鼓膜を大きく揺らした音に、ある人はしゃがみ込み、ある人は警戒態勢に入り、ある人は何が起こったのか分からないと棒立ちになっている。
おれは馬鹿でかい音にビビって体を揺らし、隣にいたニスリーンさんは口元に手をやるだけで全然ビビってなかった。強すぎない?
「ヴァルムント」
「お任せください」
当然お兄様やヴァルムントは顔を厳しい表情に変えて大声で指示を飛ばし始め、兵士さん達が一斉に動いて皆を護るような隊形をとる。
そのうちの何人かは指示を受けてこの場から走って去っていき、何が起こったかの確認をしに行ったみたいだ。
そんな中でもハリソンさんとイザベラが突然の出来事に騒めく参加者の中を掻き分け、おれ達の近くまで歩いてきた。
「よろしいでしょうか」
「どうされましたか、ハリソン殿」
「……気配がします」
具体的な名前は言われずとも分かった。ロッセッラのことだろう。
同じく理解したらしいヴァルムントは一瞬眉を顰めたのち、すぐに表情をもどしてハリソンさんに声をかけた。
「共に行きましょう」
「ええ、よろしくお願いします」
「やっぱりワタクシも……!」
「イザベラ。貴女はここに残り、皆さんを守って下さい。こちらで万が一があった時に対応できるのは貴女しかいないんですから」
イザベラが食いかかったものの、ハリソンさんからの言葉に一応納得をしたのか渋々引き下がっていった。
「ヴァルムントさん、私の手を掴んでもらってもよろしいですか」
「何をなさるつもりですか?」
「飛びます」
飛ぶ? という疑問を置いていくように、ヴァルムントがハリソンさんの手を掴んだ瞬間、2人を渦巻くように風が巻き起こった。
どんどん風によって宙へと浮き上がり、高く高く昇っていく。
帝都全体を見渡しやすいであろう位置まで辿り着くと、問題が巻きおったと思われる場所へと勢いよく向かっていった。
そ、そんなこと出来るんだ……!?
ゲームで風魔法使って位置移動とかあったし、ハリソンさんくらいの人ならそりゃ長距離移動を出来なくはないのか。
「ディートリッヒ様! 宝物庫の辺りです!」
ヴァルムントが飛んでいきながらも大きな声で該当の位置を大まかに伝えてくれた。
宝物庫ってことは何か狙って入り込んできたのか?
でもロッセッラがわざわざ狙うような物があったのかなぁ。
ざっと中に何があるのかは教えてもらってたけど、狙われそうなものがさっぱり思いつかない。
金銭的に価値があるものを欲しがってるとは思えないんだよねえ。
なら歴史的に価値があるもの? ……それでどうロッセッラの利益に繋がるんだろう。
悶々と考え込んでいるうちに、お兄様は冷静に指示を飛ばしていく。
「皆が見た通り、我が国自慢の元帥に、イブラント国随一の魔術師ハリソン殿が対応に当たっている! 事態は早々に収拾されるであろう! また、万が一にも備え、イブラント国魔術師のイザベラ殿が待機されており、兵も集結させて皆の安全確保を優先させている! より良い場所へと移動してもらう為に、兵の誘導に慌てず従ってほしい! 俺は指揮を取りやすい場所へ移動をする」
場にいる全員に届く声量で告げられた言葉は自信と威厳に満ち溢れたものであり、怯えていた人達の心を安心させるものだった。
それで正気に戻った人達は、慌てずに従う姿勢へ変わっていったのである。
流石お兄様、立派だ……。
心の中で盛大な拍手をしながら、お兄様の指示に従うべくニスリーンさんと一緒に兵士さん達の誘導先へと移動しようとすると、お兄様から声をかけられた。
「カテリーネ、お前は皆といっ……。……いや、違うな。……俺と一緒に来るんだ」
おれも一緒に? 邪魔にならないか、それ?
とはいえお兄様がそう判断したのならと、特に反論することもなく一緒に行くことにした。
「分かりました。……ニスリーン様、この度は申し訳ございません。また後日、お詫びに何かさせていただけないでしょうか」
「フフ、大丈夫ですヨ。今はやるべきことをやりましょウ」
ニスリーンさんは気分を害した様子もなく、素直におれ達から離れて手を振ってくれた。
反対に離れなかったのがイザベラだ。
胸の前で腕を組んで口をムッとさせ、おれ達から離れようとしない。
「イザベラ様? ハリソン様が皆様をお護りするよう仰っていましたが……」
「……ワタクシが残るべきはこっちだと思うのですけれど?」
「いいや、イザベラ殿にはあちらの方々を護っていただきたい。貴女は大事な戦力であり、皆が安心できる要素でもある。色々と頼ってしまって申し訳ないが、俺が責任を取るから向かってくれないだろうか」
流石のイザベラもお兄様の前では反抗的な態度を取り続けられないらしく、曲げていた口を窄めて困った顔へと変化させ一歩後ろへと下がっていく。
「……っ、わ、分かりました。で、ですが、いつでもお呼び下さい」
「ああ。ありがとう」
爽やかな笑顔を浮かべて見送る姿勢をとったお兄様に、イザベラはタジタジになりながら少し遠くなった集団へと小走りで近寄っていく。
やっぱイザベラ、イケメンに弱いんだな……。
遠い目でイザベラを見送りつつ、おれの護衛や侍女さん、お兄様とお兄様の護衛と共に『指示しやすい場所』へと移動をしていったのであった。