エルフ子育て記録 ~勇者と魔王の親権争いに巻き込まれたフリーター~   作:龍翠

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44 海

 照りつける太陽。広い砂浜。大勢の海水浴客。そう、ここは。

 

「うーみーだー!」

「だー!」

 

 両手を上げて叫ぶ父親と楽しそうに追随する娘。その後ろでは、アイリスがせっせとパラソルを組み立てている。

 

「ん。魔王。シートは?」

「ここにあるぞ。広げるか?」

「ん」

 

 それを手伝うのはケイオスだ。元の世界では考えられないほどに協力的である。

 さすがにアイリスに全ての準備をさせるわけにはいかないと修司も思ったのだが、そこはいつものようにアイリスが固辞した。曰く、これぐらいしかできないから、と。それに、と続けられた言葉に修司の心はべっきりと折られている。

 何を言われたかと言えば、単純に、

 私の方が力が強いから。

 

 無論アイリスに他意はない。純粋に事実を言ったまでであり、この世界では制限があるものの、魔力で強化されている異世界組に修司が勝てるはずもないのは分かりきっている。それでもやはり、少しぐらいは修司にも男としてのプライドがあったのだ。今はもう、折られたが。

 なお、これを隣で聞いていたケイオスは、ものすごく同情的な視線を修司に向けていた。放っておいてほしい。

 それに、純粋にメルと遊ぶ時間が増えるのはいいことだ。そう思うことにした。

 

「さて、メル! 泳ぐぞ!」

「どうやって?」

 

 首を傾げるメルと固まる修司。見かねたアイリスが言う。

 

「シュウ。エルフは世界樹の守護者。森の民。泳ぐことがないから、泳ぎ方も知らない。さすがにこれだけ人が多いと、魔法も使えないから浮くこともできない」

「あー……。そっか……」

 

 確かに、キャンプの時に見た泳ぎ方は修司の目から見ても違和感があった。これだけ人目が多いと、何かしら騒ぎになる原因になるかもしれない。溺れていると捉えられるかもしれないし、何よりスマホなどで撮影されかねない。間違い無く面倒事になる。

 余談だが、メルの学校では一年生にはまだ泳ぎ方を教えておらず、レクリエーションに費やされている。まずは水は怖くないもの、と教え込むらしい。そのあたりは学校に任せているので修司としても文句はない。なかったが、少しだけ予想外だ。

 

「おとうさん。泳ぎ方、教えてくれる?」

 

 上目遣いで聞いてくるメルに、修司は笑いながら頷いた。

 

「ああ、もちろん。でもまた今度な。今日は、そうだな。砂の城でも作ろうか」

「おしろ! 作る!」

 

 メルは嬉しそうに頷くと、早速海へと走って行く。修司は慌ててそれを追いかける。

 

「いってらっしゃい、シュウ」

 

 手を振るアイリスに、おう、と修司は片手を上げて応えた。

 

   ・・・・・

 

 海へと向かった親子を見送って、アイリスは砂浜に敷いたシートに座りました。体を動かすことは以前からずっとしているので、今日はのんびりと読書でもしようと思っています。

 

「お前は行かないのか?」

 

 魔王がそう聞いてきたので、アイリスは視線を上げずに頷きました。

 

「ん。親子水入らずの邪魔はしたくない」

「あの二人なら気にしないと思うがな」

 

 そう言って、二人とも黙りました。時折アイリスがページを捲る音だけが聞こえてきます。

 もちろん周囲の喧噪はありますが、そんなものは最初から意識から追い出しています。今現在、アイリスが意識しているのは親子二人の動きとその周囲、そして自分の周囲の動向だけです。もちろんこれは、メルが溺れる等の緊急事態があれば、すぐに対処できるようにするためとなります。

 もっとも、愛し子であるメルが溺れるとは思えませんが。その前に神が何かしらの干渉をするはずです。

 

「魔王は行かないの?」

 

 事前に買っておいた文庫本を読みながらのアイリスの問いに、魔王は苦笑しつつ頷きました。

 

「ああ。できれば程度、と前置きはあったが、頼まれたからな」

「なにを?」

「変な輩がアイリスに言い寄ってきたら対応してくれ、と」

 

 アイリスの動きが止まりました。ゆっくりと、魔王へと視線を向けます。魔王はどこか面白いものを見るような視線でアイリスを見つめていました。

 

「シュウは何を心配しているの……?」

「さてな。貴様はそれでも一応女だろう」

「一応は余計」

「おっと」

 

 アイリスが側に置いていた水筒を投げつけて、魔王がそれを危なげなくキャッチしました。そのまま元の場所に戻されます。その行動一つ一つがいちいちかんに障ります、

 

「理不尽だな」

「うるさい」

 

 鼻を鳴らして、アイリスは読書に戻ります。ケイオスは肩をすくめて、こちらもどこからか小さな本を取り出しました。

 

   ・・・・・

 

 四人が海に来ることになった理由。それは一週間前のことだ。

 八月に入ってからの初めての休み。修司はメルを連れて商店街に買い物に来ていた。メルと一緒に商店街に来るのは初めてというわけでもなく、何度か来ている。それでも頻度は多くなく、片手の指で数えられる程度の回数だ。

 それだというのに、メルは有名になっていた。それも当然だろう、金髪の、どう見ても外国人にしか見えない子がちょこちょこ走り回っているのだから。修司との会話も聞かれたりしていて、日本語を流暢に話せることにも驚かれていたようだ。

 

 そのおかげか分からないが、よくおまけしてもらえるようになっている。お使いでお肉を買いに行けばコロッケをもらい、花壇の花を買えば花の種をもらったり。ちょっとしたアイドルのようだ。

 今日は魚屋で魚を買ったのだが、町内会主催の福引きをしているらしく、その福引き券をもらうことができた。購入額は少し満たなかったらしいが、おまけとして一回分だ。

 

「おとうさん、福引きってなに?」

「あー……。見た方が早いかな」

 

 下手な説明をするよりも実際に見た方が早いだろう。そう考えて、早速福引きの会場へと向かう。会場と言っても、商店街の隅で折りたたみのテーブルで行われているだけなのだが。

 福引きはなかなか盛況のようで、多くの人が集まっていた。ガラガラと音が聞こえてくる。

 

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