なんっでお兄様はバリバリなフラグを立てようとするの!
そんなの絶対に許さないんだからな!
ぷんすかしながらお兄様の手を握り返し、リージーさんにおれの護衛、お兄様の護衛5名に囲まれながらずんずん進んで部屋を出ていくのに着いていく。
慌てて追いかけてきた闇深軍師にお兄様は冷静に指示を飛ばした。
「ヴァルムント達には魔術師を捕らえ次第にこちらへ来てもらえ。ヘルトとナッハバールにはこっちに来させないで東門に当たらせろ。他の兵力もできる限り東門に向かわせてくれ。俺達が狙われる分にはいいが、民や客人にまで被害が及んではいけない」
「それは分かってるって! けど何処に行くつもりなの!? 貴方達は大人しく守られていてくれないと! 特に貴方がいないとアレコレ面倒になるんだよ!?」
「失敬だな〜。お前達とは戦っていなかったが、俺だって戦えるんだぞ? それに、目的は俺達じゃないかもしれない。だが万が一に備え、隠し通路を使って見つかりにくいであろう場所へ移動する。これでどうだ?」
「隠し通路って、……お姫様だけを逃すようなことはしないで下さいね」
すっごい苦虫を噛み潰したような表情をした闇深軍師の忠告に、お兄様はその手があったか! と言わんばかりの目をした。
こらーっ! お兄様に変なアイディアを与えるなーっ!
「お兄様! わたくしだけ逃げるだなんて嫌です! そもそも護衛の方々が許しません!」
「我々が護るのはお二人なのですから当然です!」
1人代表して間髪入れずに言い切ってくれたお兄様の護衛にほっと溜息をついた。
ラドおじさまやゲオフさんにカールさんも頷いてくれているし、これでお兄様単独で暴走はできないはず。
お兄様はごめんごめんと言いながら闇深軍師へ指示を続けた。
「それでセベリアノ、俺達がいない間の指揮を頼めるか?」
「……承知しました。絶対にぜっ〜ったいに無理をしないでくださいよ!」
念押しに念押しをした後、闇深軍師はおれにも顔を向けて後押しの言葉を飛ばしてきた。
「お姫様も、ヴァルムント元帥やヘルトがいることを忘れないでね」
「大丈夫です、分かっております」
おれに何かあったら2人が心配するのは理解している。
ちゃんと頷きを返したのに何故か微妙な顔をした闇深軍師と別れ、お兄様に導かれるがまま廊下を進んで行ったのであった。
◆
廊下を右に行って左に曲がり、そこから階段を上がって右に行き2つ目の曲がり角を左に……と、長すぎて省略した複雑な道程の末におれがあんまり行かない場所まできた。
炎の灯りばかりで日当たりが少なく行き来している人もいない。
石レンガ壁なので余計に薄暗く見えており、分かることと言ったら城の内側にいることくらいだ。
「お兄様、どちらへ向かっているのでしょうか……?」
「前にお前へ教えた隠し通路があっただろ? それとは別にまだまだ道があるんだ」
前にお兄様から緊急時に使えと隠し通路を教えてもらったが、おれが主に利用する場所の近くにあるのだけで全てではなかったらしい。
まあ全部教えられても覚えられないから正しい判断である。
「あそこはもう俺しか知っている者がいない。しばらく避難する分には最適な広さもある」
「……他にご存じの方がいらしたのですか?」
「あ〜、……その、色々な仕事をしていた皇帝付きの者達がいてな。信じられないほど忠誠心が高かったから、先の戦争でアイツと運命を共にしているはずだ」
おれにハッキリ言いにくいのか、気まずい顔してぼかした言い方をしてる。
配慮してくれたところごめんねお兄様。おれ、なんとなく知ってるんだわ。
皇帝が裏で動かしていた兵……、要するに暗部みたいなやつでしょ?
