TS生贄娘は役割を遂行したい!   作:雲間

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XXXV

 

 宝物庫は城壁内にはあるが城内には組み込まれておらず、別個に宝物庫として建てられている。

 不審な者が近づいたら分かるように、周囲は芝生だけの空間が広がっていた。

 その近くには城の端部分が存在しており宝物庫を見渡せるようになっている。

 多くの人の目があった方がいいだろうと、食堂など人が来やすい施設や業務などが割り当てられている場所だった。

 

 ハリソン殿によって飛んでいった宝物庫近くでは、魔術師ロッセッラが狂笑をしながら炎を撒き散らし、エイデクゥを解き放っていた。

 複数のエイデクゥが城の一部を破壊し、兵や戦闘能力を持たない者に襲い掛かってる。

 最前線でエイデクゥと対峙している兵達や戦士の前へと降ろしてもらい、エイデクゥへ剣を構え氷を放ち下がらせた。

 

「元帥! 来てくださったのですね!」

「状況は!」

「宝物庫の近くより、あの魔術師が突如現れエイデクゥを出してきました! 現在第3部隊が先頭にあたり、第五部隊が避難させようとしていますが、……ご覧の通りです」

 

 建物の崩落や炎により、怪我をして動けなくなった者や逃げ場を失った人々がいる。

 第五部隊は避難させるよりも護った方が良いと判断し、迫り来る脅威を押し除ける形をとっていた。

 宙に浮いたままだったハリソン殿は、怒りの形相でロッセッラのいる場所へと飛んでいく。

 

「ロッセッラ!!」

「あ〜。なんでここまできてんの? マジだっる。うざいんですけど」

「……なんですかその喋り方は。それが貴方の本性だったのですか」

「うるっさいんだよ! いつもいつもいつもいつも! ウチの好きにさせろよ!」

 

 高出力の炎が渦を巻きながらハリソン殿に向かっていく。

 ハリソン殿は相殺するかのように逆方向に渦巻いた風を巻き起こし、炎へ突撃をさせた。

 頭に響く破裂音が響き、ぶつかり合った炎と風は相殺したように見えた。

 

「何故貴方がこれほどまでの威力を……!」

「あの方のお陰に決まってんじゃん! ふ、ふふ、はははははは! ウチはハリソン相手でもこんなにもできる! やれる! もうウチは弱くないんだっ!!」

 

 燃え上がる炎が複数巻き起こり、彼方此方へと飛んでいく。

 皆が炎を消そうと動いていく中で、ロッセッラは天に両手を上げながら嗤い始めた。

 

「あはははははははは! いける、いける! アンタ達もいきなよ、破壊しちゃえ! そうすれば誰もウチを捕えられない! ウチを捕えていいのはあのお方だけ!」

 

 エイデクゥが出現する石を投げられ、対処せねばならない数が更に増えていく。

 ロッセッラの炎を捌きつつ、建物の崩落対応や人々の守護、エイデクゥの討伐をしなければならない。

 ロッセッラを捕らえることだけに集中しようにも次々と別の対処すべきことが生まれ、当人は『捕まらないこと』だけに行動をしている故に隙がなく難しい。

 その上、放たれたエイデクゥを倒せども倒せども、ロッセッラが再びエイデクゥを呼び出していく。

 ……獣へと変化すれば、一網打尽にできるだろう。

 しかしながら再び変化する術が分からず、変化したとしても別の混乱を巻き起こしてしまうはずだ。

 様々な考えがよぎり消えていく。

 一番大事にしなければならないのは人命だ。

 建物はどうとでもなるが、人は命を失ったら二度と取り戻せない。

 次の手で決断をすべきだと剣を握りしめた瞬間、一筋の炎が我々の活路を見出した。

 

「やああああああああっ!」

 

 ロッセッラの炎に紛れて打ち出された炎がロッセッラの腹部へと突き刺さる。

 元来自身が使える魔術には耐性があり、今回の炎でも対応ができたはずなのだが、飛んできた炎は『炎を纏った短剣』だった。

 魔術は金属に纏わせるには相性が合わない性質を持っており、上手く擦り合わせる術を持つ者だけが魔法剣士となれる。

 つまり、これを投げたのはヘルトだ。

 

「ぐっ……! あ、あああああああああ!」

 

 痛みで疼くまったのにハリソン殿が追い討ちをかけようと多量の風の刃を向けるが、鬼気迫ったロッセッラは今まで以上の炎を向けて炎を飲み込んでいく。

 私は炎を打った方向へと目線を向けると、瓦礫と化した壁の影に隠れていたヘルトがいた。

 

「──ヘルト!」

「遅くなってごめん!」

 

 返事をしたヘルトは、そのままロッセッラの下へ駆けていこうとするが、ロッセッラが炎の壁を自身の周囲へと渦巻かせて道を遮った。

 だがヘルトは炎に怯むことなく進もうとする。

 

「触れるなぁあああっ!」

「このまま僕が行く! そっちをお願い!」

「皆さん退いてください! ……ヴァルムントさん!」

「ああ!」

 

 ロッセッラが自ら視界を遮った今が好機だ。

 ハリソン殿が兵達が退く中で呪文を唱え、退避が完了した頃合いにエイデクゥが集束するように風を巻き起こした。

 エイデクゥは地面に爪を立てるなどして抵抗をみせるものの、着実に一箇所へと集まっていく。

 それまでに私は剣に込められるだけの力を降り注いでいくと、刀身は青白い光を見せ冷気を帯び始めた。

 

「いくぞ!」

 

 まとめられたエイデクゥへ剣を斬るように振り下ろす。

 氷の衝撃波が光速で飛んでいき、触れた先にいたエイデクゥを凍り尽くしていく。

 凍らないように足掻きをみせたが、風による拘束も相まって無駄な抵抗と化した。

 醜い氷像が出来上がったところでヘルトとロッセッラの方へ顔を向けると、奇怪な光景がそこには広がっていた。

 炎の壁は消えており、ヘルトがロッセッラに肉薄していたのだが、そのロッセッラの後ろ襟を左手で掴み退かせている人物がいた。

 

「ロッセッラだっけ? さあ、とっとと逃げんぞ」

「触れるなって言ってんだろ!!」

「知らねーよ。オレ達の用事は済んだんだ。退くのがあの人の命令だろ」

 

 ──ニーヒスター国第三王子、パスクアルだ。

 

「パスクアル王子……!?」

「ああ、どーもヴァルムント元帥。アンタがいなきゃこうなってなかったかもな。……いや、いなくても変わらねーが」

「逃げさせないよ!」

「いいや、さようならだ」

 

 嘲笑をするパスクアル王子にヘルトが追撃しようとするも、パスクアル王子が右手で音を鳴らした瞬間に二人共姿が消えたのである。

 

「姿隠しか!?」

 

 ハリソン殿が血相を変え、辺りを探る為に風魔法を一帯に撒き散らしていくが、何も察知できないらしく顔を歪ませていった。

 魔術大国であるイブラントが秘匿していない場合、魔術を使って一瞬で移動する方法は未だ見つかっていない。

 その未発見であるはずの魔術を、パスクアル王子が使用したのだ。

 

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