顔を露わにしたフェリックス殿下はあまりにも軽すぎた。
明らかに悪霊時と全く変わらないノリだ。
そんな殿下にソフィーさんはほとほと困り果てているのか、「殿下!」と怒りながら立ち上がって説教を始める。
「失礼な態度は取らないでお行儀よくと申し上げたはずです! ……大変失礼いたしました、カテリーネ様、ヴァルムント様!」
「ええ〜? だって2人ともオレのことは知っている訳だし〜?」
「それとこれとは違うと何度も何度も……っ!」
ソフィーさんの堪忍袋の緒が切れそうな感じが見てとれた。
すごい苦労しているんですね、ソフィーさん……。
おれが同情の気持ちを溢れさせている中で、ヴァルムントが咳払いをして本題へと戻そうとする。
「よろしいでしょうか?」
「もっ、申し訳ございません……! 殿下、座りましょう」
「はいは〜い」
怒られても気にしていない様子のまま、殿下とソフィーさんが並んでソファーに座り直した。
しっかし、なるほどな〜。
本来療養しているはずのフェリックス殿下を秘密裏に連れてきたから、正式なお迎えはしてほしくなかったんだろう。
勝手な納得をしていたら、平謝り状態のソフィーさんからの言葉で全く違う理由が判明してしまう。
「殿下は記憶を失ったままであり、ご自身の立場をあまり理解できていないのです……。それ故に歓迎してくださるご好意を無碍にし、このような態度をお見せしてしまい、心よりお詫び申し上げます……」
表に出せないからが本当だったのか……。
いや、おれの考えも入っていそうだとは思うよ! うん!
しょうがないから大丈夫だと声かけをしようとすると、意外なことにヴァルムントが声をあげて殿下を叱りだした。
「では、こちらも失礼を承知で申し上げます。フェリックス殿下、そのようなことをなさってソフィー様の気を引く手はソフィー様のお立場を悪くする行為だと分からないのですか? 此処は我々の国であり、貴方の国ではありません」
「やだな〜、読まないでよヴァルムントくん。分かった分かった。やめるからさ〜」
「……読めたのは貴方が私へ勝手に入り込んだ故です」
大分ヴァルムントくんの言葉には棘があって、ご機嫌斜めなのが丸わかり状態だった。
そりゃ勝手に乗っ取って体動かしていた犯人なんだからあんまり対面していい気はしないだろうし、乗っ取られていたからこそなんとなく理解できたって感じ?
殿下がごめんごめんと謝り浮ついていた雰囲気をある程度収めていった一方で、ソフィーさんが顔を赤らめながらも頬をピクピクとさせていた。
恥ずかしさと怒りでどうにかなってるな、これ。
「元帥が失礼をいたしました、申し訳ございません。……これにてお互い様、ということでよろしいでしょうか?」
「カテリーネ様……。……はい、ありがとうございます」
「いえ」
とりあえず話を明後日の方向から回収していく。
ソフィーさんも意図を分かってくれたみたいで謝罪の言葉を飲み込み、謝り合戦になりそうな雰囲気は終了となった。
そうして心を落ち着つかせたソフィーさんが本題を繰り出していく。
「今回、殿下と私が参上したのは、殿下よりお伝えするべき事項があったからです」
「うんうん。オレが直接行かないと意味がないから、一緒に来たんだよね〜。助けてもらったお礼もちゃんとできていなかったしさ〜」
充分お礼はしてもらったと思うんだけどな。
でもこうして情報を貰えるのは本当にありがたいことだから、今は素直に受け取っておく。
「え〜っと……。オレがなんかされていたのは、オレの祖先である初代国王が作り上げた装置だったってのは伝わっているよね?」
「はい、伝わっております」
「それでね〜。国の方でもっと深く調べていたんだけど、あんまり進まなかったんだ〜。でも、オレが動けるようになって調査に加わったら結構進んだんだよ〜」
そうなったのはなんとなく分からんでもない。
おれが洞窟であの本を発見したように、皇族の血が流れているフェリックス殿下でなければ発見できなかったのではないだろうか。
「オレには理解できても他の人には理解できない代物だったから、直接伝えるしかないってなったんだ」
殿下は立ち上がり、おれへまっすぐに視線を向けてくる。
そうして口を開けて出てきた言葉は、不思議な発音をしていた。
『我々は特別である』
理解できない言葉のはずなのに、何故か理解ができる。
ギョッとして殿下を見つめていると、後ろからヴァルムントが怪訝な声を出した。
「……何を仰っているのですか?」
殿下の隣にいるソフィーさんも分からないようで、眉尻を下げて心配そうに状況を見守る姿勢をとっていた。
……つまり、おれだけが殿下が言っていること理解しているという訳だ。
殿下は目を細めながら笑みをこぼし、同じ発音で言葉を続けていく。
『ここからの話は誰にも言ってはいけない。仲間であろうと、君の後ろにいる者であろうと。オレは力を失ったが、君には……君達には力があるのだから』
ヴァルムントにも話をしちゃいけないって、なに?
なんだか怖くなってきて、膝に置いていた手を力強く握りしめる。
『詳しく知りたいのなら、手掛かりはきっと君の手元にあるはずだ。それで確認するといい。……じゃあ、聞いてくれるかい?』
そうして温和だったはずの笑みが、恐怖の笑顔にしか見えなくなっていった。