抱きしめ返してくださった。
「……きっと、このままいけばわたくしの手足が治って、ヴァルムント様の異変も解けるはずです。それまで、共に頑張りましょう」
「はい、勿論です」
今一度、カテリーネ様を強く抱きしめる。
このまま抱きしめ合ったままでいたいが、カテリーネ様のご負担を考えるとそうもいかない。
そっと離れた後、カテリーネ様の額に唇をお落としてから「おやすみなさい」と伝えて部屋を辞していった。