TS生贄娘は役割を遂行したい!   作:雲間

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できれば先に曇らせエンドを出したかったのですが、どうしても本編のネタバレになってしまうのと、本編後でないと説得力がないのでタイミングがここになりました。
曇らせスキーが沢山いらしたので責任取ります。
以降は曇らせの実質バッドエンド&尻切れトンボを読みたくない方はブラウザバックをお願いします。








不意読み防止の行。







☆★☆


IF
嘆きの龍


 

「お兄様」

 

 俺の目の前には、会うことがないと思っていた妹が手に何かを握りしめて俺を見ている。

 ヴァルムントの部下である2人が、カテリーネの要望でこの拠点に連れてきたのだ。

 

「お会いしとうございました」

 

 凪いだような美しい微笑みを浮かべるその顔は、真っ白い雪を通り越した肌色をしていて、いつか幼い頃に見た光景が浮かび上がってくる。

 傍で控えているヴァルは、当惑した表情でカテリーネのことを見つめていた。

 

「……何故、俺のことを知ってここに来たんだ?」

 

 カテリーネを連れてきた部下達は悪くない。

 どうしてか事情を知っているカテリーネから連れて行って欲しいと言われて、拒否はしにくいだろう。

 とはいえ、俺達としては知らないまま生きていてほしかったのだ。

 どうやって知ったのかを知りたいと思うのは当然だろう。

 しかしカテリーネは、俺の問いに首を振った。

 

「お話する時間がございません。……お兄様、これを」

 

 ずっと何かを握りしめていた手を、俺に差し出してくる。

 

 俺は、……受け取りたくないと思ってしまった。

 心臓の鼓動が体全体に伝わって、嫌な汗が止まらない。

 地面に立っている感覚が遠のいていき、自分が今両足で地面を踏みしめているのかさえ分からなくなってきた。

 

「……カテリーネ。それは……、なんだ?」

「わたくしが、……お兄様に、返さなければならない、ものです」

 

 ますますカテリーネの顔色が悪くなっていき、声も途切れ途切れになっていく。

 カテリーネは、差し出した手を徐々に開いていく。

 金属のかすれる音と共に、握っていたものの姿が露わになった。

 

 母上と最期にお会いした時に見た、あの、紅い光を放つ宝石がついたネックレスだ。

 

 俺は、この状態のネックレスしか見たことがない。

 しかし、紅い光を放っているのが効力を失ったものではないことくらい理解できる。

 

 カテリーネが差し出してきた手に、同じように手を差し出すことができずにいると、カテリーネの体がそのまま前へと倒れていく。

 とっさに感覚のない足を無理やり動かし、倒れゆくカテリーネの体を受け止めた。

 

「カテリーネッ!!」

 

 今受け止めたのは本当に人間の体なのだろうか。

 いくら細いとはいえ、全く人の体を受け止めた気がしない。

 抱きとめてカテリーネを見ると、ゆっくりとした呼吸で僅かに目を開くのが限界な様子だった。

 

「か、カテリーネ、お前は、どうして、それ、を」

 

 カテリーネは何も答えてくれない。

 返事代わりに俺へと柔らかく微笑むと、緩やかに、……その瞳を閉じた。

 

 

 体が、震える。

 

 

 俺の心が、熱く、苦しく、燃え上がっていく。

 痛みが広がっていき、体が悲鳴を上げている。

 

 

 優しく、けれど強くカテリーネを抱きしめてから、その手にあったネックレスを手に取った。

 

「……ヴァル」

「……っ、……はい。こちらに」

「カテリーネを、頼む。ダレにも、触れサセズ、安らかに……眠らせてやってクレ」

 

 ヴァルがカテリーネを受け取りやすい体勢に変える。

 近付いてきたヴァルが俺の顔を見て目を大きく見開いたが、すぐにカテリーネへ目線を移して瞳を揺らした後、慎重な手つきでカテリーネを受け取った。

 

「……、カテリーネ、様……っ」

 

 ヴァルはその体を傷つけないように、細心の注意を払いながらカテリーネを深く抱きしめる。

 俯いて見えない親友の顔は、見なくてもどんな顔をしているのか分かってしまった。

 

 

 俺達は、俺達が尽くしてきたものは、一体なんだったのだろうか。

 

 

 体が震えて止まらない。

 確かにネックレスを握っていたはずなのに、今はもう感触がない。

 

 拠点を出て、前へ進む。

 

 呼び止められるよりも早く。

 

 前へ進む。

 前へ進む。

 

 ひたすらに、前へ、前へ。

 

 もう、俺は、何を頑張ればよいのだろう。

 

 ふと気が付くと、俺の手が白い鱗でびっしりと覆われており、指先は角ばって爪が大きく伸びていた。

 足も同様に変化をしていたらしく、靴を内側から破壊して爪が飛び出している。

 

 ──ああ、なんだ。そういうことだったのか。

 

 思わず笑い声をあげたが、その声はひどくしゃがれて人の声とは言えないものになっていた。

 

 お前も同じだったんだな、黒龍。

 

 深い絶望を味わった成れの果て。

 どうにも抑えられない破滅的な衝動。

 

 その結果が、コレだ。

 

 俺は、──俺は。

 

 ひとつ、空へと咆哮をあげた。

 

 段々思考が、まとまらなくなってくる。

 もどることだけは、だめだ。

 

 破壊、しなければ。

 カテリーネに、知らせた、……何を?

 俺は、はかいを。

 

 爪が、つちをえぐる。

 つめが、くうをひきさく。

 せなかのつばさが、くうきをおしだし、からだが空へいく。

 

 おれは、こわさなきゃならない。

 なにかを、……なにを?

 もう、わからない。

 

 

 ぜんぶ、こわそう。

 

 

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