TS生贄娘は役割を遂行したい!   作:雲間

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V

 

 段々と『導き』が強くなっており、カテリーネ様に近づいている。

 ひたすらに歩いていっていると、開けた場所に辿り着いた。

 石造りの広場らしき場所は、精霊へ魔力を捧げる為に造られたものではないだろうか。

 そして広場の左側奥に、青い宝石のごとく煌めく素材で作られた屋敷が存在しているのが見えた。

 ここから見える屋敷の規模は、そこまで大きくないと推察できる。

 行くべきなのは屋敷だと導きから指し示されているが、その前に確認すべきことがあった。

 

「精霊がどこにいるか分かるか?」

「いえ、分かりません。全体に精霊の魔力が行き渡っているんです。ここから特定するには、集中して探らないと……」

「少なくとも、屋敷にはいないんじゃないですかねぇ。あちらからはそこまで精霊の強い魔力を感じないですし」

 

 精霊を対処しなければ、同じことが起きてしまう。

 先に居場所の特定だけでもしておきたかった。

 

「ぼくとブレンさんで探します。ですので、将軍はカテリーネ様をお迎えに行ってください!」

「そーですよ。早く行ってください」

 

 それでは2人が危険になった時に対処がしにくい。

 3人で屋敷に行きカテリーネ様をお迎えしてから探すべきだと思うのだが、……やたらと2人からの『行けという圧』が強い。

 一応の立場としては私が上にはなっているはずなのだが……。

 とはいえ、カテリーネ様のご安全を確保したいのも確かだ。

 覚悟の上で言ってくれているのだと信じて、この場を任せることにした。

 

「……分かった。危険を感じたらすぐに離れるんだ」

「命が一番ですよ。命をなくしたら研究もできないですからねえ」

「ぼく達のことはいいんです。将軍は早くカテリーネ様の元へ!」

 

 深く頷いてから、私は屋敷へと駆けていく。

 近づいていくにつれて見えた屋敷は、高純度の魔力で作られた物質で建てられたもののようだ。

 一体いつから建てられたものなのか、どうやって建てられたのか興味はあるものの、カテリーネ様を見つけるのが先決だ。

 辿り着いた屋敷の扉に手をかけたが、いくら取っ手を回しても動かない。

 どんなに力を込めても最初から回らない物であると言わんばかりに回らなかった。

 あまり壊したくなかったが、実力行使しかない。

 鞘から剣を抜き、心を落ち着かせてから構える。

 有り余っている魔力を剣に込め、渾身の一閃を放った。

 ガタン! と大きな音を立てて扉が斜めに半分となり、奥へと倒れていく。

 足を上げて屋敷の中へと入っていき、声を上げた。

 

「カテリーネ様! いらっしゃいますか!?」

 

 屋敷に入ると、青く冷たく見える素材からは想像できなかった室温に驚いた。

 雪山にある以上、雪が中にないだけの温度だと思っていたのだが、薪を焚いていない平地の温度くらいに思える。

 とはいっても寒いことには変わりない。

 導きは大きくなりすぎて、どこから発せられているのか分からなくなっている。

 早くカテリーネ様を見つけなくてはと屋敷の扉という扉を挙げて回ろうとした時、右奥から微かに声が聞こえた気がした。

 カテリーネ様を呼びながら廊下を走っていくと、今度は明瞭な声が耳に響く。

 

「ヴァルムント様……? こちらです!」

「カテリーネ様!!」

 

 カテリーネ様のお声が聞こえる扉まで辿り着き取手を回そうとするが、やはり動かない。

 玄関と同様の手口を取るべく、カテリーネ様に声をかける。

 

「扉が真正面にならない形でお下がりください。壊します」

 

 先程と同じ手順で扉を叩き切る。

 剣を鞘に収め、部屋の中へと踏み入れた。

 こちらの様子を窺っていたであろうカテリーネ様が、私へと駆け寄ってくる。

 

