お兄様と移動している最中に見た限り、城内は慌ただしくなっているが、行き来をしている人達は意外と落ち着いて行動しているのが分かった。
途中途中で大きく崩れたり爆発する音が響いてびっくりはしても、すぐに立ち直っていく。
元々警備を増やしていたから対応がしやすかったのと、お兄様やヴァルムントが冷静に対応を始めてくれたからだろう。
多分、みんなお兄様達を信頼しているから動けてるんだなぁ。
色々考えながらも辿り着いた先は、正面玄関にほど近い場所にある小会議室だった。
扉に何人か、窓際に何人かの護衛の人が立って警戒をし、おれとお兄様は兵士さんが引いてくれた椅子に腰を下ろす。
早速別に入ってきた兵士さんからの報告をお兄様が受けていると、ひいひい言いながら走ってきたらしい闇深軍師が入室してきた。
「こっちいるって聞いたんだけど今どうなってるの!?」
「お前の方が先にあれこれ知ってそうだと思ったんだがな」
「オレも打ち合わせ中だったから酷い音が聞こえたくらいしか知りません! 一緒に状況聞かせてください!」
闇深軍師は呼吸を整えながらお兄様の近くに立ち、報告を聞く姿勢をとる。
中断された兵士さんは途中から聞いた闇深軍師にも分かりやすいように再度報告をしていく。
おれはその報告を聞きながら、移動した時のことを思い返していく。
パーティー会場から避難する集団の中には当然パスクアルも混じっていた。
そのパスクアルは特に焦りもせず怖がりもせず……、という『凪』な状態にしか見えなかった。
王子だし、こういう突発的な出来事があっても冷静でいられそうだから、そうおかしな表情ではない。
……変に杞憂しすぎなのかなぁ?
ゲームのことあんまり覚えていないせいで余計な危惧をしているのかもしれん。
おれが考え事をしている横で、次から次へと兵士さんが入れ替わり立ち替わりお兄様の前に立って報告してしていき、闇深軍師でそれらの状況整理をし始めた。
「えーっと? 現在ロッセッラはエイデクゥを放ちながら逃げ回っていて、元帥とハリソンさんが対応しているから建物の損害は酷くとも、兵を多めに配備していたお陰もあって人的被害は抑えられている、と」
前回戦った時はおれ達を護りながらヴァルムント1人でロッセッラとエイデクゥ2体(+1体)を相手取っていたから、かなりの苦戦を強いられていた。
今回はハリソンさんという強力な助っ人に、沢山の兵士さん達がいるから苦戦とまではいっていないっぽい。
「人的被害はなくとも建物の倒壊が激しいと動きにくくて、魔術師を捕えるのに人海戦術が取りにくくなっているがな」
「あの2人のことだからその内捕えられると思うけど、な〜んかおかしいんだよなぁ。ヘルトにも向かってもらおうかなあ……」
「それは戦力過剰だろ。そもそもヘルトは今どこにいるんだ?」
「城の中にはいるはずですよ。というかもう向かってるかも」
正義感のあるヘルトくんのことだから、既に現場へ向かってるんだろうな。
これなら速攻でロッセッラも捕まるんじゃない?
まあ大丈夫だろうという雰囲気になったところで、闇深軍師が首を傾げた。
「どうやってロッセッラは城内に入ってきたんだろ。しっかり城内に入る人間の身元は確認しているし、ロッセッラは火の使い手でハリソンさんみたいな風魔法使いじゃないらしいから、飛んで入ってこられないはずなんだけどなぁ」
「いくら入退場管理をしたとしても漏れるものは漏れる。いかにそこから挽回していくかだ」
「それは分かってますよ〜。それで、宝物庫から盗まれるようヤバいやつありましたっけ?」
「俺からしたらガラク……ごほん。こういう言い方はヴァルに怒られるんだった。えーっと、歴史に関するものが大半だ。前にカテリーネ達の力になりそうなのがないか確認したから、特別なものはないと思うんだがな……」
お兄様、いつの間にチェックしてくれてたの!? おれ全然知らなかったよ。
でもお兄様には分からなくておれには分かる物があったかもしれないから、改めておれがチェックしてもよかったと思うぞ〜。
「ディートリッヒ様が分からないだけで、盗む価値があるものは存在していたんじゃないですか? ……あと考えられるとしたら、誘導かな」
「ヴァルムントやハリソン殿をか?」
「うん。……やっぱりヘルトはこっちにいた方がいいんじゃ……。あ〜……。ちょっとそこの人、ヘルトやナッハを呼んできて! 魔術師の対応してても絶対にこっちへ来いって!」
部屋の中にいた兵士さんに伝令を頼んだ闇深軍師は、自分の顎を指先で弄りながら言葉を続けていく。
「念の為にここの護りを厚くしよう。ディートリッヒ様やお姫様を狙う為の誘導かもしれない」
「……それはあり得るな。だが厚くするとしてもここではなく──」
どぉん! と、再び大きな音が鳴り響く。
継続して崩れたりする音は鳴り続けていたのだが、今起こった崩れる音は宝物庫方面ではない場所から聞こえてきたように思えた。
おれが服をぎゅっと掴んでいる間に、外で様子を見ていたらしい兵士さんが急いで部屋へと入って報告をしてきた。
「報告します! 東門の方からエイデクゥが出現しているのが見えました! 宝物庫側から魔術師が移動はしていないはずです!」
それはつまり、ロッセッラではない別の誰かが──ロッセッラの仲間がエイデクゥを出現させたということだ。
お兄様は立ち上がり、おれのことを立ち上がらせて手を握ってきた。
「……カテリーネ、移動するぞ。大丈夫だ、お兄ちゃんが絶対にお前を護るからな」