ゲーム内でヘルトくんが対峙した敵の中にそれっぽいのがいたの覚えてるんだよね~。
まあその辺は置いておいて、お兄様が言っているのは嘘ではない。
頭おかしいって言えるほど愚直に皇帝へ付き従うやつらだった以上、最後の最後まで前皇帝の為に戦ったはず。
……おれもお兄様も『はず』としか言えないのは本人確認も何もできていないからだ。
解放軍が帝都を攻めてからお兄様のところに行くまでそこそこの間があったので、遺体は既に火葬されて確認は不可能だった。
だから遺留品とかで確認するしか方法はなかっただろうし、暗部だとしたら個人を特定するようなのは持たないだろうし……。
この辺は気にしててもどうにもならないことなので、死んだとみなすしかない。
そもそも生き残ってたら次代皇帝のお兄様に接触するでしょ。
いくつかの部屋への扉が並んでいる廊下の突き当たりに到着すると、お兄様は一度石レンガの壁をよーく見てから護衛の兵士さんに声をかけた。
「ここで間違いないな。左端の下から3番目の石壁を2回、右端上から5番目、右から3つズレた場所を5回押してくれ」
「はっ」
1人の兵士さんが指示された通りにレンガを押していくと、ガコンと何かが外れる音がした。
兵士さんはお兄様に目で確認を取ると、他の兵士さんと一緒に体で石壁を押していく。
重低音を響かせながら石壁が奥へと動いていき、その奥の左側に通れそうな空間が見えてきた。
人が一人通れるほどまで石壁を押し切ると、左側にあった空間が下へと続く階段だったのが分かった。
「よし、行くぞ。……アデルモ! お前は付近に残り、ここに近づく者を警戒してくれ」
「承りました」
アデルモさんが後ろへと下がって周辺の警戒に行き、壁を押していた2人の兵士さんが光の魔法を使って光源を作り出し先行していく。
おれ達はその後に続いて階段を降りていくと、残りの2人の兵士さんが石壁を元に戻す為の仕掛けっぽいレバーを一生懸命動かしていた。
再び鼓膜を揺らす重低音を聞きながら、お兄様と繋いでいた手を離して足元に気をつけながら階段を降りていく。
降り切った先にはお兄様が言っていた通り広い空間が広がっており、奥の方にはまた別の通路が続いているみたいだった。
扉を閉めていた兵士さんも合流したところで、お兄様が体をほぐす為にか肩を回しながら喋り始める。
「この先は西門の外側へと続いているが、まあ今回は出なくていいだろう」
「ディートリッヒ様、何かがあってはいけませんので出口付近まで確認して参ります」
「ん、分かった。よろしくな」
1人の兵士さんが奥の廊下へと歩いていくのを見送ってから、おれはふーっと息を吐いた。
思っていたより緊張していたらしい。
そんなおれを安心させる為に、ラドおじさまが頭を撫でてくる。
「大丈夫だ。わしらがおる。ヘルトも、ヴァルムントも必ず事を治めてくれる」
「勿論です、おじさま」
あの2人がいれば大体なんとかなるっておれも分かってる。
なんてったって主人公とその最強のライバルであり、おれの大切な人達だからだ。
だから問題ないって思っているのに、どうしてこうも不安が付き纏って止まらないんだろうか。
ぎゅっと両手を掴んでいると、お兄様が手のひらを置いてきて優しい微笑みを見せた。
「お兄ちゃんのことも忘れないでくれよな〜」
「ふふふ、忘れておりませんよ」
お兄様がおれの緊張を解こうとしてくれたその時、兵士さんが確認をしに奥へと行った廊下から金属が弾き飛ばされた音とうめき声が聞こえてきて、おれ以外の全員が一斉に構える姿勢をとり始めた。
カールさんやゲオフさんがおれの前へと出て、ラドおじさまがおれを廊下から遠ざけていく。
「お、お兄様……」
「大丈夫、大丈夫だ」
ひとつ、足音が聞こえる。
その音は確実に金属が擦れる足音だった兵士さんのものはない、軽めの足音だった。