朝方に先触れとして来たゲンブルクの使者から、明日の夜頃にソフィーさん達が到着すると連絡がきた。
ドタバタしている中でも迎えの準備が進められていったのだが、ひとつ意外なことを伝えられて首を傾げた。
ソフィーさんという他国の地位ある人を出迎える時には格式ばった出迎えをするのが当たり前なのだが、それを行わないで欲しいと要望があったのだ。
この出迎えは国の威信に関わるものなので、普通はしない方がおかしい。
昼にセベリアノがソフィーさんを迎えるにあたっての擦り合わせで部屋に訪ねてきたので、ソファに座って出迎えてその理由を尋ねてみたのだが……。
「……さぁ?」
知っているんだかどうなんだか分からない返事をされた。
それでいいのか? という目線を送ったところ、違う違うと手をひらひらとさせながら本当のことを言ってくる。
「いやいや、オレも知らないんですって。まあ……こっちの状況を伝えた以上、警戒しなきゃって考えたんじゃないです?」
「……確かに、そうですね」
敵がどこまで何を知っているのか、何を考えて行動しているのか分からない。
おれ達に何か情報が渡るのを阻止しなきゃ、と敵が思う可能性もある。
用心するに越したことはないと納得をしていると、セベリアノがなんとも気まずそうな顔をしながら本題へと入っていった。
「えーっと、カテリーネ様がどこまでご存知か分からないので最初から伝えますよ。フェリックス殿下はカテリーネ様が訪れた数ヶ月後に、記憶喪失状態での発見が報告されて、現在は療養なさっているそうです。そして今回代表として来られるソフィー様はゲンブルクの将軍の娘さんとして来ます」
「……ええと、はい」
すぐにフェリックス殿下が生きていると国で発表をすると、国王問題が色々と面倒になるからちょっと伏せたんだろう。
勘繰られたりすることはあるだろうけど、就いてそこそこ経ったら押し切れなくはない。
それに、ソフィーさんが将軍の娘であることは知っている。
何を当たり前のことをと思っていたら、とんでもない衝撃の事実を伝えられた。
「国王であるマクシミリアン陛下との婚約は破棄になったんですよ」
「え……、……え?」
えええええっ!?
おれは目をぱちぱちとさせて状況を理解するのに時間をかけた。
い、いや〜。いや、わ、分からなくはないよ、うん。
だってソフィーさんって明らかにお兄さんのフェリックス殿下へ好き好きオーラ出ていたし……?
とはいえさ、そんな感情だけで婚約破棄だとかどうこうできるもんじゃないでしょ?
マクシミリアン陛下だって、それだけで破棄したりしない人じゃない……?
そうやって頭をぐるぐるとさせていたら、補足の声がかかった。
「元々ゲンブルクでは将軍の派閥と宰相の派閥が対立してたんですよ。んで、カテリーネ様達が来た時に宰相が失脚して均衡が崩れたんです。代わりこそ立ったみたいですけど、将軍派の勢いが強くなっちゃったんで、これ以上強くならないようにと将軍の娘との婚約はなしにした……って感じみたいですよ。こうして使者として立てられたのも将軍の顔を立てる為なんでしょう」
あ、ああ〜。勢力のバランス取りで破棄になったのか〜……。
勢力の片方に力が偏りすぎるのもいけないとかいうもんね。納得。
うんうんと頷いていたら、セベリアノが何か言いたげな雰囲気を醸し出していた。
「どうかされましたか?」
「それにしても、婚約破棄には何か裏があるだろうなと」
「裏……」
裏には裏だけど、多分考えているのとはちょっと違うぞセベリアノ。
マクシミリアン陛下は最初おれが考えていた通りに、ソフィーさんがお兄さんを大好きだから婚約破棄した方がいいと思っていたんだろう。
でもそんな感情論で婚約を破棄できる訳ないから、建前として勢力バランス取りを理由にしたってのが正解なんじゃないか?
真実かどうかはソフィーさんに聞けたら確認する程度で良さそうではある。
「大丈夫ですよ、セベリアノさん。ソフィー様もマクシミリアン陛下も、誠実な方々ですから」
深く勘ぐりしなくていいところを考えているセベリアノに大丈夫だからと声かけをし、とりあえずゲンブルクについての現状把握は済んだのだった。
◆
伝えられた通り、夜にソフィーさん達が城に来ても大々的な出迎えはしなかった。
代わりにこじんまりとした応接室でソフィーさんをお出迎えをし、内々で重要な話をするからと必要最低限の人だけにしていく。
様々な事情を知っているおれとヴァルムント、ソフィーさんとゲンブルク側のフルフェイスな兵士さん一人だけの空間となった。
おれとソフィーさんだけが対面する形でソファーに座り、あとの2人はその後ろに立つ状態になっている。
「改めましてソフィー様、お久しぶりです」
「お久しぶりです、カテリーネ様。……早速で申し訳ないのですが、ひとつよろしいでしょうか?」
「は、はい……」
両手を握り合わせて申し訳なさそうに言い出したソフィーさんに首を傾げながらも了承をすると、ソフィーさんは後ろを向き兵士さんへ合図を送った。
すると兵士さんは頷きを返してから徐に兜を取り外していく。
そうして見えた兵士さんの素顔は、見覚えのあるもので──。
「どもども~、お世話になりました~。フェリックスで~す」
非常に軽い様子のフェリックス殿下がそこにいたのであった。