エルフ子育て記録 ~勇者と魔王の親権争いに巻き込まれたフリーター~   作:龍翠

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 アイリスとケイオスは少し距離を空けて読書をしていた。その周囲を、見るからに軽薄そうな男たちが囲んでいる。声をかけようかどうか、迷っているらしい。行動に踏み切らないのは、ケイオスを警戒してのようだ。どうやらケイオスはしっかりと仕事をこなしてくれていたらしい。

 

「失礼。通るよ」

 

 男たちに声をかけると、鬱陶しそうな視線を向けられてしまった。いや、違う。それだけでなく、これは抜け駆けするなという視線だ。

 きっとこの男たちは修司がアイリスの関係者だと知らないのだろう。修司は肩をすくめて、仕方なく声をかけることにした。

 

「アイリス!」

 

 修司が呼ぶと、アイリスが顔を上げた。そして訝しげに目を細める。アイリスから見れば、何故か男たちが周りに集まっていて、それに修司とメルがまざっているという状況だ。きっと意味が分からないだろう。

 しかも、これは推測だが、アイリスは自己評価がさほど高くない。戦闘方面では勇者としての力を使えるからと相応に自己評価も高いが、その反面、例えば外見などを含めた部分では何故か低くなっているような気がする。

 つまりは、アイリスはこの男たちが自分目当てだという考えに至らないということだ。

 それどころか。

 

「どうしたの、シュウ。誰そいつら。絡まれてるの?」

 

 斜め上方向への勘違いをする始末だ。側ではケイオスが俯いて肩を震わせている。笑っていないで手伝ってほしいものなのだが。

 

「いやいや、違うから。悪いけど、その子、俺の連れなんだ。通してくれ」

 

 後半は集まっていた男たちに向けたものだ。男たちはあからさまに落胆すると、大人しく立ち去っていった。物わかりが良くて助かる。もっとも、大柄なケイオスが睨みをきかせているからかもしれないが。

 

「おねえちゃん、お水ある?」

 

 とてとて、メルがアイリスへと走って行く。怪訝そうにしていたアイリスはすぐに頬を緩めると、メルの体を抱き留めた。

 

「ん。あるよ。ジュースもある。何がいい?」

「こーひーぎゅーにゅー!」

「!?」

 

 愕然とするアイリスと、にこにこ笑顔のメル。途端にアイリスが助けを求めるように修司へと視線を投げてくる。どうやら珈琲牛乳までは用意してなかったらしい。

 

「メル。おねえちゃんを困らせるな」

 

 メルの頭を軽く、本当に軽く叩きながら言うと、えへ、と笑いながら舌を出した。あざとい。実にあざとい。どこで覚えてきたのやら。

 

「おねえちゃん、オレンジジュースがいい!」

「そ、そう? ごめんね、用意してなくて。次は持ってくるからね?」

「え!? あ、まって違うのおねえちゃん、じょうだんだから……!」

 

 申し訳なさそうに眉尻を下げるアイリスと、それに慌てるメル。とりあえずメルは少し反省するべきだ。

 改めて小さい紙パックのオレンジジュースを出してもらったメルは、ストローをさして飲み始めた。とても美味しそうに飲んでいる。

 ちなみにアイリスは小さいポーチからジュースを取り出しているのだが、ジュースだけでなく他のものを取り出す時もこのポーチを使っている。つまりはポーチから取り出しているふりをしているだけで、例の空間魔法を使っているとのことだった。

 

「海はもう終わり?」

 

 アイリスが聞いて、修司が答える。

 

「いや、ちょっと休憩なだけ。まだまだ遊ぶよな?」

「あそぶ!」

 

 メルの元気な返事に、修司は一度だけ頷いた。まだ来たところなのだ、海に来れる機会は少ないのでしっかりと遊んでほしい。

 

「おねえちゃんは?」

 

 メルがアイリスへと聞くと、アイリスは少しだけ言葉に詰まったようだった。

 

「メル、私は……」

「一緒に遊ぼう?」

「ん……。分かった」

 

 仕方ない、といった様子でアイリスが立ち上がる。だが何となくではあるが、修司にはアイリスが喜んでいるのが分かった。どうやらアイリスも、遊びたいとは思っていたようだ。

 

「ということは、気を遣わせていたか?」

 

 修司がつぶやくと、ケイオスが頷いた。

 

「親子水入らずの邪魔はしたくない、と言っていたぞ」

「案の定だな……。ケイオスはどうする?」

「荷物番でもしておこう。用があれば声をかけてくれ」

「了解。そっちも遊びたくなったら言ってくれ」

「俺は父上殿たちほど若くはないからな」

 

 体力が無い、ということではなく、遊び回る年でもないと言いたいのだろう。そういうものかな、と肩をすくめて、メルたちへと視線を戻す。ちょうど二人で海に向かうところだった。

 

「おとうさーん!」

「すぐ行く!」

 

 本当に、子供はこういう時はいつも元気だ。修司は苦笑しつつ、メルたちを追った。

 

 

 

 少しずつ日が沈み始める。いつの間にか周囲も赤く染まりつつある。随分と長く遊んだものだな、と思いながら、メルを見る。

 

「まてー!」

「またないよー!」

 

 いつの間にか、本当にいつの間にか、他の観光客の子供たちと仲良くなっており、何故か子供たちの間で鬼ごっこが始まっていた。今はメルが鬼で、数人の男の子を追いかけている。

 ちなみに我らが勇者様はと言えば、パラソルの場所で倒れていた。疲れ果てたらしい。どうやらさすがの勇者も、子供の無尽蔵とも思える体力には勝てなかったようだ。

 かく言う修司も、すでに体力は底を突いている。今はのんびりと鬼ごっこの様子を眺めている。

 

「だらしがないな」

 

 そんな修司の隣にケイオスが立った。特に何もしていないケイオスは今も元気そうだ。

 

「なら明日はしっかりとメルと遊んでくれ。休憩は認めない。朝から夕方までつきっきりだ」

「それは……。謝罪しよう。俺も少々厳しい」

 

 あっさりと掌を返した。気持ちは分かる。分かるからこそ言ったのだが。

 そのままメルたちを見守っていると、やがて一人、また一人と帰っていく。残り三人になったところで、ここで解散ということになったようだ。メルが大きく手を振ってから、こちらへと駆けてきた。

 

「おとうさん!」

「うん。おかえり」

 

 抱きついてきたメルを撫でながら、さて、とアイリスの方へと向かう。アイリスも体を起こしてこちらを見ていた。メルが、今度はアイリスの方へと駆けていく。

 

「おねえちゃん!」

「ん……。楽しかった?」

「うん!」

 

 嬉しそうなメルと、微かに頬を緩ませるアイリス。やはりこの二人が並んでいると、ちょっとした絵になると思う。

 

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