「ああ、よかった……。無事にヴァルムント様へ便りが伝わっていたのですね」

「カテリーネ様こそ、ご無事でなによりで……ッ!」

 

 カテリーネ様がいなくなったのは夜中であった故に致し方ないのだろうが、カテリーネ様は寝衣のままで私の目の前に現れた。

 毛布を肩に掛けてはいるが、それでは全く体を隠せていない。

 薄い生地から透けて見える肌に、大きく開いた首元と、……非常に、非常にまずい。

 急いで外套を脱ぎ、カテリーネ様へと羽織らせて一心不乱に前の留め具を留めていく。

 自分の顔が火照って仕方がなくなっているのを感じた。

 

「ひゃっ……! ま、待って下さい。わたくし毛布を羽織ったままですし、腕が……!」

「そっ、その服装のままでは寒さに対して不十分です! 毛布が中にあるのがよろしいかと!」

 

 本来は腕を通した方が良いのだろうが、私とカテリーネ様の体格には大きな差があり、羽織らせた外套が大きすぎて袖口まで届かないのが目に見えている。

 カテリーネ様に不自由を強いることになるが、体調を考えると譲れない。

 肌が……、肌が白を通り越して青くなっていて、相当体が冷えてしまったと思われる。

 大分体は良くなったと聞いてはいたが、再び体を壊すことになってはいけない。

 遅いかもしれないが、やらないよりはマシなはずだ。

 完全に留め終えてから改めてカテリーネ様を見ると、ほぼ外套で全身が覆われている中で、足元から裸足の爪先が見えた。

 

「失礼します!」

「えっ、あっ!」

 

 カテリーネ様を抱き上げ、ベッドへと座らせる。

 自分の手袋を外し、冷え切ってしまっているカテリーネ様の御御足を手に取ってから、手袋を靴下代わりに履かせ、ずり落ちない調整をした。

 ……細い。

 

「そこまでして頂かなくても、わたくしは大丈夫です。ヴァルムント様が寒くなってしまいます」

「私は問題ございません。冷気には慣れております。カテリーネ様は冷たさへの感覚が麻痺しているだけです」

 

 氷を扱う者が冷たさに弱いなどあってはならない。

 それに、冷気程度ならば魔力に変換して多少和らげることも可能だ。

 十二分に着込んでもいると説明をし、再び断りを入れてからカテリーネ様を抱き上げ、屋敷から出ていこうとする。

 

「あ、歩けます! 歩けますから……!」

「なりません。屋敷内ならまだしも、外は平坦な場所ではないのです。御御足を考えるとこうするのが一番です」

「ヴァルムント様……」

 

 カテリーネ様は、懇願するかのような表情で私を見つめてきた。

 ……致し方ないのだが、物凄く距離が近い。

 先程から熱さが止まらない顔が見苦しく映っていないか、心配になってきた。

 首を横に振って駄目だと意思表示をすると、カテリーネ様は外套の中で腕を動かし始める。

 袖へ腕を通し捲って手を出したかと思えば、私の頬に手のひらを当ててきた。

 

「ふふっ、温かいです」

 

 そう微笑むカテリーネ様を見て、顔が沸騰するほど熱くなるのを感じた。

 カテリーネ様はしばらく頬から暖をとった後に、腕を袖へと仕舞われてから私の首元に顔を埋めてくる。

 ……全身が爆発してしまいそうだった。

 

 

 屋敷から出ると、魔術師の2人は俯きながら広場の外側に沿って円を描く形で歩いていた。

 私には理屈が不明であるが、恐らく魔術に関する何かなのではないか。

 しかしながら不審者にしか見えず、近寄るのに躊躇しかけたのを抑えて広場へ歩いていく。

 

「ブレン、ヨシュア」

「あっ、将軍! 無事にカテリーネ様が見つかったんですね! よかったぁ……」

「で、キスでもしましたか?」

「ブレンッ! ふざけたことを言うな!!」

 

 不貞腐れた顔をされたが、これで怒らないわけがない。

 全くと溜息をついてから、カテリーネ様に2人を紹介した後に進捗を聞いていく。

 

