エルフ子育て記録 ~勇者と魔王の親権争いに巻き込まれたフリーター~   作:龍翠

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 その後、修司も一緒になって皆で一緒に帰宅する。まずは施設暮らしではない二人を家まで送り届けて、次に施設に帰り着いてからメルと一緒に出かける。給食を食べたばかりだというのに、外食にメルは大喜びだ。

 

「メル。何を食べたい?」

「はんばーぐ!」

「ふむ」

「ぽてと!」

「ん?」

「じゅーす!」

「メル? 狙って言ってないか?」

 

 まったく、と呆れながらメルの頭を撫でると、きゃー、とメルが逃げ出してアイリスの後ろに隠れた。そのことに何故かアイリスが慌てている。

 その二人を眺めながら、修司はさてと考える。どうやらメルはハンバーガーが食べたいらしい。ではどこに行くべきかと悩んだ修司が出した結論は、

 

「あいつのとこに行くか」

 

 

 

 修司は施設育ちで、兄弟が多い。皆と仲良くしていたが、その中でもある二人と特に親しく付き合っていた。遊ぶ時も何をする時でも常に一緒。高校進学からはそうでもなくなったが、中学卒業までは本当に一緒だった。

 そのうちの一人。料理の専門学校に通い、そして小さな喫茶店を経営している兄弟の店へと向かうことにする。

 

 施設から徒歩三十分。この近辺では比較的裕福な家庭が暮らす住宅街の一角に、その店はある。

 庭付き三階建ての、外装が木目に塗装された家。植木などがない、短い草だけの庭にはテーブルが三つほど並び、ここでも飲食ができるようになっている。この家の一階部分が喫茶店として使われている。

 ここにはかつて、施設を支援してくれていた老夫婦が住んでいた。子供のいない彼らは亡くなる前に、これらの家屋や財産を全て施設に寄付してくれたのだ。その老夫婦と特に仲が良かった修司たちがこの家を使っていいことになり、三人の相談の結果、これから会う兄弟が使うことになった。

 

「わあ……!」

 

 メルは庭を見て、とても興奮していた。きょろきょろと辺りを見回して、次に修司を見上げてくる。

 

「かわいいおうちだね!」

 

 素直な、子供っぽい感想に、修司は思わず噴き出した。

 

「そうだろ? 客もいないようだし、ちょっとぐらい走ってきてもいいぞ」

「わあい!」

 

 メルが庭を走り始める。なんだか絵になる光景だ。庭ではしゃぐメルを見ていると、修司も家が欲しいと思ってしまう。

 

「庭付きとなるとさらに金が足りないか……」

「ん?」

「いや、何でも」

 

 もう少しすれば夏になる。庭付きなら小さいビニールプールを買って、一緒に遊んだりとか。夢は広がるが金はない。現実とは辛いものだ。

 そんなことを考えていると、家のドアが開いた。顔を覗かせたのは、整った顔立ちの美青年。普段は笑顔を絶やさないのだが、今は少しだけ不機嫌そうな顔になっていた。

 

「うるさい! ここは遊び場じゃないって何度言えば分かるんだ!」

「ひゃあ!」

 

 メルがびくりと体を震わせ、一目散に逃げてくる。そして修司の背中に回り込むと、きゅっとしがみついてきた。

 

「ん? シュウ?」

 

 修司に気が付き、目を丸くする相手。修司は笑いながら手を上げる。

 

「よ。誠。久しぶり」

「ああ、うん。久しぶりだね。……そっちの子は?」

「俺の娘」

「……………」

 

 件の兄弟、誠は疑わしそうに目を細め、メルを見て、次にアイリスを見て首を傾げ、さらに修司へと視線を戻して。そうしてから、とても優しい笑顔を見せた。

 

「一緒に出頭しようか。付き合ってあげるよ」

「どういう意味だ」

 

 その軽口に、こいつは変わらないな、と修司は密かにため息をついた。

 

 

 

 ドアをくぐると、奥にカウンターがあり、そのさらに奥には厨房が見える。店内には丸テーブルが等間隔で並んでいて、そのどれもが木製のものだ。椅子ももちろん木製で、ちょっとしたこだわりが感じられる。

 

「何度来ても、いい店だよな」

「だろう?」

「問題があるとすれば、客がいないことかな」

「うるさいよ」

 

 現在、客は誰もいない。というのも実は当然で、月曜日は定休日だ。なら何故来たかと言えば、定休日だからこそ来たというのもある。さすがに営業中に来るのは邪魔になるだろう。

 もっとも、客としても何度か来たことはあるが、その時も客数は少なかった。これで経営は大丈夫なのかと聞けば、無理に決まってるじゃないかというもっともな言葉。この店は実質道楽のようなもので、生活費を稼ぐのは三階に住む最後の一人だ。とは言っても、店の維持ができる程度には稼いでいるそうだが。

 カウンター席に並んで座る。メルが真ん中に座り、その右隣に修司、左隣にアイリスが座った。

 

「まったく、営業時間外なんだけどね。それではお姫様、ご注文は?」

 

 誠がメルへとにこやかな笑顔で問いかける。メルはそれを見て、

 

「?」

 

 こてんと。首を傾げた。

 

「おい誠。完全に流されてるぞ。何言ってるんだろうこの人、みたいな反応だぞ。やばい、笑う」

「う、うるさいな! 言ってみたかっただけだよ! えっと、何が食べたいのかな?」

「はんばーがー!」

「…………。ここ、喫茶店……。いや、メニューに載せた僕が馬鹿だってのは分かってるけどさ」

「とびきり美味しいやつを頼むよ。メルにとってまずいものを食わせたら、ぶっ飛ばす」

「君、三ヶ月前に会った時から人が変わりすぎじゃない?」

 

 誠は苦笑すると、畏まりましたと丁寧なお辞儀をする。

 

「全員それでいいのかい?」

 

 誠の問いは主にアイリスに向けてのもののようだ。アイリスもそれが分かっているようで、しっかりと頷いて返事をした。

 

「ん。私もそれで」

「分かった。それじゃあ、少し待ってね」

 

 そう言うと、誠はカウンターの奥、厨房へと向かった。

 

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