エルフ子育て記録 ~勇者と魔王の親権争いに巻き込まれたフリーター~   作:龍翠

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 生徒たちが全員読み終わって、先生がまとめに説明をして。その後は給食の時間になる。ここからは保護者は自由参加だ。子供たちと一緒に食べる人もいれば、友達とのお話を邪魔しないようにと教室の外で待つ人もいる。仕事だからと帰る人もちらほらと。

 修司はと言えば、メルの隣に座らされた。一緒に食べてほしい、と言われたわけではないが、メルの表情からそう読み取った。実際に隣に座ってやれば、メルは嬉しそうに抱きついてきたので間違ってはいなかっただろう。

 

「メルちゃんはおとうさんのこと、大好きだよね」

 

 対面のなのちゃんが言って、メルは満面の笑顔で頷いた。

 

「うん! だいすき!」

「いやあ、羨ましいことですなあ」

 

 なのちゃんの隣に座る山田さんはにやにやしっぱなしだ。絶対に楽しんでいる。

 ただ、修司としても悪い気はしない。娘から慕われてるのは、素直に嬉しい。

 メルを撫でると、メルは照れくさそうに笑いながらくっついてきた。

 

 

 

 放課後。メルと一緒に施設への帰り道を歩く。少し後ろにはアイリスとケイオスも続く。勝手に来てしまった二人だが、メルがあまり怒っていないので修司も黙っておくことにした。二人が、少なからず反省している様子だったというのも理由にある。

 今はそんなことより、目先の予定の方が大切なのだ。

 

 目先の予定、つまりは、夏休み。

 もちろん学校は休みだが、修司は当然のように仕事がある。さすがにずっと一緒にいることはできない。だが、店長との交渉の結果、なんと一週間の休みをもらうことに成功している。無理させていないかと不安になったが、店長曰く夏休み期間は学生が出てくれるとのことだ。

 むしろ、子供を引き取ったという修司の事情を知った学生たちが、修司のために自分たちから頑張りますと言ってくれていたらしい。頭が上がらない。

 ともかく、せっかくもらえた一週間の休みだ。有効活用しなければならない。

 

「誠か奏あたりに、金借りるかな……」

 

 あまり良くないことではあるが、休みまでに金を用意することはできない。あの二人は遠慮するなと言ってくれるので、素直に頼ることにしよう。

 そう思っていたのだが。

 

「シュウ、お金が必要?」

「何をするつもりだ?」

 

 アイリスとケイオスが声をかけてきた。

 

「ああ。もうすぐメルが夏休みなんだ」

「夏休み?」

「ああ、そこからか……。まあ、なんだ。長い休みってことだよ。学生の特権だな。簡単に言ってしまえば、学校に行かなくてもいい日が続くってことだ」

「ほう……」

 

 二人が興味深そうに瞳を輝かせる。何故だろう、嫌な予感しかしない。

 

「余計なことするなよ?」

 

 念のため釘を刺しておくと、二人は揃って目を逸らした。不安でしかない。

 

「それよりも。お金は何に使うの?」

 

 あからさまに話題を戻してきたアイリスに疑わしげな視線を向けながら、修司が答える。

 

「ああ。キャンプでもどうかな、と思ってる」

「キャンプ!」

 

 これに反応したのは黙って話を聞いていたメルだ。瞳がきらきらしている。ものすごくきらきらしている。そのきらきらした瞳で修司を見つめてくる。これは、お金が足りないからなしだ、とは言えなくなった。

 

「キャンプ、とは確か野宿しに行くことだったな。人間は物好きだな」

「うん。身も蓋もないな。いやまあ、間違ってはないか……」

 

 確かによくよく考えてみれば、場所が用意されているとはいえ、やっていることは野宿と大差ない。だが、こうした文明の中で生きている修司たちにとっては、キャンプはちょっとしたイベントになる。

 

「いくらいるの?」

「あー……。調べてみないとちょっと分からないな。テントとかも買わないといけないし、交通費とかも……」

「テントも交通費も、どうにかなるよ」

 

 アイリスの言葉に、修司が首を傾げる。どういうことかと聞けば、

 

「場所さえ教えてくれれば、私が先に一人で行く。一人で行って、正確な距離や風景、その他諸々調べる。そうすると転移魔法が使える。交通費はこれで解決、一人分でいい」

「おお……」

「テントなら私が持ってきたものがある。この世界に来た当初に使っていただけで今はもう使ってないけど、問題ないはず」

「ほうほう……」

「勇者のテントは特別製だ。確か空間魔法で内部が拡張されているはずだ。快適だとは思うぞ?」

「ん……? なんで知ってるの?」

「何年か前にお前が自慢気に語っていたではないか」

「そうだっけ? ……そうだった気がする」

 

 改めて思う。異世界に生きてるな、と。いや、異世界の人間なのだから当然なのだが。内部が拡張されているテントなんてまさしくファンタジーだ。

 

「それ、俺も泊まっていいの……?」

「ん。そういう話だったはず」

「おー……」

 

 どうしよう。すごく嬉しい。修司だって男だ。巨大ロボにも憧れたこともあるし、異世界とかファンタジーとか、憧れないわけがない。魔法を使うことは諦めたが、異世界を身近に感じられる道具に反応しないわけがない。

 

「その代わり、私も一緒に行きたい……。だめ? だめなら、テントだけ、かすけど……」

 

 おねだりするかのように、上目遣いに聞いてくるアイリス。修司は思わず息を呑んだ。

 時折忘れそうになるが、アイリスは美少女だ。そんな美少女に上目遣いにお願いされると、二つ返事で頷きたくなる。事実、頷きかけた。

 だが。

 

「メル、どうする?」

 

 このキャンプはメルのためのキャンプだ。メルが否だと言えば、断るしかない。

 そしてそのメルは考える素振りもなく、すぐに答えた。

 

「一緒でもいいよ! みんな一緒! 楽しい!」

 

 娘がとても良い子。これは自分の育て方がいいに違いない。いや、あまり何もしていないが。

 

「ん……? みんなってことは……」

「俺もいいのか?」

 

 魔王が少しだけ驚いて聞いてくる。メルが頷くと、魔王は言葉に詰まっていた。隣ではアイリスが苦笑している。仕方ない、と。

 

「そうか……。なら、同行させてもらおう。俺は勇者のように多種多様な道具は持っていないからな。せめて食材は用意させてほしい。父上殿、必要な食材を考えておいてくれ」

「ああ、うん。いいのか?」

「構わん。ただし料理はできんぞ」

「ん……。なら料理は任せて。職員さんに色々教わってるから」

 

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