「精霊は見つかったか?」

「いえ……。分からないんです。大きすぎて分からないというか……」

「ええっと、精霊様……は、そちらにいらっしゃいます」

 

 カテリーネ様が腕を伸ばして広場中央奥を指差したが、私にはただ雪の舞っている広場にしか見えない。

 魔術師の2人は目を細めて中央を見始め数秒後に、感嘆の声をあげる。

 

「よく見えましたねえ」

「今も普通に見えていますが……。一生懸命に、わたくしへ構って欲しい、わたくしの魔力が欲しいと訴えてきています。まるで子供みたいです」

「子供って。お姫様は恐ろしいことを言いますねえ、宮を雪で埋め尽くしたのはその精霊ですよ?」

「雪で埋め尽くした……?」

「雪だらけになっちゃって、みんなで埋もれてる人を助けて凍傷を治療したり、雪をどかすか溶かすかしてて大変だったんですよ〜」

 

 カテリーネ様は雪で埋まっていたことをご存じなかったらしく、2人から聞いた話に目を見開かれた。

 

「そ、そのようなことが起こっていたのですか……?」

「……ええ。ですがカールが奔走したので重傷者は少なく、すぐに治療もされております。カテリーネ様が帰還される頃には、全員回復しているはずです」

 

 重傷者はゲオフとリージーであるが、そこで名前を出してしまったらカテリーネ様の気が病んでしまうだろう。

 だから名前を出さなかったのだが、カテリーネ様は察してしまったらしく、口元を覆って絶句している。

 

「そんな……。わたくしはそうとも知らずに、この場でただ待っていただなんて」

「カテリーネ様は悪くないですよ! ぼくがカテリーネ様の立場でも多分そうなってましたし……」

「精霊の対処をしようだなんて無茶ですよ、お姫様」

 

 大した記録も残っておらず、どう行動するかも分からない精霊を相手にして完璧な対応ができることなどない。

 負い目を感じてしまうのは理解できるが、割り切っていただくしかなかった。

 居場所が特定できたのだ、精霊に納得してもらおうと、私と魔術師2人の魔力を捧げていこうとした時だ。

 

「許せません……。……精霊様! わたくしの魔力はもうあげません!」

「カテリーネ様!? いけません!」

「お姫様勢い良すぎですよ!?」

 

 精霊を怒らせる発言に驚愕して止めたのだが、カテリーネ様は眉を上げながら言葉を止めることをしなかった。

 

「いい子にして待てるのなら、わたくしの魔力をあげます。わたくしのお兄様も、きっと同じです。……できますか?」

 

 精霊が見られないので様子は分からないが、魔術師2人の反応を見るに上手くいっているのではないかと推察できる。

 カテリーネ様は何度か頷いてから、私の首元の布を引っ張った。

 

「今は皆さんの魔力で我慢すると言っています。魔力を渡すことはできますか?」

「え、ええ……。その為に参りましたので可能です。ブレン、ヨシュア、できるか?」

「はい!」

「経験とは糧です。最高ですねえ」

 

 ブレンの返事といえない返事が返ってきてから、2人は片膝を折って目を閉じ、自身の魔力を具現化させる。

 ヨシュアは緑、ブレンは赤と青の混じった色の魔力を放出させて広場の奥へと進めていく。

 精霊がいるとおぼしき場所まで辿り着くと、薄水色の光が辺りを照らし、2人の魔力を吸い込んでいった。

 私も捧げんと目を閉じ集中し始めた途端、何故かカテリーネ様が私の首に腕を回して抱きついてくる。

 

「かっ、カテリーネ様、何を!?」

「今のわたくしに魔力は殆どございませんが、多少は回復致しましたので共に魔力を乗せたいのです」

 

