エルフ子育て記録 ~勇者と魔王の親権争いに巻き込まれたフリーター~   作:龍翠

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28 ケイオス

 

   ・・・・・

 

 夜、施設からの帰り道。魔王は勇者と共に歩いています。本来なら敵対している関係ではありますが、憎み合っているわけでもありません。お互いの立場がそうさせているだけなのです。

 今のように戦うことができず、その必要もない状態なら、こうして雑談ぐらいはします。

 

「いやはや……。ここまでとはな。父上殿は愛し子を溺愛しているのだな」

「ん。メルもシュウが大好き」

「ああ。なるほどあれは確かに、愛し子だけを連れて行く、というのはできぬな。後々何が起こるか、想像もしたくない」

「ん。控えめに言って、国が滅びかねない」

「…………。冗談にならないのが、本当に恐ろしい……」

 

 今なら、勇者が何もせずにただ滞在している理由が分かる気がします。ただ単純に、どうしようもないからです。できることと言えば、旅行のようなもので勧誘したり、自国の良さを伝えることぐらいでしょう。

 今のところ効果はありませんが。

 

「やはり、愛し子の母親を利用するべきか? きっとあの子も、母が恋しくなるだろう」

「…………」

 

 魔王がそれを言った瞬間、勇者は立ち止まりました。魔王が振り返ると、苦々しい表情を浮かべた勇者がいます。魔王はゆっくりと目を細めました。

 

「そう言えば、貴様は愛し子の母親について触れなかった。何を知っている?」

「聞くととても不愉快になる」

「構わん。話せ」

「ん……。仕方ない。肉まんで手を打とう」

「がめついのか安いのかわからんな……」

 

 やれやれと首を振りながら、最寄りのコンビニに向かいます。コンビニの前では騒がしい集団、人間の子供たちがいました。本当にうるさいです。音楽を鳴らしていたり叫んでいたりと、阿呆の集まりでしょうか。

 

「珍しい。このコンビニがたまり場になるなんて」

「ふむ。そうなのか」

「ん。普段はシュウが追い返してるから」

「ということは、父上殿が働いている店か」

 

 普段なら関わるのも面倒なので無視しますが、恩を売っておくのも悪くはないでしょう。見ていると、女性の店員が注意しても怒鳴られているようです。この世界の人間は、本当に両極端だと思ってしまいます。

 

「貴様ら」

 

 魔王が声をかけます。集団が一斉に魔王を見て、それぞれが睨み付けてきて、

 

「不愉快だ。今すぐ失せろ」

 

 本当に不愉快だったので、ちょっぴりきつめの殺気をぶつけてみました。

 多くの子供たちが腰を抜かしました。中には地面に染みを作っている子までいます。情けない。父上殿なら、メルのためなら平気で自分に向かってきそうなものなのに。

 

「二度も言わせるな。失せろ。今すぐにだ」

 

 魔王がもう一度言うと、子供たちは慌てて逃げていきます。立てない者は必死になって這っていこう行こうとしますが、さすがに魔王もそこまで鬼ではありません。本音を言えば、連れて帰れと思わなくもないですが、すでに逃げてしまった後なので黙っておきます。

 

「ふむ。立てるようになるまで、隅で大人しくしていろ。それならば何も言わぬ」

 

 魔王がそう言うと、立てない子供たちは安堵のため息をついて頭を下げました。最初からやるなと言いたいところです。

 魔王はそのまま肉まん、一番値段の高い特選肉まんとやらを二つ購入して、一つを勇者に渡しました。そのまま二人で、駐車場の隅に移動します。

 

「ん。ありがと」

「構わん。さあ、話せ」

「ん」

 

 相変わらず口数が少ないやつだと内心で苦笑しながら、勇者の言葉を待ちます。

 

「読心の魔法、あるよね」

「ああ。禁忌指定ではあるが、俺も使える」

「私も使える。メルも、その習得のために練習をしていて、たまたま、近くにいたお母さんに使っちゃったらしい」

 

 何となく、魔王は察しました。これでも人間よりもずっと長く生きている魔王です。考えたくはありませんでしたが、考えられる可能性はあります。

 

「あの子は、知ってしまったの。お母さんが、自分のことを、全くと言っていいほど愛していないことに」

 

 そうして勇者が語ったものは。メルの、あの子の周りの事情は。魔王ですら反吐が出るものでした。

 

「なあ、勇者。エルフを滅ぼした方がよほど平和になるのではないか?」

「ん。私も思った。やっちゃう?」

「やっちゃうか?」

 

 真顔の二人。しばらく黙り込んでから、二人揃ってため息をつきました。

 

「現実的ではないか」

「ん……。残念」

「だが、ようやく理解した。なるほど、お前が愛し子を連れ帰ろうとしないわけだ。間違い無く、あの子が不幸になる」

「ん。私はメルのことを、あの親子を気に入ってる。だから、無理なことはしたくない」

 

 その勇者の言葉に、魔王は同意して頷きました。事情を知った今なら、魔王としても、あの子を連れ帰ろうとは思いません。

 ですが、それならなおさら。

 

「ならやはり俺の子にするべきだな。守ってやれる」

「む。私の子供の方がいい。友達ができやすい」

 

 今度は睨み合う二人。殺気がうずまいて、隅っこの大人しくしている子供たちが震え上がります。

 やがて二人は小さく肩をすくめて、踵を返しました。

 

「まあ、まだ先の話だ」

「ん……」

 

 それきり、二人は歩き出しました。違う方向へと。別れの挨拶はありません。そんな間柄でもありません。

 魔王は考えます。この先のことを。どうすれば、愛し子を、あの親子を手に入れることができるかを。

 考えて考えて。その結果、思い浮かんだことは、

 

「様子見だな」

 

 その結論に戻るだけでした。

 

   ・・・・・

 

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