TS生贄娘は役割を遂行したい!   作:雲間

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 ニスリーンさんはおれの隣へ座り、口元に軽く片手を当てながら耳元で囁き始めた。

 

「これから語るのハ、ワタシの一族に代々伝わっている原初の物語でス」

 

 こしょこしょと告げられるこそばゆさに耐えながらも、内容を要約するとこうだ。

 

 ニスリーンさんの一族は、最初に生まれた時に力を持っていた。

 その力をどう活かすのかと考えた時、『見て記録する』ことをすべきだと考えた。

 いくら紙や石などに記録しようとも、口伝をしようとも、いつかは歪な形となってしまう。

 真実を記録し、起こった物事を伝え続け、過去を活かしていく為にも力を使い続けようと決めたのだという。

 

 ……これ、物語っていうか、そのまんまニスリーンさん一族の自己紹介のような?

 疑問に思ってニスリーンさんへ目線をやると、当人はニコニコしながら続きを言っていった。

 

「ですがワタシ達ハ、いつからかその記録を紡げなくなったのでス。突如、記録は断ち切られていきましタ」

 

 ニスリーンさん達が記録を紡ぐ力を失ったということ?

 

「一族総出で原因を探りに様々な場所へと行きましタ。その間、何度も何度も記録は途切れていきましタ」

 

 ……え〜っと、力を失った訳じゃなかったの? よく分かんなくなってきた。

 質問しようと思ったのに、ニスリーンさんはおれにターンを渡すことなく言葉を続けていく。

 

「そしテ、今回一番違うものを見つけましタ。きっとソレが物語の続きを描いてくれるかもしれませン。ですかラ──」

 

 ちゃんとニスリーンさんの声が聞こえていたはずなのに、途中から高いモスキート音のようなものが鼓膜を揺らしてきた。

 音は頭の中を貫き、脳内がぐちゃぐちゃにされていくような感覚に陥る。

 体全体もぐわんぐわんと揺らされているはずなのに、視界に映る光景はぶれたりしていなかった。

 おれの体調がおかしくなっているのかもしれない。

 すみませんと口で言おうとしたのに、唇が張り付いていて開くことができなかった。

 このままぶっ倒れたらますます動きにくくなってしまう。

 せめて手で体を支えなければと腕を動かそうとしたら、ニスリーンさんが空いている手でおれの背中をポンとしてきた。

 それをキッカケとして、全身が一気に感覚を取り戻して現実へと帰ってきた。

 

「カテリーネ様? どうかされましたカ?」

「あ、……い、いえ。つい聞き入ってしまいました。失礼いたしました」

「フフフ、真剣に聞いて下さって嬉しいでス」

 

 やばいってやばいって〜〜〜〜〜!!

 ついつい全部聞いた振りをしちゃったよぉ!

 今更、「実は最後までちゃんと聞けていませんでした」なんて言えない。

 内心でダラダラダラダラと冷や汗を流しながら笑顔を維持する。

 ええっと、なんだったっけ? 物語? 続き? えーっと、えーーーーーっと……。

 記録が……ええっと……。

 ……お、おれの記憶が曖昧になってる。

 やっぱり疲れからおかしくなってないか、これ!?

 

「カテリーネ様、ワタシはこれからも物語が紡げるよう頑張りますのデ、是非、機会があったら助けてくださいますカ?」

「え、ええ。勿論です。わたくしが助力になれることであれば……」

 

 物語を続けるのにおれが手伝えそうなことなら手伝うよ、うん。

 できそうだったらね。できそうだったらね!!

 なんて言い訳を心の中で二十個百個つきながら、満足そうに離れて元の席へと座るニスリーンさんを見守る。

 そうして歓談を数十分程度した後、おれはニスリーンさんの部屋を辞して自分の部屋へと戻っていった。

 今日の予定はまだいくつかあったのだが、ちょっと疲れてしまったと伝えてキャンセルさせてもらう。

 本当に申し訳ないんだけど、ここで休んでおかないと後がやばいことになるからさ……。

 要望はすんなりと通り、おれは疲れをとるべく早々に風呂へと入りご飯を済ませ、ベッドへと入っていったのであった。

 

 

 ◆

 

 

 ぬくい。

 体全体がほかほかとしていて、すごく安心ができる温かさだった。

 熱源に体を寄せ、暖をとっていく。

 どうやら眠りから醒めてしまったみたいだが、まだ寝足りないので目を開けたりせず二度寝の態勢に入る。

 ……こんなに心が安らぐのはいつぶりだろう。

 二度寝しちゃいけないって思っているのに、暖かな春の陽気すぎてついつい誘惑の手を取ってしまった。

 しょうがないんだよこれは。なにをしても抗えないって。

 人間ってそういうものだからさ……。

 言い訳だけつらつらと並べつつ、温かさを堪能して再度眠りの入口に足をかけていく。

 もっと密着できればと手を動かし、手探りで『温かさ』を引き寄せた瞬間。

 

「……っ」

 

 真上から息を呑むような音が聞こえて、ぼやぼやしていた頭が即座に覚醒する。

 慌てて目を開き顔を上げると、薄暗い中でヴァルムントが困惑顔をしながらこっちを見つめているのが分かった。

 全体的なぬくさも、ヴァルムントがおれを抱きしめていたからだ。

 慌てて周囲を確認すると、今いるのは間違いなくおれの部屋だった。

 なっ、な、な、なんでえ!? なんでいる!?

 

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