人的被害を抑えるよう努めたとはいえ、あの状況では死者を防ぐことはできず、パスクアル王子によってロッセッラを取り逃してしまった。
最悪以外の何ものでもない。
だが落ち込んでいる暇などなく、兵へ救護や崩落物、ロッセッラとパスクアル王子の捜索、ニーヒスター国の者達を見つけ次第拘束するようになどの対応指示をしていると、代理指揮となったセベリアノより城へ戻ってきてほしいと連絡が回ってきた。
周辺を探索し続けると言ったハリソン殿をその場に置いていき、私とヘルトは残りの者に対応を任せて正面玄関近くへと走って行った。
セベリアノは正面玄関内で腕を組みながら行き交う兵士へと指示をしており、私達が入ってきたのを確認すると大きく目を見開かせて走ってくる。
「あっ! ヘルトまでそっちにいたの!? なんとかなったけどさ、東門にも複数エイデクゥが出現してたから後始末に回ってくれない!?」
「後始末……って、東門にも出てたの!? しかもエイデクゥを倒したんだ……」
東門にも出現していたのはロッセッラの仲間だったパスクアル王子によるものなのだろうか。
あまり考えたくない事態だが、ニーヒスター国自体がロッセッラを擁護していた可能性もあり、パスクアル王子の同伴としていた者達によるものかもしれない。
そう考えている内にセベリアノの口から討伐の詳細が語られていく。
「イザベラ様だったりナッハだったり、近くにいた人達が対応してくれたんだけどね。大体ジネちゃんが倒したんだよ〜。……それでさ、聞いている限りオレが知っているジネちゃんとは思えない活躍っぷりだったらしいんだ」
「ねえ、ジネーヴラとは思えないって何?」
「ジネちゃんって結構強いのにさ、いつも微妙に腰が引けてる戦い方だったよね? それが自分から前に出て氷魔法をドッカンドッカンと放ったんだって。あのジネちゃんがだよ?」
「セベリアノもさ、ジネーヴラがリーネ姉さんから髪飾りを貰って自信が持てたって聞いてたでしょ? それじゃないかな」
「ええ〜。だとしてもそれだけで変わりすぎるの怖いって! 氷魔法だって一番得意なのと比べたらそんなだったでしょ!?」
「ジネーヴラが頑張ったからだよ」
心の有り様でいくらでも姿勢は変わる。
カテリーネ様から自信の源をいただき、支えとしたのであらば不思議なことではない。
それよりもロッセッラやパスクアルについて話さなければならないと、セベリアノに宝物庫付近にて起こった物事を一通り話をした。
「……パスクアル王子が? まさか、散々引き伸ばしをしていたのはロッセッラが来るのを待っていた? それとも……。えーっと、今回パスクアル王子と一緒に来てたニーヒスターの人達は捕まえるように指示したんだよね? いや、こっちも追加で指示しとこ。そこの人さ、話聞いてたよね? よろしく! ……あとそうだ、宝物庫自体はどうなってたの?」
「拘束指示は飛ばした。宝物庫についてだが、エイデクゥやロッセッラによって一部が破壊されていた。何か盗まれていたかは確認できていない」
「壊れてしまったのもあるだろうし、それも含めて目録と照らし合わせないと分かんないからね……。今日中に確認は無理だなぁ〜」
大きなため息をつきながらしゃがみ込んだセベリアノに、先程から気になっていたことを確認する。
「お前が代理で指揮をとっているようだが、ディートリッヒ様とカテリーネ様はどちらに?」
「もしかしたら狙いが自分達かもしれないって避難されたよ。誰も知らない隠し通路を使うって。今のところ宝物庫と東門以外で異常事態は発生してないから、もう少しすれば戻ってこられると思う」
「……そうか」
避難されていたのならばお二人共ご無事であると信じたい。
もしカテリーネ様が命の危機に瀕しているのであらば、私に何かしらの症状が現れるはずだ。
確認すべき重要事項を確認したところで、ヘルトが「よし」と言ってしゃがんでいるセベリアノを立たせていく。
「それじゃあ僕は東門に行って後始末を手伝ってくるよ。トレフェンがいたらこっちに来てもらえると嬉しい。僕だけじゃ分からないことも多いから……」
「分かった、後はよろしく〜」
走って東門へ向かっていくヘルトを見送り、私は再度セベリアノへと視線を向けた。
「それで、私は呼んだ用件はなんだ?」
「……やばい、焦ってちゃんと確認できてなかった。ディートリッヒ様が元帥を『こっちに来させろ』って言ってたから……」
「お前……」
「オレも流石に焦ってたの!! いいから、一緒に指揮分担してよぉ〜」
泣き言を言うセベリアノにため息をついていると、焦燥した表情でこちらへと走ってくる兵士──ディートリッヒ様の護衛であるアデルモの姿が見えた。
……ディートリッヒ様達の身に何かがあったのだ。
私も駆け出しアデルモの近くによると、アデルモは酷くなった呼吸を整えながら必死に訴えてきた。
「……っ、ヴァルムント様! ヴァルムント様っ……! ディ、ディートリッヒ様が……!」
「いいから案内をしてくれ!」
「っ、はい!」
セベリアノをその場に置いていきアデルモを先頭に城内を駆けていく。
そうして辿り着いた先の部屋前には、怪我をした痕跡がある護衛が鎮痛な面持ちで立ち尽くしていた。
申し訳ございません、と消え入るような声で言ったのを聞きながら部屋へと入っていくと、中にいた護衛達も端の方で同じような顔をして佇んでいた。
真ん中にある二人掛けのソファには青白い顔で目を閉じたディートリッヒ様が横たわっており、衣服や髪が汚れた状態のカテリーネ様が床に膝をつけてディートリッヒ様に縋りついている姿があった。