ボクはイブラント国の魔術師ハリソンとして、帝国のヘルトくん、ルチェッテさんや複数人の少数精鋭と共にロッセッラの痕跡を追うことになった。
現在は、反応が示されている場所である森林へと向かっている。
鬱蒼と茂る木々の間を縫いながら、段々と大きくなっていく反応に「ようやくだ」と手を握りしめた。
我々は、魔術師の矜持を破らんとする者を断じて許しはしない。
ロッセッラは魔力があまり高くないとはいえ、繊細な魔術を操る技法が評価されており、非常に研究熱心で心からイブラントの魔術理念を尊崇していた者だった。
だというのに、先日邂逅した彼女は落ち着いたものから品のない話し方で、乱雑に高威力の魔術を使うようになっていた。
……一体何が彼女を極端に変貌させたのかと疑問に思っていたが、彼女が心酔している『あのお方』が多大なる影響を与えたのではないか。
そして『あのお方』は彼女を唆し、帝国に不利益を与え、何かを成そうとしている。
薄気味悪い企みを感じながら、足元の躓きやすい幹に気をつけながら前へと進んでいく。
各々が警戒しながら歩いていく中で、足元に気をつけながら小走りで近寄ってきたルチェッテさんが少々迷いを見せながらも質問をしてきた。
「あ、あの、ちょっと聞いてみたいことがあるんですけど……、いいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「えと、その、言いたくなかったら言わなくていいんですけど……。ハリソンさんって、どうしてイザベラさんと結婚したんですか……?」
手を遊ばせながら恐る恐るこちらを窺うルチェッテさんに、ボクは笑顔を見せながら言い切った。
「そうですねえ。健気で可愛いと思ったからですよ」
「け、健気で可愛い」
信じ難いと思っている様子が、昔に同様の質問を投げかけてきた同僚の顔と全く同じだった。
そんなに信じられないことなのだろうか?
彼女が健気で可愛いというのは事実だ。
自らの地位を上げる為、好きでもないボクに自身と婚姻を結べば有利になると何度も説明しにくる努力。
誰にも負けないのだと研究にひたすら打ち込む姿。
これが健気で可愛くないと思うのは当たり前だ。
どう次の言葉を言おうか迷っているルチェッテさんに、言われる内容の想像がついたので先に言ってあげた。
「ああ、彼女がボクのことを利用しているのは知っていますよ。その上で可愛いと思っているのです」
「えっ、ええ……」
理解に苦しんでいるらしく、顔を引き攣らせながらの曖昧な返答がなされた。
好きなのだから、結婚という契約を結べるならば結んでおくのが筋だと思っている。
できうることはやっておかねばならない。
ひとり頷きながら、今度はこちらから疑問に思っていたことを投げかける。
「ルチェッテさんは何故こちらに同行しようと思われたのですか? ヘルトくんがお好きなのは分かりますが、貴女はその気持ちを優先させてこちらに来る方ではないでしょう?」
「えっ、えっ!? な、なんでバレて……!?」
ここ数日、共に過ごしての態度で分からない者はいない。
ルチェッテさんは真っ赤な顔でヘルトくんがどこにいるかを急いで確認し始めた。
彼は我々より少し離れた後方におり、会話は届いていなかったようで他の者との話を続けている。
聞かれていないと確信をしたルチェッテさんは、ふぅと息を吐いて心を落ち着かせていた。
「……あ、え、えーっと! ……わたしは確かにみんなの傍にいて励ましていたかったです。特にカテリーネ様は辛いことがあったばかりなのに、大変な役目をし始めて……。……でも、カテリーネ様を一番に好きな人がいるから、その役割はわたしじゃないって気付いたんです」
彼女は一度唇を噛み、一呼吸おいて口を開いた。
「だから、今のわたしが役立てることをやろうって思って志願をしたんです。事件を解決できたら、カテリーネ様達を元気にできるってことですから!」
「……貴女は強いですね。ヘルトくんとお似合いですよ」
「おおおおお、お似合い!? お、お似合い……」
彼女は「えへへ」と照れ笑いをしながら、手を擦り合わせてしどろもどろになっていた。
本当に、2人は真っ直ぐだ。
捻くれた大人には眩しい存在すぎる。
そういう意味ではイザベラも似たようなものだと思っていると、ヘルトくんが軽快な足取りで走ってきた。
「ハリソンさん、位置はどうですか?」
「ええ、もうそろそろかと」
「へ、ヘルト! ちょ、調子はどう!?」
「うん? ……あ、大分慣れてきたよ! 調子良くなってきた!」
そう言って剣を抜き、冷気を発する刀身を見せてくる。
どうやら普段使いしている剣ではなく、元帥から昔使用していたという剣を使用しているのだという。
本人の資質では氷の扱いが難しいのだが、長年の間に氷で慣らした剣を使うことで比較的簡単に氷を扱えるらしい。
炎の効きにくいエイデクゥ対策として、元帥に相談した結果に剣を貰ったと聞いている。
魔術師と魔法剣士は系統が違う為に興味深いのだが、数の少なさも相まって中々研究が進んでいない状態だ。
帝国には元帥とヘルトくんという素晴らしい魔法剣士がいる以上、協力をとれればと思っている。
「頼もしいですね」
「元帥と比べたらまだまだだけど……、僕は姉さん達の為にも負けられないから頑張るだけです」
「そうですね、頑張りましょう」
「はい!」
会話の最中、追っていた気配が変質したことに気がつき足を止める。
ボクに釣られて全員が足を止め、辺りを注意深く見回し始めた。
「ここからはより一層の警戒が必要です。……よろしいですか?」
「……勿論です!」
自信のある返答を聞きながら、遠いながらも前方に見える洞窟の入り口を見つけて肩を回す。
絶対に、許しはしない。
覚悟を新たに、全員で洞窟へと進んでいった。