やらなきゃいけない物事ばかりだが、お兄様を助けるヒントが分かるかもしれないと本の解析は続けている。
ただ、「複写したからから大丈夫です」と、今は本をおれの部屋に移動させて保管する形をとっていた。
元々複写は予定されていたから問題ないし、おれの身の安全が一番だからと言われてそうなったのだ。
でも原本じゃないとニュアンスとか色々違ったりするかもしれないし、そもそもおれ自体が結構移動しているから意味がないと言ったのだけど変わらなかった。
解明班だけじゃなくて周りに訴えてもおれの主張は受け止められず、結局こうなっている。
おかしいと思いつつも、説得する気力が出なくて部屋で解読の続きを毎日していた。
手足については、範囲が広がったとはいえ症状自体は広がる前とは変わらない為、毎日検診をするだけで終わっている。
調査をすると時間が取られてぼーっとする時間が増えるだけなので、本当にこれで終わって助かっていた。
それでも気になることがいくつかあった。
「……これで検診は終わりです。今日も問題はありませんわ」
「カテリーネ様! 元気! 出してくださいね! 絶対に治せますから!」
「ありがとうございます。そう言っていただけると、元気がでます」
やけにイザベラが怒りか何かを我慢しているように見えたのと、やけにジネーヴラがハイテンションめだということだ。
ちなみにジネーヴラはおまじないをしてからずっと髪飾りを毎日つけていた。
東門に出たエイデクゥは近くにいたイザベラとジネーヴラが大体倒したのだが、ほぼほぼジネーヴラがやったのだという。
かなり自信満々な様子で氷魔法を使っており、広々とした場所だったこともあって被害を抑えられたと聞いている。
今までのジネーヴラだったらはわわわしているだろうし、おれが適当にやったおまじないのお陰だとしても効きすぎでは? と思う。
……プラシーボにかかりやすい人というのはいるらしいから、きっとそのせいだ。
まあ、全体的に城内が暗い雰囲気になってしまっているのは確かなので、これくらい明るい方がいいかと放っておく。
そしてイザベラがイライラしているのはジネーヴラのせいなのか、現れたロッセッラと戦うことができなかったせいなのか。
単純におれにイライラしている線もあるが、突っ込んでも碌なことにならないのは確定しているので触れないことにした。
◆
午後イチにおれは護衛を連れながら、ニスリーンさんが滞在している客室へと向かっている。
ニスリーンさん達へは早めに別の人から謝罪をしていたらしいが、おれからの謝罪も必要だと思ったので改めてお話をすることにした。
元々あの会はニスリーンさんの歓迎会だったのだから、それだけで済むような話でないはずだ。
なのに頭が回っておらず、ここまで先延ばしとなってしまった。
ニスリーンさんのところに行くのも微妙に渋られたが押し通し、自分は本当に駄目駄目すぎると反省をしつつ、ニスリーンさんの部屋へと入っていく。
ニスリーンさんの護衛兵の人が部屋の隅で待機しており、当のニスリーンさんはいつも通り民族衣装で目元が見えない状態で、ソファから立ち上がり口元をにっこりさせておれを出迎えにきてくれた。
ほどほどに挨拶を交わした後、向かい合わせになる形でソファへと座ってからニスリーンさんに礼をする。
「この度はご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません。ご挨拶が遅れたのみならず、ニスリーン様のお命を危機に晒してしまいました。お詫びと言っては失礼かもしれませんが、わたくし共でご協力できることがあれば、是非とも仰っていただけないでしょうか」
「一度謝罪をもらいましたシ、アナタ達はワタシ達を護ろうと動いてくれていましタ。ワタシ達が言うべき言葉は『ありがとうございます』、ですヨ? それに、特に必要なモノもないのでス」
「……ニスリーン様はお優しいのですね。ありがとうございます」
「フフフ、優しいのはカテリーネ様の方ですヨ」
小首を傾げながら朗らかに言ってくれるニスリーンさんに胸を撫で下ろす。
そんな人ではないと思っているのにニスリーンさんからも苦言を呈されるのでは、と少し警戒してしまっていたのだ。
おれもちょっと疲れているのかなぁなんて思いつつも、おもてなしモードへと心を切り替えていく。
「身に余るお言葉、光栄です。……ですが、ニスリーン様にご協力したい気持ちは本心からのものなのです。是非ともニスリーン様が行いたい物事のお手伝いをさせていただけないでしょうか?」
「とても難しいお話ですネ。……そうですネ、実は叶えたい夢があるのですヨ」
ニスリーンさんの夢って一体なんなんだろうか。
るんるん気分といった様子のニスリーンさんが口に綺麗な弧を描いていた。
やりたいと思ったら一直線で叶えにいきそうな性格っぽいし、一筋縄ではいかなそうな気配を感じる。
聞いたらちょっとやばそうだなと感じつつも、言った以上はやるしかないと覚悟を決めた。
「夢とは一体どのようなものなのでしょうか?」
「物語を続けることなのですヨ」
「……物語を、続ける?」
続きが書かれなくなった小説とかを言ってるのか?
おれが首を傾げていると、ニスリーンさんは口元に手を当てながら詳細を言ってくる。
「ワタシの一族に伝わっている物語のお話なのでス。……隣に行ってモ?」
こっそりおれだけに話したいということだろう。
まあそれくらいなら問題ないと思って頷いたら、リージーさんがすーっと近寄ってきた。
「カテリーネ様。私もお供よろしいでしょうか?」
「ニスリーン様は一族の秘密とされるものをお話してくださるのです。わたくしにだけお許しくださった以上、許可はできません」
おれの心配をして言ってくれているのは分かるが、失礼すぎるのできっぱりと断った。
……いつもだったらリージーさんはこなかったはずだ。
疑問に思っている中でリージーさんが下がっていき、ニスリーンさんが「お気遣いありがとうございまス、嬉しいでス」と言いながらおれの隣へと移っていく。
そうして、ニスリーンさんは一族の物語を語っていった。