エルフ子育て記録 ~勇者と魔王の親権争いに巻き込まれたフリーター~   作:龍翠

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幕間 勇者のお仕事2

「おとうさん! おねえちゃんかわいかったね!」

「うん。そうだな。いつもと印象が違うから特に」

 

 アイリスは服装については適当な時が多いです。色は日によって異なりますが、フードつきのパーカーにズボンという姿が九割を占めます。九割九分を占めます。残りの一分はごく稀にある鎧姿の完全武装です。それを除けば十割パーカーです。

 おしゃれをしないのかと、修司だけでなく施設の職員にも聞かれたことがありますが、アイリスの反応は不思議そうに首を傾げる、というものでした。後にケイオスから聞いた話では、おそらく訓練ばかりしているせいで、そういったことに意識が向かないのだろう、ということでした。

 なので、パーカーではない、仕事上とはいえおしゃれをしているアイリスは、印象ががらりと変わりました。率直に言えば。

 

「うん。まあ、やっぱりアイリスは普通にかわいいよな」

「うん! おねえちゃんかわいい!」

「だよなあ。普段からもっと何かすればいいのに」

 

 言いながらケイオスを見れば、何故かにやにやと意地の悪い笑顔を浮かべています。まさかと思って振り返ってみますが、アイリスの姿がある、ということもありませんでした。お決まりのパターンではなかったようです。

 

「おとうさん! 美味しくなるおまじないってやってくれるのかな!」

「どこで覚えたんだそんなもの」

「あそこでやってるよ?」

「うん。アイリスには頼まないでおこうな? そろそろあいつ、羞恥で死ぬぞ?」

 

   ・・・・・

 

 その頃、厨房では。

 

「…………」

「あら? アイリスさん、どうしたの? そんなところで固まって。顔真っ赤じゃない。風邪?」

「ん……。大丈夫、です、店長」

「そう。じゃああのテーブルのオムライス、よろしくね。おいしくなる魔法も、ね」

「え」

 

 風の魔法で会話を聞いていたせいでしばらくフリーズしていましたが、店長から無情に告げられた宣告にさらに固まってしまうことになりました。

 

   ・・・・・

 

 夜。メルを施設まで送り届けて寝かしつけた後、修司は聞き出しておいた終業時間に先ほどの店に向かいました。お疲れ様でした、と元気なく告げて外に出てくるアイリスを出迎えます。

 

「おつかれ」

「…………」

 

 アイリスが凍り付きました。

 

「家まで送るよ」

「…………。ん……」

 

 修司が歩き始めると、アイリスは素直にその後を着いてきます。

 静かな夜道を、二人無言で歩きます。どちらも口を開かずに、気持ちゆっくり歩きます。

 しばらく歩き続けて、先に修司が口を開きました。

 

「その、なんだ。悪かった。急に行くべきじゃなかったよな」

 

 修司の言葉を聞いて、アイリスが歩みを止めました。そちらへと振り返ると、アイリスは微苦笑を浮かべていました。

 

「どうせ、ケイオスが何も言わずに連れてきたと思ってる」

「あー……。うん。その通りだけどね。それでも、気付いたらすぐに帰るべきだったと思うし」

「まあ、いいよ。必死になって隠したかったわけでもないから」

 

 曰く、何となく気恥ずかしかったから、とのことです。どうしてかと聞けば、さあ、と目を逸らされました。

 

「とりあえず、まあ今後は行かないようにするからさ。メルにせがまれたら、抵抗できないけど」

「別に気にしなくていい。そこまで嫌、というわけでもないから」

「そうなのか?」

「ん」

 

 小さく頷くアイリス。どうやら本当に、そこまで気にしていないようです。それなら、たまには利用させてもらうとしましょう。

 

「まあ、俺一人であそこは恥ずかしいけどな」

「ん? 一人で来る人も多い」

「俺にそっちの趣味はないからなあ……」

 

 誰かに勧められれば深夜アニメを見ることだってありますが、自分から見ることはあまりありません。特に最近は起きている時はメルと一緒にいることが多いため、さらに見る機会が減りました。その代わりに、日曜日の子供向けのアニメを見ることは多くなりましたが。もちろんメルと一緒に、です。

 ちなみにメルと一緒にアニメを見ていると、メルの感想に変な魔法、というものがあります。リアル魔法少女なメルが言うと説得力が段違いです。曰く、魔法法則を無視しているとか。なんだ魔法法則って。

 

「ん……。私は気にしないから、シュウ一人でも来るといい。メルが学校の時とか」

「あー……。そうだな。どうせ暇だし、たまには行くよ」

「ん。待ってる」

 

 頷いたアイリスはいつもの無表情。ですが、そこからかすかに喜びの感情が見て取れます。何となく修司もアイリスの表情が分かるようになってきました。たまに外れているようですが。

 再び歩き始めます。アイリスの家へと、のんびりと。

 そうして歩き続けて、やがてアイリスの住むマンションにたどり着きました。

 

「シュウ。施設まで送らなくていい?」

「いや、ここまで来た意味なくなるだろ。いいよ、俺にだってちょっとは男としてのプライドがあるんだ」

「ん……。喧嘩してみる?」

「死ぬ未来しか見えないので勘弁してください」

 

 アイリス、だけでなく例えメル相手だろうと本気で暴力ありきの喧嘩をすれば負ける未来しかありません。魔法は卑怯です。身体能力向上の魔法とか端から見るだけでは分からないので特にひどいと思います。

 

「ふふ。冗談、だよ」

 

 そう言って、アイリスが楽しそうに笑いました。

 

「…………」

「ん? なに?」

「いや。うん。やっぱりアイリスはかわいいと思うよ。久しぶりに笑顔を見たけど、うん、その、なんだ。改めてそう思った」

「……っ!」

 

 瞬間、アイリスの顔が真っ赤になりました。どうしたのかと訝しむ修司に、アイリスは踵を返してしまいました。そのままアイリスが言います。

 

「おやすみ」

「ああ、うん。おやすみ」

 

 アイリスがマンションへと走って行きます。見送るシュウへと、最後にアイリスが振り返って、

 

「シュウ」

「ん?」

「その……。ありがと」

 

 笑顔でそう言って、今度こそマンションの中へと消えました。

 

「あー……。うん。やばい恥ずかしい」

 

 余計なことを言ったような気はしますが、まあ、いいでしょう。修司は熱くなった顔を誰にも見られないように、足早にその場を後にしました。さっさと寝てしまうに限ります。なかなか本当に、臭いセリフだったと思いますから。

 それでも、誓って言いますが、一応全て本音で言ったつもりです。

 

「あー……。あー!」

 

 とりあえず。穴があったら入りたい。そう思いました。

 

 

 

 その日の夜。

「死ね」

「うおおぉぉ!?」

 白銀の剣を持つ白い少女が巨躯の男を追いかけていたそうですが、修司もメルも気付くことはありませんでした。

 

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