 あまりの密着具合に心臓が飛び跳ねた。

 魔力を私に乗せる必要はないはずなのだが、一刻も早く解放されたい私は言われるがままにカテリーネ様の魔力を『繋がり』から受け、目を閉じ一気に放出させていく。

 目を開くと、深い青にカテリーネ様のものと思われる薄い銀が混じった魔力が、カテリーネ様の案内によって真っ直ぐ精霊へと向かっていった。

 喜んでいるのか、薄い水色の光が何度か点滅し、瞬く間に私達の魔力が吸い込まれていく。

 やがて光は消え去り、降り続いていた雪が『強さを増していった』。

 

「えっ、ええーっ!?」

「まあ、魔力を渡したんですから元気になりますよねえ……」

「精霊様! いけません!」

 

 カテリーネ様が広場の奥へとお叱りの言葉を響かせた瞬間、降り注いでいた雪の強さが速攻でおさまる。

 あまりの変わり身の速さに面食らっていると、ブレンが呆れた様子でぼやきを入れた。

 

「好きな魔力を持つ人間に叱られて止めるだなんて、本当に子供みたいですねえ。これはこれで興味深いのでいいんですけれども」

 

 ああ、早く論文をまとめたい。

 そんなブレンの言葉が聞こえる中、事態が一旦収まったと見て、下山することを決めたのだった。

 

 

「カテリーネッ!!」

「お兄様!」

 

 山の麓まで辿り着くと、小屋があるのに外で待機されていたディートリッヒ様がいらっしゃった。

 魔導士達はディートリッヒ様が外にいるが故に小屋にいられなかったのだろう。

 それほどまでにディートリッヒ様が周囲への気遣いを忘れるほど、カテリーネ様への心配が勝っていた事実に、もっと早く戻れていればと感じることとなった。

 

 駆け寄ってきたディートリッヒ様にカテリーネ様をお渡しする。

 ……ずっと近くにあった温もりがなくなり喪失感を覚えたが、ディートリッヒ様の行動によってすぐにその気持ちは吹き飛んだ。

 

「カテリーネッ!! お、お兄ちゃん、お兄ちゃんお前のことを心配してッ、カテリーネー!!」

「お、お兄様……」

 

 心配のしすぎで、情緒がおかしくなられたようだ。

 カテリーネ様を思いっきり抱きしめ、回旋し始めたディートリッヒ様を止めに入るのだった。

 

 

 ◆

 

 

 かくして、雪の精霊による騒動は一件落着となった。

 雪による被害や、私が壊してしまった箇所の修理、エルフとの約束、今後精霊にどう対処していくかなど様々な問題も発生したが、国の一大事をおさめることができたのが何よりだと思うしかない。

 増えた問題に頭を悩ませる会議が終わった後、今日こそ訓練場へと向かおうとした矢先のことだ。

 

「ヴァルムント様」

 

 中庭にいらしたカテリーネ様が、私に気がついて微笑みながら軽く手を振ってきている。

 傍にはいろいろな意味で気負っている表情のカールが佇んでおり、前回は叱ったが今回は慰めてやることにした。

 カール自身は精一杯、自身のやるべきことを成したのだ。叱る必要などない。

 

 カテリーネ様に呼ばれているのかと思った私は中庭へと歩き出したのだが、途中であることに気がついて歩みを止める。

 カテリーネ様は私が足を止めたことを不思議に思われたのか、何度か瞬きをされた後に小首を傾げながら嬉しそうに微笑まれた。

 

 柔らかな春風が通っていく。

 私達の間を駆け抜け、草木を、髪を、揺らしていった。

 

 

 ──そう、私は気がついた。

 

 

 一歩、また一歩とカテリーネ様の元へと歩いていく。

 近づいて、しっかりと見えるカテリーネ様の笑顔は、あの時と変わらず美しい。

 

 

 私は、そんなカテリーネ様の笑顔が堪らなく好きで、どうしようもなく愛おしく感じるのだと。

 貴方の傍らで、その笑顔をずっと見ていたいのだと。

 

 

 自分の感情を理解した私は、カテリーネ様へ笑顔を返したのだった。

 

 

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