事件が発生してから約一週間が経った。
敵の調査は進めているが、未だこれといった情報はまだ掴めていない。
未だにお兄様は目覚めておらず、おれが名代を務めている。
仕事は事前に言われた通りあくまで頭として立つだけで、お兄様が処理などしていた部分までは割り振られなかった。
基本的に会議も話を聞いているだけ。
会議に参加しなくてもいいと言われたものの、それでは名代としての面目が立たない。
内容を知っておくだけでも違うからと参加をし、気になった点について質問したりしていたが、迷惑そうな顔をしている人が何人か見受けられたので質問はやめた。
ニーヒスターと戦争になるかもしれない、という事案があるせいで皆ピリピリしているというのもきっとあるのだろう。
それに下手に素人が突っ込んだところで邪魔になるだけだ、という視点が抜けていた。
おれって馬鹿だなぁ、と苦しくなった胸に手を置きながら、控えめな笑いを返しておいた。
……だからといって、ただただ黙って仮初のトップとして立っている訳にはいかない。
立てと言われたからいるだけなんて思われないように、お兄様が戻った時に問題がない状態で渡せるよう動かなくちゃ駄目だ。
今までお兄様が弱いおれを護ろうと動いてくれていた分を、多少なりとも返さなければならない。
現時点でのおれができる仕事を割り振ってもらい、少しでも動いていくと決めたのだ。
当然、周囲からは別の者が対応するし、症状のこともあるし、敵から狙われている以上はあまり動かないで欲しいと反対をされた。
前から言っている通り、手足の痛みはない。
それに敵が知らないはずの場所を知っていたのだからどこにいても意味はないと、護衛を増やすことで押し通した。
じっとしていたら余計なことを考えすぎて気分がどん底になってしまう、と言ったら通ったともいう。
相手の情報が少しでも掴まなくちゃいけないし、敵が来るならそれはそれでいいと思ってさえいる。
おれが元々割り振られた仕事以外で行っているのは、民を安心させる為の演説や防衛に当たる人々への激励の訪問など、皇帝代理がしっかりと『見ている』と民に安心してもらうことだ。
……そして今日。
今回の件で亡くなられた方の合同追悼式を、城壁内にある大講堂にて執り行う予定が入っている。
◆
窓から陽が差しているのに、どこか寒い。
そこそこ厚いはずの喪服となるシンプルな黒のドレスの裾を掴みながらそう思った。
進行を担った係の人が下がったのを見て、おれは護衛の人を近くに連れながら壇上へと上がっていく。
壇上からみるホール内は扇形に広がっており、その座席はご遺族の方々が腰を下ろしていた。
事件から少し経ったとはいえ心の傷は深く、ほとんどの人が悲しげな表情でこちらを見つめるか俯いている。
重苦しい空気に胸が苦しくなりながらも息を吸い、皆へ届くように声を発した。
「……此度の襲撃により、犠牲となられた方々へ心より哀悼の意を表します」
礼をしてから大きく酸素を腹に取り込み、続きを述べていく。
「彼らはわたくし達を、民を支える立派な方々であり、誇りです。尊き人々です。彼らの日々に支えにより、我々の生活が成り立っていたのです。……決して、このような時に失われてはならない人々でした」
おれの言葉で故人を思い出したのか、1人、また1人と啜り泣く声が聞こえてくる。
息が詰まってきたのを感じながら、手に力を込めて続きを言っていく。
「我々は犯人を許しません。我らの誇りを、皇帝である兄の意識を奪った犯人を、必ず捉え償わせます。……我らが本懐を遂げるまで、どうか見ていて下さい。……お願いします」
おれが再度礼をすると、目の前にいる人々は泣き出したり、首を横に振ってどこか遠くを見つめたり、怒りや悲しみの感情を堪えて顔を伏せる人がいたり、おれに対してありがたいと拝んたりする人がいたりと様々な反応が返ってくる。
中には空虚な眼差しで、恨みの籠った眼差しで、おれを見つめる人がいた。
胸が、苦しくなっていく。
「カテリーネ様、そろそろ……」
「……はい」
それでも一人一人を見つめて目に焼き付けていると、近寄ってきた兵士さんに促されてしまったので、ゆっくりと壇上から退散していった。
リージーさんがおれの傍に付き添い、護衛に囲まれながら控室となっている部屋へと移動していく。
……お兄様が『人的被害はない』と言い切っていたから、亡くなられた人はいないのだと思っていた。
でも実際には違っており、数十人の死者が出ていた。
セベリアノ曰く、あの時下手におれがショックを受けないようにしたかったのだろう、と。
ただでさえ突然の出来事により不安になってるから更に動揺さたくなかったはずだと言われ、お兄様らしいと感じると同時に自分の不甲斐なさを痛感した。
おれが、弱いから。
弱いからお兄様が過保護に手厚く傷つかないようにと動いてくれていたんだ。
なのにおれはちょっとしたことで仕事をした気になって、お兄様の苦労を知らずにいた。
今日壇上に立つのだって、意識があったらお兄様が行っていたはずだ。
あんなにも苦しい感情が強く渦巻く中で、立派に皆を導く姿が簡単に想像できる。
それに比べておれは、ちっぽけで頼りない姿だっただろう。
お兄様と踏んだ場数が違うと言われたらそうだろうが、聞く側からしたらそんなことは関係ない。
おれがしているのはお兄様の代理だ。
お兄様と同等のものでなくてはならない。