エルフ子育て記録 ~勇者と魔王の親権争いに巻き込まれたフリーター~   作:龍翠

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「やっぱり?」

「うん。もうあれとは会いたくない」

 

 あれは、だめです。もう母親と思うことなんてできません。できませんとも。

 だからこれは、お父さんと一緒に滑りたいな、とは思います。

 

「ん……。役者不足かもしれないけど、一緒に滑る?」

 

 おねえちゃんから予想のしていなかった提案がありました。周囲の片付けの様子を見ます。まだ少し、ほんの少しだけなら時間はありそうです。

 

「じゃあ、一回だけ……」

 

 メルがそう言うと、おねえちゃんはいつもの無表情ですが、しっかり頷いてくれました。

 おねえちゃんと一緒に滑った滑り台は、とても温かくて安心感のあるものでした、と付け加えておきます。

 

   ・・・・・

 

 階下からの多くの声に、修司は目を覚ました。時刻を確認すると、午後三時となっている。メルはもう帰ってきているだろうか。

 欠伸をしつつ、ベッドから抜け出て手早く着替える。いつもより早い起床時間になってしまっているが、今日は就寝時間も早くしたのでさほど問題はない。

 部屋を出て階段を下りる。声の元になっている食堂に入ると、真っ先にメルが気が付いた。

 

「おとうさん!」

 

 嬉しそうにこちらへと駆け寄ってくる。頬が緩むのを自覚するが、止めようとは思わない。メルを抱き留めて、だっこする。まだまだ軽い体だ。

 

「おかえり、メル」

「ただいま! おとうさんも、おはよう?」

「うん。おはよう」

 

 わしゃわしゃと撫でてやると、メルが楽しそうな声を上げて逃げようともがく。もう少し堪能していたかったが、またあとでいいかと放してやる。

 

「むう……」

「ん?」

「もっと」

「そうか」

 

 もう一度メルを抱き上げれば、メルはご満悦なようで満面の笑顔になった。甘えてくる愛娘がとてもかわいい。

 そして食堂内へと視線を戻し、修司は眉をひそめた。

 

「なんでアイリスとケイオスがいるんだ?」

 

 今日は遠足でメルがいないのは分かっていたはずだ。じっと二人を見ると、ケイオスが口を開いた。

 

「あー、なんだ、父上殿。我らはそこの通りでたまたま会ってな……」

「なるほど、それでついていったと」

「なぜ分かった!?」

 

 驚愕の表情を浮かべる魔王と、その隣で頭を抱える勇者。なかなか見られない光景だ。

 

「やっぱりか……」

 

 ケイオスが行ったのなら、間違い無くアイリスも一緒だっただろう。どちらかが行く、など考えられない。抜け駆けは許さないはずだ。

 

「ただの遠足でなんで行くかな……。俺が言うのもなんだけど、過保護すぎるぞ?」

 

 修司自身、自分はかなり過保護なほうだと思っている。だが、さすがに修司でも、学校行事である遠足について行こうとは思わない。学校側からしてもいい迷惑だろう。

 

「ん……。ごめん」

 

 素直にアイリスが頭を下げて、それに続いてケイオスも頭を下げる。修司は大きなため息をつくだけにしておいた。心配してくれていたのは事実なのだから、あまり責めても仕方ないだろう。

 

「で、何やってるの?」

「ん……。お菓子作り?」

 

 そう言ったアイリスの手元には、透明なボウルとそこに入れられた牛乳らしき白い液体。そして見覚えのある細長いパッケージ。

 なるほど、疑問系になったのもよく分かる。菓子作りと言えば菓子作りだが、やることはボウルに牛乳と専用の粉を入れて混ぜるだけという至極簡単なものだ。そうすると牛乳が少し固まって、スプーンで食べられる固さになる。ぷるぷるとしていて、多くの子供が大好きな菓子だ。

 

「あたしが持ってきたのよ。シュウも食べる?」

 

 そう聞いてきたのは職員の一人だ。彼女曰く、自宅にあった余り物らしい。人数分よりも多くあるそうなので、少し多く消費しても問題ないとのことだった。

 

「私がつくってあげる!」

 

 そう言って、メルが修司の腕の中から脱出する。突然なくなった温もりに内心寂しく思っていると、早速とばかりにメルが準備を始めた。ボウルに牛乳を入れて、まぜまぜ。これもある意味メルの手作り、ということになるかもしれない。単純に楽しみだ。

 修司がにこやかに笑っていると、呆れたような視線がいくつも感じられた。意味が分からない。

 少し待つと、メルが件の菓子を持ってきた。白いふわふわの中に果物の実も見える。昔はよく食べたものだ。

 

「いただきます」

 

 早速、スプーンでひとすくい。口に入れると、濃厚な甘みが広がった。昔から変わらない、そして飽きの来ない味だ。最近は食べてなかったためか、とても懐かしく思えてしまう。

 ふと見れば、メルがじっとこちらを見つめていた。何かを待っているように見える。少し考えて、そしてすぐに分かった。

 

「美味しいよ。メル」

 

 そう、笑顔で言う。するとメルは単純なもので、嬉しそうな笑顔になった。

 

「ほら、メル。おいで」

「わーい」

 

 再び定位置に、修司の膝の上に座る。修司がメルの目の前でスプーンを揺らせば、ぱくりとメルが食べる。ふにゃりと笑うメルはやはりかわいい。

 

「おいしいかー?」

「おいしいー」

「そっかー」

 

 メルの頭を撫でる修司と、嫌がるどころかもっと撫でろとばかりにすり寄るメル。誰もが呆れた表情だ。

 

「勇者。父上殿はいつもああなのか?」

「ん。今日はまし。多分まだ眠たいんだと思う」

「あれでましなのか……」

 

 自分の分を食べる魔王が少しばかり遠い目をしていたが、修司は気にしないことにした。

 メルがかわいいのが原因だ。そうに違いない。

 

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