皇族の血を受け継いでいる魔力の強い女性は、生命力を削ることで誰かの願いを叶える力を持っている。
幸いといっていいのか分からないが生命力は通常の人間より滅茶苦茶強いらしく、叶えすぎなければそうそう死ぬことはない。
条件としては願いが小規模。双方共に願いを叶えたいと思っており、叶える側が何かしらの魔術をかけること。
怪我とか病気の類はできないと書いてあった。あくまでバフのみっぽそう。
つまり世界征服するほどの力を~だなんて願われても規模がデカすぎるし、そもそもおれや相手がやりたいって思ってなきゃ叶えられない。
かといってどこまでが小規模判定なのかは分からないんだよな。
ちなみにヴァルムントとの禁術はまた別のものだったりする。
今回おれがやってしまった、ジネーヴラに自信を持たせる……ってのは小規模の範囲だったらしい。
けどさぁ、自信が出るようにって念を送りはしたが、ジネーヴラの魔術が強力になりますように〜なんて願ってはいなかった。
単純に本人の素質が花開いたってだけ?
でも自信が出るようになったのは確実におれのせいなのは変わらない。
注意深く確認すると、おれの魔力の残照が見えた。
いくら知らなかったとはいえ本人自身の力でやれていた訳ではないし、勝手にジネーヴラを改造した行為はよくないと思っている。
……だからと言って、真実を伝えるのは残酷なのでは?
仮に伝えたとしてもおれだけがスッキリするだけだし、こんな特殊な能力があるってのも伝えるべきではない。
ジネーヴラが他の人に話すってのはないとは思うが、どこから漏れるかなんて分からないし……。
根本的な話、『おまじない』をされたから本人はできていると思っているのであって?
……う、うわぁ。頭が混乱してきた。
一旦物事が落ち着くまでこの問題は置いておこう……。
これはおれの罪だから、絶対に忘れたりしない。
◆
数日後。
ニーヒスター側から使者が訪れた。
本来ならばおれが国の顔として会うべきではあったが、安全上の問題もあって直接対面するのは憚られ、グスターベさんが応対。
そこで行われた会話について、グスターベさんとセベリアノが部屋に来て座っているおれに説明をし始める。
良くない話であると一発で分かるほど、口を開いたグスターベさんの雰囲気は硬かった。
「ニーヒスター側の要求をご説明いたします。あちらは『第三王子と使者達にした行いを詫びとして、ハッフェーンを引き渡し』を求めてきました」
「……ハッフェーンを、ですか」
ハッフェーンは国の重要な港町であり、海の向こうのニーヒスターと一番近い場所である。
一瞬で要求された意味を理解し、思わず顔を顰めてしまった。
セベリアノが頭が痛そうな表情で軽く首を横に振りながら話を繋げていく。
「とーぜん、ハッフェーンを引き渡したら帝国侵略の足掛かりにされるだけ。断っても仕掛けてくるだろうね〜。あ~も~、いきいきしちゃってさぁ〜……。ほんとめんどくさいやつらだよ」
「……可能な限りあちらに有利な条件での交渉もしてみましたが、ハッフェーンを引き渡す以外の条件は受け付けないと跳ね除けられました。セベリアノ殿が言っていることは概ね間違いないかと」
口のウマいグスターベさんであっても無理だったのならば、戦争をする意志は固いということだ。
……内戦があってからそこそこ経ったとはいえ、国内は回復しきったとはいえない。
お兄様は意識不明、エイデクゥというモンスターをあちら側が持っている可能性もある。
戦争を避けたい理由ばかり浮かぶが、全面降伏だなんて手はあり得ない。
負けた側となると、どのような事をされるか分かったものではないからだ。
それは十数年前にあったニーヒスターの歴史が証明している。
ニーヒスターの西側、つまり帝国とは反対の方向に浮かぶ小さな島国が存在していた。
最初こそ友好な関係を築いていたものの、色々あって関係が悪化。
戦争をするようになり、やがて小さな島国は降伏してニーヒスターの国土となった。
ここからがいい気のしない話で、元々の住民達はニーヒスターの国民扱いとはならず、国民以下の階級……厳密には違うが実質奴隷の身分となったのである。
過去に習うのであれば、降伏したら似たようなことになるのは間違いない。
要するに、戦うしかおれ達に道はないのだ。
顔を両手で覆い、腹の底から空気を押し出して気持ちを切り替える。
セベリアノに目を向け、ハッキリと宣言をした。
「戦いましょう。わたくしが旗印となります」
「オレ達もそれしかないと思ってたから説得しにきたんだけど……。……てかさ、元帥が頭になってもいいんだよ?」
セベリアノがほんの少し視線をずらしながら言ってきた。
そういえば重要な話なのにヴァルムントがいない。
もしかしてわざとヴァルムントを連れてこなかったりした?
こっ、この、このひねくれ闇深軍師~~~~っ!
ヴァルムントがいなけりゃおれを丸め込めるとか思ったのか、あぁん!?
確かに最近は落ち込んでばかりだったけれども、そこまで気弱じゃねーぞコラぁ!
ムッとしながらも無理やりキリッとした顔を作って言い切った。
「わたくしはお兄様の代理です。お兄様ならば成したであろうことを、わたくしがしない訳にはいきません」
「……強いね、カテリーネ様。オレが見誤ってたよ」
「いいえ、わたくしは強くありません。戦争も嫌です。人が傷つくもの嫌。……ですが、ここで立たねばただ民が不幸になるのを見ているだけとなってしまいます」
辛くて苦しいことばっかりだ。正直な話やってらんない。
それでも耐えて、やらなきゃいけないことがある。
皆の為に、お兄様の為に、……ヴァルムントと共にある為に、おれは乗り越えてみせる。
「国を、護るのです」