エルフ子育て記録 ~勇者と魔王の親権争いに巻き込まれたフリーター~   作:龍翠

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 あっという間に時間が流れて。ついにキャンプ当日となった。施設の庭で、修司は持ち物を確認する。もっとも、今この場にいる誰も、何も持っていないのだが。

 

「アイリス。本当に大丈夫なんだよな……?」

「ん。全部持ってる。大丈夫」

 

 不安そうな修司の声に、アイリスはいつもの無表情で頷く。

 今回のキャンプでは、アイリスが全ての荷物を預かってくれている。重いだろうと思ったのだが、驚いたことにアイリスは預かった荷物を全てどこかへと消してしまったのだ。だがこれに驚いたのは修司だけであり、メルもケイオスも平然としていた。

 アイリス曰く、自分専用の空間を作り、そこから荷物を出し入れする空間魔法の一種、とのことだが、当然ながら修司にはよく分からない。だがメルも驚いていないことから察するに、あちらでは一般的な魔法なのかもしれない。

 

「準備はもういい?」

 

 アイリスが聞いて、修司は未だに不安そうにしながらも頷いた。

 

「ああ。荷物が大丈夫なら、いいよ。院長には十分ほど庭に誰も来ないようにお願いしたから、見られる心配もない」

「ん。ならいいね」

 

 アイリスは頷くと、では、と目を閉じた。釣られて修司も目を閉じる。そして。

 

「てんいー」

 

 そんな気が抜けそうな声の直後、不思議な浮遊感に襲われた。慌てる間もなく、すぐに足が地面につく。恐る恐る目を開けてみれば、そこは施設の庭などではなく、見慣れない森の中だった。

 

「到着」

「とうちゃく!」

 

 アイリスに続いて、メルが楽しそうに叫ぶ。

 

「ふむ。ただの森だな。さて、父上殿。我らはどこに向かえばいい?」

「え? あ、ああ……。アイリス。とりあえずキャンプ場の入口はどっちだ?」

 

 修司に問われたアイリスは、こっちだよとすぐに案内を始めた。

 

 

 

 アイリスの案内に従って歩くこと五分。人の手入れがされた広場にたどり着くことができた。多くの車があるので、どうやら駐車場らしい。駐車場の奥には小さなログハウスがある。そこが受付のようだ。

 

「じゃあ、俺は場所を聞いてくるから。そうだな、人の目がないうちに荷物を出しておいてくれるか? 一般の人に見られるわけにはいかないから」

「ん。了解」

「なら俺はそれらの荷物を運ぶとしようか」

 

 引き受けてくれたアイリスとケイオスを残し、修司はログハウスへと向かう。もちろんメルも一緒だ。何も言わなくてもついてきた。上目遣いに見てきたので、笑いながら手を握ってやると、すぐに満面の笑顔になった。

 ログハウスの扉を開けると、よくある事務所のような造りになっていた。男と女が一人ずつ、パソコンで何かの作業をしている。女が修司に気が付くと、笑顔を浮かべて立ち上がった。

 

「いらっしゃいませ。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「はい。霧崎、で予約を取らせていただいたのですが」

 

 霧崎様ですね、と女がファイルを取り出してめくり始める。

 

「霧崎様、霧崎様……。ああ、ありました。ご要望が川に近い場所、ということでその通りにご用意させていただきました。こちらでいかがですか?」

 

 そう言って地図を見せてくれる。メルも見たがったので、メルを抱きかかえてから確認する。

 このキャンプ場は川を挟んで二つのエリアから作られている。ログハウスの向こう側がキャンプ場となっていて、修司たちは川の西側のエリアだった。エリアはさらに中央の道で区切られており、その川側の区画の一つが修司たちに用意された場所のようだ。

 

「川は深くはないですが、小さな谷になっています。大人の身長程度の深さなので大丈夫だとは思いますが、お子様にはお気をつけください」

「分かりました。ありがとうございます」

 

 地図を受け取って、ログハウスを出る。すでにケイオスは荷物を持って待っていた。大量の箱やテントだろう布など、全てを器用に持っている。

 

「すごいな……」

 

 思わず修司がつぶやくと、ケイオスは苦笑して、

 

「魔法で少し支えている。さすがに多いからな」

「ああ、なるほど」

 

 アイリスとケイオスを連れて、ログハウスの向こう側へ。

 地図の通りに広場になっており、夏休みとはいえ平日のためか、テントの数は思ったほど多くはなかった。休みになれば、もっと増えるのかもしれない。

 

「奥にも家があるな。あれはなんだ?」

「ん? えっと……。地図にはシャワー室ってあるな」

 

 利用時間は決められているようだが、シャワーがあるのは助かるというものだ。修司はキャンプの間ぐらい、それこそ川にでも入ればいいかと思っていたが、女の子はそうはいかないだろう。アイリスへと視線を向ければ、少しだけ嬉しそうに見えた。いつもの無表情なのでそんな気がするだけだ。

 割り当てられた区画へと向かい、ケイオスが荷物を下ろす。早速とばかりにアイリスがテントの組み立てを始める。

 

「何か手伝おうか?」

 

 修司が声をかけると、アイリスは勢いよく首を振った。

 

「魔法を使いながら組み立てるから、何もしないでほしい」

「そ、そうか……」

 

 仕方なく、アイリスが手際よく組み立てていくのをメルと一緒に見守る。メルはその様子を見て目を輝かせている。計画が決まった日からずっと楽しみにしているようだったので、仕方ないのかもしれない。

 しばらくして、テントが組み上がった。薄い青色を基調としたテントで、見た目はあまり大きくない。小さな個人用ほど小さくもないが、大人二人が横になるのがぎりぎりだろう、という程度の大きさだ。

 アイリスがテントの中をのぞき込み、満足そうに一度だけ頷いてこちらへと振り返った。

 

「いいよ」

 

 待ってましたとばかりにメルがテントへと走って行く。修司と魔王がそれに続く。

 

「おとうさん、はやく!」

「分かってるよ」

 

 急かしてくるメルに苦笑しつつ、靴を脱いでテントの中へ。そして、絶句した。

 

「ええ……」

 

 中は見た目では考えられないほどに広くなっていた。あの施設の食堂程度の広さは十分にある。今メルがやっているように、走り回ることすらできる広さだ。

 空間魔法で拡張する、とは確かに聞いていたが、これほどとは思わなかった。まさにファンタジーだ。

 

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