エルフ子育て記録 ~勇者と魔王の親権争いに巻き込まれたフリーター~   作:龍翠

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 嫌な予感というものはよく当たるものだ。それをつくづく思い知らされた。

 魔王と邂逅してから一週間後の休日。月曜日。暇つぶしがてら散歩していた修司の前に、魔王が姿を現した。以前と同じ、黒いスーツ姿だ。

 修司が突然現れた魔王に困惑していると、その魔王が深く頭を下げてきた。修司が唖然としている間にも、魔王が言う。

 

「父上殿。先日は失礼した」

「…………。えー……」

「む。どうした?」

 

 以前とは違って、大人しい。あの荒っぽさが嘘のようだ。これはつまり、話し合いができると考えていいだろう。公園で待てば、メルもアイリスもそのうち来るはずだ。

 

「悪いけど、ちょっとメルとアイリスを待ってもいいか?」

「む。俺としては父上殿と二人で話をしたいと思っていたのだが……」

「ん? そうなのか?」

 

 それもいいかもしれない。アイリスはあの時の恐怖がまだあるだろうし、メルも魔王に対して警戒するはずだ。無論修司も警戒しているが、話ぐらいなら聞いてもいいかもしれないと思える。

 

「いや、そうもいかないようだな」

 

 だが、魔王自身が苦笑して首を振った。どうしたのかと思えば、

 

「おとうさん!」

「シュウ!」

 

 メルとアイリスが、道の奥から駆けてくるのが見えて、修司は頭を抱えたくなった。

 メルはまだ学校のはずなのに、と。

 

 

 

 学校へと電話すれば、やはりメルは何も言わずに飛び出してきたらしい。心配していた担任の先生に、メルを保護した旨を伝えて、謝罪をする。先生はこちらが分かるほどに安堵していて、本当に申し訳なく思ってしまった。

 今日はこのまま休ませることに了承をいただき、改めて修司は目の前の光景を受け入れるために視線を向けた。

 

「何をしにきたの、魔王」

「父上殿に挨拶をしにきただけだ。文句でもあるのか?」

 

 お互いに腕を組み、睨み合いながら言葉を交わす勇者と魔王。

 

「あ、あのね、おとうさん、あのね……。おこってる……?」

 

 緊張の面持ちでこちらを上目遣いで見つめるメル。

 修司が大きな、とても大きなため息をつくと、その場にいる三人が大きく肩を揺らした。

 まずは。

 

「メル」

「はい……」

「俺を心配してくれたのは分かるし、色々あった後だからな。今回は何も言わない。悪いと思ってるみたいだし、俺ももしメルがいきなり魔王と会ってると分かったら、仕事を放り出すと思う」

「うん……」

「でも先生もメルを心配してたからな。先生にはちゃんと謝るように」

 

 涙をためてこくりと頷くメルの頭を撫でて、次にアイリスと魔王へと視線を移す。

 

「とりあえず、アイリス。気持ちは分かるけど落ち着こう。魔王も煽るようなことは言わないでくれ」

「ん……。分かった」

「うむ。いいだろう」

 

 二人は頷くと、お互いに少し離れるように歩く。どちらにも歩み寄る気がないことに頭を抱えたくなるが、贅沢は言えまい。

 

「魔王。敵対の意志というか、攻撃とかしてくるつもりは?」

「皆無だ」

 

 即答だった。だがそれを聞いても、アイリスの警戒は緩まない。それとは逆に、メルは魔王を気にすることなく修司にくっついてきている。足にぎゅっとしがみついてくるメルはかわいい。

 

「それはまた……、どうしてだ?」

「俺が答えるまでもなく、勇者と愛し子なら分かると思うがな」

「と、言っているけど?」

 

 修司には分からないということは、異世界の人間特有の、おそらく魔力絡みのことだろう。メルを撫でつつアイリスを見れば、未だ魔王を睨み付けたまま頷いた。

 

「今の魔王は、私と同程度の魔力しかない。ここに来るための儀式を簡略化させたんだと思う」

「そうだ。仮に戦ったとしても、お互いに無事では済まない。そして頼る者もいないままにそのようなことになってみろ。俺は死ぬしかない。無駄死にするつもりはない」

 

 そこまで聞いて、アイリスはようやく力を抜いた。小さく安堵の吐息をつき、今度は面倒くさいというのが見て分かるほどに顔をしかめて魔王を見据える。

 

「じゃあ、何しに来たの、魔王」

「分かっているはずだろう、勇者。俺も愛し子を諦めたわけではない」

「つまり?」

「お前と同じだ。我が国の良い箇所を伝え、興味を持ってもらい、我が国に来て貰う。無論、俺の魅力も知って欲しい。俺の庇護下に入れば安全だぞ?」

「ああ……。つまりあれか、メルの養育権というか、親権というか、欲しいんだな……」

 

 立場と性別が違うだけで、どうやら勇者と魔王は同じ目的らしい。立場的に協力できないことが救いと言うべきだろうか。協力されたら少し厄介だったかもしれない。

 父が魔王、母が勇者、子供は愛し子。一家だけで世界征服できそうだ。

 魔王だけなら、相手をするのが面倒というのはあるが、アイリスほどではないだろう。アイリスのように、結婚してもいい、とか言われなくてすむ。

 

「……すむよな? 俺と結婚しろ、とか言わないよな?」

「そんな趣味はない! ……まて、勇者。言っているのか?」

「ん」

「おい……。手段ぐらい選んだらどうだ……」

 

 魔王が頭を抱えている。そうだろうそうだろう。自分の気持ちが少しでも分かる人物が増えて少しだけ嬉しい。

 

「手段ぐらい選べと言うけど、どうせ戻ったら王子と結婚させられるだけ」

「ああ……。人族の国ではそうだったな。うむ、ならその手段も納得できるか」

 

 どうやら修司の味方はいなかったらしい。落胆のため息をつくと、メルが首を傾げた。何でも無いと頭を撫でてやる。にへら、とメルが笑う。癒やしだ。

 

「父上殿。俺はさすがに結婚しろとは言わないがな。例えば、だ。俺の息子になるのはどうだ? もしくは、形式だけ愛し子を俺の娘として、我が国で暮らす。もちろん俺は干渉しない。そして不自由ない、贅沢な暮らしを約束しよう。どうだ?」

「不自由ない、贅沢な暮らし……」

 

 少し、少しだけ、心が揺れる。メルと一日中一緒にいられる。それは、とても良い生活だと思える。メルに気を遣わせることもなくなる。それは、いいかもしれない。

 

「それなら私も……! 誰かと結婚なんてしなくていい! 家と、安全と、贅沢もお金も全部用意する! 何か言ってくるやつは私が叩きのめす!」

「過激だな……」

 

 結婚なしなら、それもありかも。そうして心が動かされているのが分かるのだろう、勇者と魔王がさらなる提案をしようと口を開こうとして、

 

「おとうさん……。あのね、友達とお別れするのは、やだな……」

「よし分かった。お前ら帰れ」

 

 メルの上目遣いの言葉。もちろん最優先だ。異世界へのお引っ越しが関わる提案は全却下。メルの幸せが全てであり、何事よりも優先される。友達が大切、なんていい子だ。さすがは自分の娘。お引っ越しなんて考えは吹き飛んだ。あり得ない。

 

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